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第十五話

「失礼、スライムの依頼を引き受けたものです。村長にお目通り願えますか?」


 開拓村パパムへは盗賊に遭うこともなく無事に到着できた。門番をしている若い男に事情を話し、村長宅まで案内してもらった。


「ほぅ、ドラゴン退治をされたばかりの冒険者様ですか。これは期待できそうですねな」


「詳しい内容をお訊ねしても?」


「そうですな。

 地下坑道の入り口はこの屋敷からすぐの場所にあり、パパムの地下を網羅するように存在しています。それ故に、ここ最近稀にですが溢れたスライムが村の中へと這い出てくることがあるのです。

 坑道内に巣食うスライムの総数はかなりの数になるかと」


「依頼自体は結構前に出されていますよね?」


「ええ、ですが、相手がスライムということもあり、またその総数が問題となり、放置されていたと、そちらの手紙に謝罪の文言が記載されておりました」


「ひどい話ですね。では明日から調査と討伐に入らせてもらいます。

 手伝い等はとりあえず必要ではないので、お気になさらないでください」


 相棒が全開の時に村人に目撃されることの方が恐ろしい。相棒の全開状態はあのミラさんですら裸足で逃げ出すほど禍々しいのだから、村人などが耐えられるとは思えない。


 村に立ち寄る行商人などに提供するための空き家を宿代わりに借りることになり、そこへ村長自ら案内してもらうことになった。


「あら、魔王様ではありませんか?」


「え?」


 魔王様という言葉にぎょっとする村長を尻目に、その言葉の主を探した。


「なんで、月の栄亭のおかみさんが?」


「私の実家がこの村にあるんですよ~」


「そうなんですか、俺はスライム退治に来たんですけど」


「ならもう解決したも同然ですね! 村長、宴の準備をしないといけませんよ」


「まだ中を見てみないと、なんとも言えませんよ。どちらにしろ、殲滅はするつもりですけどね」


「聞きましたか、村長。魔王様はとっても頼りになる冒険者なのですよ!」


 おかみさんのペースに呑まれる。俺だけでなく、村長までもが。でも、ここにおかみさんが存在するというのは、正直助かるかもな。

 これで禍々しい相棒の姿を見られてもある程度、フォローしてくれる人が得られたのだし。

 言うまでもなく、月の栄亭のおかみさんは相棒を間近で直視した経験のある人物なのだった。


「おかみさん、相談があるんですけど」


「どうしたのですか?」


「話を聞く限り、地下は酷いことになっている恐れがありまして。相棒全開で殲滅に掛かろうかと考えているのですけど、目撃されるとですね。色々と問題が出そうで」


「アハハ、大丈夫ですよ。魔王様はノルデ一押しの冒険者なのですよ? そんな些細な事、気になさらなくても平気です。あのお姿を拝見できるだけでも、儲けものですよ」


 おい、冗談だろ……。おかみさん、ゲテモノ好きか?

 相棒全開は俺だって引くレベルなのに、ツワモノがこんな身近に存在してたとか。


 空き家へと案内されたのち、俺は適当に食事をとると部屋の隅の寝台で丸くなり眠りについた。

 翌日、ローラー作戦のノリで坑道の最南端から、調査兼殲滅を開始する。

 昨日の俺とおかみさんの会話から村長は俺の討伐風景を見てはならないものと勝手に判断してくれたようで、村へは厳重な注意が施されることとなった。そんなことをすると逆に気になってしまう輩が必ず出てくると思うのだが、そこはおかみさんに任せることにした。


「おい、相棒やい。片っ端から食っていいからな。出来れば核だけでも確保しておいて、まあ、数が多いから適当でも良いけど」


 坑道を南側から漏らすことなく探っていく。上に建物があるために、網目状とまではいかない構造だったのが幸いだ。それでもかなりの距離を歩き進むことになるだろう。


 明りを灯す光の初段階魔法を俺が行使すると、相棒は目についたスライムをまるでストローでジュースを吸うかの如く、ちゅーちゅーと捕食していく。汁っぽい体液や核も構わずに、だ。

 途中で悩んだが、今日から空き家へは戻らずに坑道内で寝泊まりすることにした。

 折角退治した箇所に、後から侵入されてしまうという二度手間は掛けたくない。行き止まりである個所から進み、一定区間の殲滅が済むと土の第二段階魔法でその区間を塞ぎ、スライムの侵入を阻む。

 それを繰り返し行い、徐々に南側からスライムの居住範囲を狭めていく作戦だ。


 丸二日経過してやっと半分ほど駆逐した。たま~に表に出て、現状の報告をしている。俺が遭難しているかと変に心配されて、救出部隊が編成されても困るのだ。

 三日目に入り、2/3は土壁で塞ぐことが出来ただろうか。日の光を随分と浴びていない、牢や樽に入っていたころに逆戻りした気分だ。


「うわ、やっべぇのが居る! ――ゴフッ、相棒、それ胸だからな」


 巨大なスライムの塊? 殆ど壁といった感じのそれを発見した。任せろと表現したいのだろうが、相棒が叩くのは俺の胸だった。ちょいと呼吸困難に陥りかけたんだからね!

 そんな微妙な意思表明の示した相棒は、8本の様々な形をした触手を巨大スライムへと遠慮なしに伸ばし、先端を開くと吸引していく。さすがに見る見るうちにとはいかないが、徐々にその体積は縮んでいることは確認できている。

 小さなスライムなど一瞬で吸い尽くす相棒だが、今回の巨大スライムには一時間ほども時間を費やし吸収するのだった。

 最後に残った巨大スライムの核は、俺の頭の大きさ程あった。一本の触手が抱えるように俺の前にその核を置いた。


「相棒、まだ食べれそうか?」


 YESという反応は俺の頭を撫でることらしい。相棒の行動原理に流行り廃りがなければ、この意思表示はかわらない可能性もある。覚えておいて損はない。


「じゃあ、最後の仕上げだ。残り全部、寝る前に済ましてしまおう」


 自分のスキルである触手に頭を撫でられるということも、もう慣れた。こいつはこういう奴なのだ、と。

 仕上げに掛かる。進んでは確認しつつ、土壁で塞いでいく。

 少しずつ少しずつ進み、北の出入り口を最後に残すようにして、やっと外に出た。


 坑道内での時間の感覚がおかしかったのか、外へと出たら真昼間であった。


「村長、とりあえず終わりました。中央の北よりの部分にデカいのが住んでましたが、駆逐済みです。今日は疲れているので、明日朝一から見回る予定です」


「お疲れさまでした。まだ日は高いので十分に休む時間もありましょう」


 相棒が取り残すことなどないと思いたいが、目に留まらないほど小さな個体が居ないとも言い切れない。明日から壁を抜きつつ、最終確認に入る予定だ。

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