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第十七話

「わかりました。今からですけど、大丈夫なんですか?」


「ええ、荷物はこれだけです」


「えっ、少なくないですか?」


「実家に帰省していただけですので、簡単な着替えくらいですね」


「村から見えてしまう範囲までは歩きます。その後は3日、乃至は2日でノルデまで」


「アハハ、冗談のような早さですね。さすが魔王様です!」


 ノルデ、パパム間へは整備された街道が存在しない。あるのは獣道に毛の生えた程度のものだ。故に馬車を利用したとしても乗客の疲労を鑑みて度々休憩を挟み、中々距離を稼げないらしい。

 俺の場合は相棒のお陰で、直線距離を進む。ただ、森も川も谷も突っ切る移動方法など、常軌を逸している。


「あの森に入りますよ?」


「はい!」


「ノリノリですね」


「これでブラウに自慢できますし、ね」


 森に入ると相棒がおかみさんを俺の右側で、触手を2本使い座席のように固定した。器用にも前方はラージシールドでカバーしている。


「よし、相棒。途中で適当にご飯を確保しながら、全速力だ」


「前が見えないのが難点ですが、これは乗り心地が良いですねえ」


「喋っていると舌噛みますよ?」


 以降、おかみさんの存在は空気とする。構っていると気が抜ける。

 相棒は4本の触手を移動に用い、残りの1本は食肉の確保に勤しんでいる。俺が気が付いただけでも大型の野鳥を一羽丸呑みにしていた。


「今日はここで野営にします」


「森は抜けたのですね?」


「さすがに森の中での野営をおかみさんに経験させるのはどうかと思いまして、距離を稼ぎました」


 辺りはもう暗くなり始めている。本来ならもっと早い時間から野営の準備をするのだけど。

 相棒に預けてある俺の肩掛け鞄と着火用の道具を入れているリュックを受け取る。

 良く乾いた薪もリュックに入っているので、雨天でも困るようなことはない。

 焚火の準備ができたところで、今度は鳥肉を受け取る。首を落とし血抜きも済み、羽まで綺麗に毟って精肉された野鳥肉だ。勿論、途中で確保したアレだろう。


「こんな立派な鳥のお肉、美味しそうねえ」


「塩しかないんですけどね。不味くはないですよ」


 食事の片づけを終えると、相棒に毛布を取り出してもらう。俺は余程寒い時くらいにしか利用しない毛布なので綺麗なものだ。毛布はおかみさんに貸与する。

 俺は焚火の残り火と、俺に巻き付く1本の触手は温かい湯たんぽのようになっているからだ。

 野営となると夜警もしなくてはならない。基本的には相棒が行ってくれるが、俺本体に移動が必要な時は起こしてくれるので、特に問題はおこらないのだ。

 まぁ今回は同伴者が存在するので、俺も少しだけ寝るのを控えようと思う。


「朝、しっかり食べて昼は抜きますよ。上手くいけば、今日中に到着しますから」


「大丈夫、座っているだけだもの。お昼は無くても平気だわ」


 俺だけなら昨晩の残り物でも十分なのだが、おかみさんが居るのでそれもどうかと。しかし、だ。俺と相棒の食料はパンも無くはないが、基本は肉だ。俺は平気なのだが、朝から肉々しいのは大丈夫だろうか?

 必殺技というか、隠し玉というか、その正体を明かさねば問題ないとして、ドラゴン肉を提供することにする。この肉なら美味しいこと間違いないのでたぶん食べられるはず!


「朝から重いかと思ったけど、このお肉すごく美味しいわ」


「そうですか、良かったです」


「ねえ、このお肉まだあるのかしら? うちに卸す気はない?」


「このお肉はちょっと無理じゃないかな……あはははは」


 笑って誤魔化したまま、移動まで耐えきった。俺は俺を褒めてやりたい。偉いぞ、俺。偉いぞ、相棒。

 パパムまでの移動はのんびりとしたもので3日だった、スケジュールを詰めれば2日というのは可能なはず。そうでもしないと食事の度にドラゴン肉を所望されそうで怖い。別にドラゴン肉が減ることはどうでも良いのだけど、この肉の取引を要求されても困るのだ。

 実際に一度冒険者ギルド経由で流通させた折のことは思い出すのも恐ろしい。この町の市場に流しただけなのに、噂を聞きラングリンゲ帝国の首都から買い付けに来た貴族の子弟などいたとか。冒険者ギルドや市場が俺の名を伏せてくれたから助かったものだが、次回以降もそれが保たれる保証もない。

 俺はもう王様とか貴族とか、そういったものに関わりたくないんだ。えらい目に遭った張本人としての意見だ。


「ふぅ、なんとか着きましたね」


「あは、凄いわね。わたくし、パパムまで行きは8日も要したのに」


「かなり無理しましたからね。もう二度とごめんです」


「こんな強行軍だとは想像していなかったのよ。ご飯は美味しかったけど、わたくしも次は控えますわ」


 おかみさん何もしてねえじゃん。完全にお客さんだったくせに。


「南門なら相棒が出てても平気なんですけどね。北門はダメですね」


「南は商人や冒険者の出入りが多いけど、北門は貴族も少ないけど住んでいるからね」


「ということで、もう少し進んだら歩きますよ」


「南門に回るというのはダメなのかしら?」


「えっ、そこに北門が見えているのにですか? 却下ですよ」


 月の栄亭まで一切歩くつもりがないのだろうか? どんだけだよ!

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