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第百八十二話

 俺が師匠と交渉して鉄材を調達した翌日の夕方、仮称戦車は見事に生まれ変わった。

 仮称戦車の調整というより、大改造に携わったのはローゲンさんとライアン。

 俺とガヌはその間、蜘蛛の捕獲に村中の畑を走り回ったり、料理をしていたので仮称戦車にはほぼ関わっていない。

 ほぼ、というのは板バネの代用品としてスプリングの製作を提案したことを指す。

 しかし、針金を螺旋状に巻いてスプリングを作ろうという試みは悉く失敗に終わった。その主な理由は、鉄材の質に因るものなのだが。

 硬すぎて木の棒に巻き付ける段階でポキッと折れてしまったり、逆に柔らかすぎて変形したまま元に戻らないものしか出来なかったのだ。

 粘りのある丁度良い材質の金属が存在しなかったため、結果的に多くの時間を浪費しただけで改造の邪魔をしたようなものだった。

 最終的に、板バネは村にあった農具か何かで代用できたとも聞かされている。


 失敗談は置くとして。

 大改造の末に完成した仮称戦車は、当初のリヤカーにベンチを取り付けただけの好い加減なものとは完全に別物だ。

 まず、車高は一メートル程高くなり、座席に座っても視界がミートのお尻に依って塞がれることはない。それでも首と頭の部分で若干の視線は塞がれるのだが、概ね問題にならないと判断できる。

 車高を高くするために車体の下部にを構成する素材は鉄材が用いられ、重心は低い位置に抑えられている。だが、それでも全体的なバランスは良くないため、旋回半径を小さくしすぎると横転する可能性は否めない。


 俺もつい先程気付いたばかりなのだが、仮称戦車の大改造と並行に行われていたことが一つある。

 それは手投げロケット弾製作に携わっていたはずのロギンさんが、ミート用に馬鎧を製作していたという事実。

 馬鎧と一口に言っても軍で制式採用されている金属製の馬鎧ではなく、革製で簡易なものだ。

 ミートは農耕馬であり、軍で制式採用されている馬の品種に該当しない。ホバースケイルであれば自前の鱗があるため、元より鎧は不要だという話だ。


 体躯の大きなミートに合わせた馬鎧は、ファルコンスケイルの皮革で作られていた。

 確かファルコンスケイルの皮革は、野盗の襲撃に参加した開拓団員に分配されていたはずだと思うのだが、どのようにかき集めたのだろう?


「戦いに赴くのだから、この仔にもちゃんとした装備が必要でしょう?」


「そうですね。ありがとう、ミラさん」


 どうも、師匠とダリ・ウルマム卿にご馳走した蜘蛛クリームコロッケは、想像以上の成果を齎したらしい。あのケチなミラさんが開拓団員から買い取ったというのだから。

 いや、ここは素直に感謝するべきだな。

 ミラさんにも師匠にもダリ・ウルマム卿にも、だ。

 ワイバーンを相手に革製の馬鎧がどこまで役に立つかは不明だが、裸馬よりはずっとマシだろうからな。俺の考えが及ばない範囲をカバーしてくれたことも有難い。


「あとは、幌をどうするかダナ」


 リヤカーから進化した四駆の軽トラはオープンカーなのだ。

 爆発物が湿気らないように雨除けを設ける必要は十分にある。一応、荷台に蓋が追加されているが、これは車体が跳ねた時に手投げロケット弾が散乱しないようにするためのものであった。

 それに馬車を一台解体したのだから、当然幌も一台分余っている。


「幌はあった方が良いですね」


「ただナァ、御者台後方の視界を塞ぐことになるゾ?」


 ワイバーンは空から来るはずだ。

 俺が今まで目にしてきたワイバーンは全て空を飛んでいた。地上を闊歩している姿など、見たことなどない。

 

「荷台の雨除けに被せられる大きさに切るカ?」


「それが無難ですかね」


「ヨシ! これを基にしてあと何台か作るゾ!」


 ワイバーンの巣駆逐に向かうのは、俺とライアンだけではない。

 ダリ・ウルマム卿がこのベルホルムス村の自警団と話し合い、開拓団員と合わせて三十名にも及ぶ討伐団を結成するというのだ。

 そうなれば当然、この仮称戦車も数が必要となってくる。いいや、もう仮称は外してしまおう。


「じゃあ、これは俺と魔王の戦車だ! 戦車って、良い響きだしよ!」


 ライアンはやたらと『戦車』という単語が気に入ったらしい。俺には汎用スキル『通訳』が、一体どのような翻訳をしているのか疑問でしかないが……。

 

「しっかし、投槍の試射はどこでやるかな?」


「村の中じゃ危なくて出来ないもんな。とはいえ、外に出てワイバーンに襲われたら一大事だし」


「一応、シギュルーに付近の警戒はさせるつもりだが、薬草の匂いをあいつも嫌がるんだよな」


 そういえば村に入って以来、シギュルーの姿を見ていない。

 シギュルーはあれでも魔物だから、魔物除けの香の匂いを嫌がるのは十分に理解できる。だが、今回はそれが仇になるという訳だ。

 村から離れれば当然薬草の効能が薄れる。だがその反面、魔物との遭遇確率が跳ね上がることになる。

 小型や中型の魔物であればどうとでもなるが、大型の魔物を相手取るには触手が二本しかない相棒にも厳しいと思われる。

 増してや、空を飛ぶワイバーン相手となると、苦戦は免れないだろう。


「そこそこの広さのある空地でもないか、聞いてみるか?」


「見た感じ、あるようには見えないけどな」


 俺は午前中にガヌと村中を駆け回ったから、大体のところは見ている。

 村の中にそんな都合の良い空地など存在しない。建物がない土地のほとんどは農地となっているのだから。

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