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第百七十九話

 俺は昨日に引き続き、今日も馬車の解体作業を進める予定、だった。

 しかし、いざ現場を訪れてみれば――

 

「なんだこりゃ? なんでこんなことになってんだ?」


 昨日俺とガヌで座席を撤去し、大苦戦の後に車輪を外した馬車はものの見事に解体を終えていた。相棒と俺とで作り上げた土台の脇に、昨日までは馬車であった部材や金具類が整然と並んでいたのだ。


「ここまで解体する必要ないだろ? ここまでバラバラだと、もう元には戻せないぞ。それに部材が少ないように思えるんだが……」


「そりゃそうだろ。ロギンたちがテーブルを作るのに床板を使ったんだからな」


 今日はライアンも俺とガヌと共に作業するため、解体途中の馬車の元を訪れていた。

 ライアンが言うには、俺が手投げロケット弾の試射を終えないと調整が行えず、手伝い以外にやることがないらしい。そこで俺とガヌの助っ人として、馬車の改良に参加するという。


「どこから持ってきたかと思えば、床板だったのかよ! しかも、足蹴にしていた床板を何の抵抗もなくテーブルに流用するとは……」


「板の表面を削って、釘穴は木の粉で埋めていた。切断面の面取りにヤスリ掛けもしていたぞ」


 ロギンさんとローゲンさんでテーブルの表面を磨いている姿は見たが、まさか馬車の床板を用いているなどと想像もつかなかった。つくわけがない。


「兄ちゃん、何持っていくの?」


「あ、ああ、そうだな。今は仕事が減ったことを喜ぶべきだ。大きく長い座席と車輪は相棒に運ばせるから、ガヌは車輪を支えていた金具を持ってきて。ライアンはその小さな座席を頼む」


 相棒が座席と車輪を持ち上げるのを待ってから、移動する。投槍こと手投げロケット弾を量産しているロギンさんたちの作業場へと。

 ネジやボルト・ナットがない以上、金具を固定するには鋲が必要となる。兄貴に知識だけは叩き込まれていても実際に扱うことは不可能だし、材料も手元にない。

 なればこそ、ロギンさんたちに頼むほかない。



 木工が比較的得意というローゲンさんを作業場から引き抜くことに成功した。

 そして現在、解体した馬車の部材を再度組み合わせている最中だ。


 最初に相棒が持ってきた長い座席はバラバラに解体して、長い板四枚に戻した。

 俺とライアンとで、その板を手投げロケット弾の全長が収まる大きさの箱型に組み直した。


「ここを止めるんだナ?」


「そう、そこをお願いします」


 ローゲンさんが七輪のような簡易竈で熱した鋲を用いて、小さな座席の背後に箱型を取り付けていく。

 金具は無事だが木材が焦げて、俺たちの作業する範囲はやたらと焦げ臭い。


「ガヌ、雑貨屋で羊毛と布を買ってきて。帰りにミートを連れてきてほしい」


「はーい」


 家畜の放牧場は、現在作業をしている場所から中央にある住宅地を挟んで反対側になる。俺自身が走って迎えに行くのが、ただ単に面倒だったのでガヌに任せた。


「おう、魔王! 片方の車輪は軸から外し終えたぞ」


「ああ、わかった」


 あそこまでバラバラに解体された馬車は元には戻せない。だから、俺も遠慮なく、部材を加工することにした。


「相棒、軸をここでぶった切ろうか。ほれ、ヤスリだ」


「ニィ!」


 ギコギコと高速で鉄製の軸を削り切っていく、相棒。

 途中、木桶に満たした水で熱を持ったヤスリを冷やし、順調に切断していく。

 昨日、俺とガヌが苦戦した鋲の切断も相棒に任せれば良かったんだ。はぁ。


「早えぇな、もう切れたのか。軸の切断面も冷やそうか」


「これ、また車輪取り付けんだろ?」


「ああ」


 先にライアンが取り外していた車輪を軸へ再び取り付けてもらう。

 今度は軸ごと、ローゲンさんに座席の下部へと金具と鋲で取り付けてもらう。


「ちょっと弱いナ。心配だから補強するカ?」


「そこは任せますよ」


 座席を形成している板は厚さ二センチほどしかなく、強度に不安があるのは事実。

 俺は大まかな指示を出してはいても、そういった細かい作業は専門家に一任すべきと判断する。


 座席と箱を取り付けた車体をひっくり返して、板バネなどの金具も取り付けられていく。


「魔王さん。これ、車軸一本で足りるのカ?」


「車体は軽いから大丈夫だと思います。たぶん」


 小型馬車が徐々に形を成していく。丁度良いタイミングでガヌが戻って来た。

 鞍などの馬具を身に着けていないミートの背に、器用に跨るガヌの姿がある。


「ブルルゥゥ!」


「ガヌ、ご苦労さん。よしよし、よく来たなミート」


「ニィニ、ニィニィ!」


 俺がガヌを労い、ミートの首筋を撫でると何故か相棒も続く。

 相棒は感情表現が豊かになりつつある?


「馬を繋ぐのカ?」


「はい、繋ぎましょう」


 ひっくり返していた車体を起こし、ミートを組み上げたばかりの小型馬車に繋ぐ。

 ミートを繋いだことで、それなりの見栄えとなった。

 エンジンは農耕馬の一馬力で車体はリヤカー仕様だけど、古代ローマとかの戦車に見えなくもない。いいや、結構かっこいいかもしれない。


「いい感じダナ!」


「ああ、なるほどな。これなら軽い、草っ原も平気か?」


「試しに乗ってみる」


「魔王さん、御者できんのカ?」


「その馬、魔王に妙に懐いているし、何とかなんだろ」


 一番の問題はソコだ。俺には馬に騎乗した経験も、御者を務めた経験もない。

 ただ、ミートは俺の言葉が通じる程度には利口なので、俺が何かしなくても良さそうな気もする。

 とりあえず試乗してみるとしよう。

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