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第百七十話

「ベルホルムス村長のバルト=ベルホルムスと申します。勇者様の開拓団を歓迎いたします」


「開拓団代表ミラ=ホーギュエル。開拓村ベルホルムスの歓迎を感謝します」


 開拓団の代表は表向きは俺であったはずなのだが、気付けば全てをミラさんが担っていた。

 最早、俺の出る幕はない。政治的な話し合いは面倒だから別に構わないんだけどね。立場を失った俺からすれば、少し悲しくもある。


「落ち着け、魔王。ミラはお前の負担を減らすために頑張ってるんだ」


「そうですよ。お姉ちゃんに任せておくべきです」


 ライアンとリスラのその言葉は、フォローしてくれているのだろうか? 俺は疑問に思いながらも反論はしない。反論したところで惨めになるだけだろうからな。

 

「で、彼がライアンの知人か?」


「今は俺の後任として、皇帝陛下直属の密偵となったエバロスという魔人。その弟子か何かだろう」


「何か、ってなんだよ?」


「弟子か、若しくはお前みたいな友か……」


 ライアンの寿命がどれ程のものか、俺は知らない。ただ、ミラさんが重傷を負った折に聞いた言葉から察するに、エルフよりも遥かに長寿であるらしい。

 エルフは人族の約十倍の寿命を持つという。それを遥かに凌駕するとなると、どれ程長生きするのか、俺には察しがつかないでいる。

 そんなライアンが俺を例えに使い、友と呼ぶ。普段、飄々としているライアンにそう言われるのは、少々なりとも擽ったいものがある。最近ではアランが俺の友となりつつあるが、やはり俺にとっての親友というとライアンだからな。

 ライアンは俺よりも遥かに年上である。されど、その肉体年齢は俺よりも遥かに若い。ライアンはその若い肉体に引っ張られるように、普段の性質はとても若々しい。

 それでも、何か重大な出来事があるならば、大人として俺を諭してくれることもある。俺は、その事実にかなり助けられていることは間違えようがない。


「使者の方にお伝えした案は、どうなりましたか?」


「私と開拓団は、ベルホルムス村との共闘に賛同します」


 平原に巣を構えたワイバーンを駆逐する。

 ベルホルムス村、村長より提示された案にミラさんは同意した。

 ベルホルムスを越えた先は、俺の開拓村の予定地となる。ここで後方の憂いは断つべきと師匠やダリ・ウルマム卿は宣言した。

 ベルホルムス村は未だ若い開拓村とはいえ、俺たち開拓団にとっても命綱なのだ。


「私の開拓団と共にワイバーンの巣を駆逐しましょう。つきましては、開拓団の余剰物資をベルホルムス村へ提供する用意があります」


「勇者様、感謝いたします」


 ミラさんの宣言は、遠巻きに開拓団を観察していた村民の表情を急激に変化させた。半ば暗く淀んだ村民の眼は、次第に明るい色を取り戻していく。

 どうも、塩が不足しているとライアンは言っていたが、それは事実であったらしい。だが、開拓団とてそれほど多量に塩の在庫があるはずもない。それでも無理を押して提供するには訳がある。

 ベルホルムス村の士気高揚を図り、俺の開拓団への信用を得る必要があるのだ。

 勿論、ミラさんへと吹き込んだのは師匠だ。が、師匠だけでは納得しないミラさんを説得したのはダリ・ウルマム卿だった。過剰に無駄を嫌うミラさんにとっては苦渋の決断であったに違いない。


「俺は何も成し得ていない」


 先代サイトウさんの威光は轟くばかり。評価されているのは先代であって、俺ではない。俺は、本当に俺は何もしていないというのに……。


「ミラにとってはミラの開拓団だろうが、本来はお前の開拓団だ。だからこれだけの人員が集まった。何も恥じることはない」


「そうだ、ライアン君の言う通りだ! 団長代行殿も君の存在が無ければ、あの場に立つことは不可能だったのだろう?」


「お姉ちゃんはカツトシ様の負担を減らそうと必死なだけ、なのですと」


 ライアン、アラン、リスラそれぞれが俺へとフォローを入れてくれた。

 ミラさんが俺の負担を減らそうとしてくれているのは重々承知している。俺には政治的な行動は不可能に近いからな。

 相棒の力を借りて誰かを護るとか、そういった軍事的な行動であればどうにかできそうなのだが……。俺個人では何もできはしない。


「カットス君、ミラに自由を与えたのは君だ! オニング公国に縛られた身から解放したのは君なんだ。異界から訪れた何のしがらみもない君だからこそ、ミラは自由を得られたのだ。僕は君との出会いに感謝している」


 歩み寄ってきた師匠はそう言いながら、俺の右肩に手を置いた。

 

「カツトシ殿は自身の評価が低すぎる。先日の一件でも賊を殲滅し、ミラ殿を救ったのはカツトシ殿じゃろう? 小僧が狂乱する柔らかなパンを拵えたのも、カツトシ殿じゃろ?」


 アグニの爺さんは師匠と反対側、左肩を掴む。ゴツゴツとした格闘家の硬い掌の感触を感じた。

 そして気が付けば、子供たちが俺の周囲を固めいた。


「サリアは魔王様の部下!」


「ぼくも!」


「わたしも!」


 俺の膝裏に抱き付くサリアちゃんと、その両脇に双子が位置する。ガヌの姿が見えないと訝しみ周囲を見回せば、彼はミラさんの影にひっそりと佇んでいた。

 俺がしっかりしないから、代わりにミラさんの護衛を買って出てくれたのかもしれない。

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