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第百六十六話

 先頭の指揮車両から掛けられた号令により、馬車は普段よりも一段とゆったりした速度で進む。間違っても、斥候として先行しているライアンとキア・マスに早々に追い付けるような速度ではない。

 馬車の進行が遅いためか、馬に騎乗した元軍人や元冒険者で構成される哨戒班も、普段よりも若干広い範囲の警戒に努めている模様。ただ、テスモーラへの伝令が馬を二頭引き抜いていったため、頭数は少なくなっていた。


「僕がムリアの従騎士として、今まで相手にしてきた魔物は大きくとも中型でしかなかった。もし、大型の魔物に分類されるワイバーンが集団で襲ってくるとしたら、君はどう戦うんだい?」


「普段通りと言いたいけど、相手は空を飛ぶもんな。まず牽制をシギュルーに任せて、俺と相棒は遊撃かな? それ以外だと、戦える開拓団員は弓矢などで何とかするだろうし……」


 普通に考えるなら、鱗を持つ大型のワイバーンに弓矢が通用するとは考えにくい。

 だが、開拓団員のほとんどはエルフとハーフエルフで構成されている。ということが、大きなポイントになる。

 エルフたちの研鑽されつくした戦闘技術は、とんでもないものだ。

 きっと、目や鱗が細かく比較的柔らかい腹などに直撃させるに決まっている。


 そして、そのほとんどがエルフとハーフエルフで構成されている開拓団だが、人族もドワーフ族もゴブリン族までもがこの開拓団には存在している。

 ミラさんと子供たちとゴブリンさんたちは前回に引き続き、馬車の中でお留守番となるのは間違いないから除くとしても。

 最も忘れてならないのは師匠の存在である。

 俺とは違い、魔力をふんだんに用いることが可能な師匠ならば、空を飛ぶ相手だろうとイチコロだろう。

 帝都へと報告に向かったキア・マスの兄たち。クド・ロックさんではなく、ミヒ・リナスさんが戻ってくれば、ユニークスキルでの砲撃にも期待できるのだけどな。


「何十頭も一気に襲い掛かって来たら流石にヤバいかもしれないが……」


「数頭なら何とかなると言うわけだね。ハハッ、本当にこの開拓団の戦力は常軌を逸しているよな。普通なら、どうやって逃げ延びるかを考えるんだけどなぁ」


「あっ、手を振ってる! 停車するみたいだ。昼かな?」


 ライアンたちを斥候として放ってから、まだ二時間くらいしか経っていない。

 先にある開拓村へは普通の馬で半日の距離であるらしい。いくらライアンとキア・マスであっても辿り着けたかも怪しいところ。さらに言えば、開拓村を確認して戻って来たとは考えられない。



 案の定、昼飯休憩であった。

 相棒に『収納』された温食は、相も変わらず取り出せない。だから、こうして固いパンと干し肉をナイフで削ぎながら喰らう。

 しかし今日に限って言えば、固いパンに悪戦苦闘しつつも皆の表情は柔らかい。何たって、晩飯にはワイバーンの肉が振舞われると知っているのだ。


「ワイバーンの肉か、楽しみだなぁ。高級肉なんて、初めて食べるんだ」


「……俺はもっと美味いのを持ってたんだけど、な」


「ああ、噂で聞いたよ。地竜の番を討伐したって! 地竜、どんな味がするんだろうなぁ」


 ボソっと呟いた俺の言葉を、アランはきっちり拾っていた。

 ただ、俺の考えが正しければだが、相棒の中に地竜の肉はもう存在しないだろう。

 それはミラさんを助けるために、相棒は触手を一本だけ残して初期化していることが挙げられる。膨大な魔力を捻り出す代償として、その他の触手同様に消費してしまっていてもおかしくはなかった。

 但し、相棒にお伺いを掛けてみないと正確には分からない。


「なあ、相棒。地竜の肉って、全部使っちゃた?」


「ギィィ?」


「えっ、何その返事。まさか、あるの?」


「ギッ! ギィィィィィッ」


――ポンッ


 何かが弾けた音がした。しかも、俺の後方で。


「おい、カットス! それ」


「それ?」


 アランが俺を指さす。いや、俺の右肩を、だ。

 俺は上半身を捻り振り返るが、背後には何もなかった。

 再び、正面に向き直るもアランはまだ俺の右肩を指さしたまま。

 

「ん? ――まさか!」


 今度は首だけをゆっくりと右へ廻してみた。

 そうすると見えたのだ。相棒の生え際が右の肩甲骨辺りに!

 

「随分早い……いや、こんなものだったか? どっちでもいいや、二本目復活だな!」


「ニィッ!」


 相棒が初めて姿を現してから二本目が生えてくるまでは、確か一月ほど掛かった記憶がある。そう考えると妥当なのか? 若干早い気がするのは、二度目だからか?

 それに、なんだ? 相棒の発声が『ギ』から『ニ』に変わった? 濁点が取れただけとも考えられるが……俺が幾ら考えても分かることじゃないな!


「確か、八本あったはずだよな?」


「色々あって本数が減ってたんだよ。ちょっと待っててくれ」


 現れたばかりの右の触手が俺の腰にあるポーチを漁ろうとする。俺のポーチに入れてあるのは、造血剤とステータスプレートだ。

 質問してきたアランに断りを入れて、俺はポーチからステータスプレートを取り出した。

 ユニークスキル『触手』の下部にある加筆部分は依然として掠れた文字のまま。

 但し、掠れてはいても項目が増えていた。


「おい、相棒。なんだこりゃ?」


「ニィィィ?」


 相棒の発声から濁点が取れたことで、禍々しさは減った。気がする。

 だが、今はそれどころではない!


「『びぃむ A』『びぃむ O』ってなんだよ? しかも、掠れたままだし……」


 出来ることなら『収納』を戻してほしかった。

 いいや、ちがう。

 ワイバーンがいつ襲ってくるか分からない状況に置かれた今ならば、好都合なのか? 俺は今一度、新しく生えてきた触手の先端の形状を確認することにした。

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