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第百七十一話

 ミラさんとベルホルムス村長の挨拶が終わる。

 開拓団員は早速、ベルホルムスへ分け与えられる物資を馬車から降ろし始めた。作業にはベルホルムス側の人員も加わり、速やかな受け渡しも可能だろう。


「ちょっとカットス。あなたは開拓団の顔なんだから、弱音なんて吐かないでよね」


 挨拶を終えたミラさんは物資の供給に参加せず、俺の下までやってきた。そして、俺の背中に渾身の一撃を見舞った。相棒、ガード忘れるなよ!


「カットスは十分に役に立ってるわよ! 謙遜も度が過ぎると嫌味にしか聞こえないものよ?」


「あぁ、うん。気を付けます」


 俺は別に弱音を吐いたつもりはない。事実を事実として述べたに過ぎないのだが、反論の余地はなかった。

 抵抗したところで平行線を辿るのみ。それに皆、俺が落ち込んでいると勘違いしているようなのだ。



「――えーと、開拓団の警護担当者はどなたでしょうか?」


「儂であるが……ミラ殿、宜しいか?」


「ええ、ダリ・ウルマム卿。お任せします」


「ベルホルムス村自警団長カギーレと言います。ワイバーン駆逐について協議したいのですが……村の酒場までご同行願えますか?」


 ダリ・ウルマム卿はリーダー格数人を率いると、ベルホルムス村自警団長と共に村の中心へと歩み出した。


 ベルホルムス村の人口は約三百人。広さは外周に設けられた柵から考えて、一辺が一キロメートル程の正方形だから……大体、一平方キロメートルでいいのか?

 正方形の中心近くに住居等の建物が集中していて、中心部から離れるに従って建物が減り、農地が増えていく。

 木製の柵を越えた先は薬草の群生地となっている。村をぐるりと取り囲うように膝丈の薬草が生い茂っている。ライアンは薬草の群生地のど真ん中に村を築いたのではないか? とも言っていたな。

 建物のほとんどは木製、農作物を収める倉庫だけが石造りとなっているようだ。

 また、小規模ながら商店の幾つかが営業していた。但し、陳列されている商品が余りにも少なかったが。


「ル・リスラ、手伝って!」


「はい、お姉ちゃん?」


「開拓団員を提供された空き家に振り分けるわよ。収まりきらない人員は村民宅に間借りすることになるから、穏やかな性格の団員をそちらに振り分けるように」


 穏やかな性格というなら俺が代表格だろうが、立候補はしない。十中八九、却下されるのが目に見えている。それは俺に子供たちがオマケで付いてくることがほぼ決定事項であるからだ。

 大人しい性格のガヌとタロシェルは別としても、活発なサリアちゃんとサリアちゃんに引き回されるミジェナちゃんに、村民宅は狭すぎる。家と言っても宿屋並みの広さはなく、ほぼ小屋でしかないのだ。

 ……最悪は俺たちだけ、テントを張っての野宿になるかもしれない。


「俺たちは空き家行き、決定だな!」


「なんでだよ、ライアン?」


「普通の村人にそのユニークスキルは酷だろ。ロギンたちは酒を飲むとうるさいし、ゴブリン族も対応に困るはずだ。それにガキ共も気を遣う他人宅より、空き家の方が楽だ。あと、ついでにアラン兄妹もだな。一応は捕虜だし」


 ライアンの意見は筋が通っている。

 相棒は意図的に姿を隠せるけど、放って置くとにょきにょき伸びてくる。初見の村人は驚くに決まっている。更に気味悪がられても、お互いに気拙くなるというもの。

 開拓団唯一、いや唯二のドワーフ兄弟は普段から声がデカく、酒に酔うと更にデカくなる。はっきり言って、うるさい。

 ゴブリン族は言わずもがな。友好に接する分は問題ないはずだが、近くに存在するとどうしても恐怖が付き纏うらしい。

 子供たちに関しては、ライアンも俺と似たような意見。

 最後にアランとイレーヌさん兄妹は、仮面を装着したまま村人宅に居候するのは、さすがに無理がある。建前上は捕虜でもあるので放置する訳にもいかないのか。

 

「カットスは子供たちとアランさんを連れて、あの建物に行ってちょうだい。イレーヌは私たちと同じ建物なの、少し待っててね」


 ミラさんが指差した建物は農地との境に立つ、真新しい小屋だった。

 ただ、見た目からして新しくはあるが、俺とアランにライアンを含めた子供たち全員が寝泊まりするには、小さすぎるのではないだろうか? 

 そう口を開きかけたところ、別の建物を割り振られた開拓団員も似たような人数配分でも黙って従っているのを目にし、思い留まる。

 空き家自体に不足があることは分かっていたのだ。詰め込まれるのは我慢すべきだろう。ダメなら寝る時だけ、小屋の外にテントを張るのもアリだ。


「ああ、カットス君! 荷物を置いたらウルマム殿に合流してください。ライアンもですよ」


「わかりました、師匠」


 ダリ・ウルマム卿たちが向かった酒場の場所が不明だが、それは村民に訊ねれば済む話だ。

 俺はフリグレーデンで買い直した着替えと、工作道具を馬車から持ち出す。子供たちもアランも手荷物はそう多くないようだ。


「おい! これ、忘れんな」


 馬車から中々出てこないライアンが持ち出したのは金盥だった。

 元氷の剣こと給湯器と金盥は、風呂好きにとって忘れてはならないもの。

 帝都には先代サイトウさんが上水道を通したことで公衆浴場などもあったが、開拓村に風呂があるとは考えにくい。いや、無いと思った方が無難だ。

 例え、空気で膨らませる子供用プールよりも二回りほど小さくとも、風呂は風呂なのだ。

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