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第百五十五話

「アランの所属する第十五小隊。越境できた者は三名のみで帝都に潜伏して情報収集に努めていた。話の内容からして、陛下や宰相閣下が気にしていた諜報員は彼らのことだろう。

 彼は開拓団の結成式で魔王がぶっ放したアレを目撃し、危険と判断した。その報告を受けた上官は、直ちに司令部へ撤退を進言したらしい。

 この上官もかなりマトモな判断のできる優秀な上官らしいな。開拓団の戦力が尋常ではないこと、正体不明な赤い光を相当警戒していたという話だ」


「アラン君の上官と司令部の代表の名はわかりますか?」


「えーと、直属の上官は新興の騎士、フェルニル=ギリアローグ。司令部には三人の将軍が居て、総大将はハルム=ラウド将軍……だったと思う」


「ふむ、ラウド将軍が指揮を執っておるおるのか……。彼はムリア王国内では、対ジャガルの国境線を常に死守し続けた英雄である」


 ライアンが報告する内容にアグニの爺さんが相槌を打ち、師匠が疑問を呈する。その疑問に返答するライアンを補足するのはダリ・ウルマム卿だ。

 俺はこちらの世界に来てまだ一年ちょい。他国の内情や政治に関して、全くと言って良いほど理解していない。だからこそ、何も口を挟まずに静観するしかない。


「司令部に送られた報告書は二通。結成式の直後と、出発の際のパレートの後。

 爺の存在と、魔王や勇者に化けた俺の容姿。それとゴブリン族が同行していることが最重要項目として通達されたという。

 何よりゴブリン族が同行しているという話は、司令部にかなりの衝撃を与えたそうだ。アランの話によると、彼が生まれる数年前に、ムリアはゴブリン族絡みで相当の痛手を被っているらしい」


「大方、馬鹿をやって街か村が消えたとか、そういったことだろうの」


「ゴブリン族の存在を危ぶんだのか、それとも初めからなのか、司令部は勅命に従うつもりがない。『開拓団に友好的に接触せよ』との軍令が下ったそうだ。友好的に接触し、勇者の知恵を借り受けようという趣旨らしい。

 だが、ここで問題が発生する。いや、露見したと言った方がいいか。

 第三騎士団団長が賊に接触し、開拓団の情報を流した。という事実が司令部とアランの隊に露見する。アランの上官は怒りを露わにすると、アランに特命を与えた。

 開拓団に接触した際には全てを打ち明けるように、と」


「ジャガルの商人を装ったムリアの間者が、だの。大事なところが抜けておるぞ、小僧」


 なるほど、確かにこれはタレコミだ。内部告発以外の何物でもない。

 開拓団が襲撃を受けた原因は、その第三騎士団団長が原因か。

 

「タレコミの意図は理解できます。ギリアローグ卿、アラン君の上官は随分と公明な人物のようだ。いえ、この場合は違いますか?

 上申が通り、交戦する危険を冒す必要がなくなったというのに、それを台無しにした第三騎士団への怒りでしょうかね」


「ライス殿、どうなさる?」


「アラン君は上官の命令で動いているとしても、妹のイレーヌさんは第三騎士団からすれば裏切り者だ。とりあえずは二人を保護することにしましょう。

 それに友好的に開拓団に接触するという軍令がある以上、向こう側から接触してくるのは間違いありません。こちらは気にせず、資材の積み込みも完了したことですし、数日中に開拓地に向けて出発してしまいましょう」


 えっ、もう出発しちゃうの?

 盾の受け取りがまだなんだけど……明日、試しに行ってみるかな? 明日では注文してからまだ三日目でしかないからダメそうだけど。


「ああ、それとウルマム殿。

 アラン君とイレーヌさん、ギリアローグ卿ともう一人の隊員は引き抜きましょう。

 開拓地では憲兵組織も必要になりますからね」


「うむ、それは良い考えですな。元冒険者ではどうしても憲兵には向かぬし、私の部下だけでは交代要員として数が不足しますからな」

 

「アランとイレーヌからは同意を貰っているぜ。騎士叙勲の推薦をずっと蹴っていたらしい。食うために仕方なく従騎士に甘んじていたようで、いつでも退役して亡命するとさ」


「今はまだ建前上は人質ということにしておきましょう。あくまでも建前ですが」


 引き抜く? 意味は理解できる。できるのだが、ある意味では敵なんだけど……。

 師匠もダリ・ウルマム卿もニヤニヤといやらしい笑みが顔に張り付いている。絶対、何か企んでいるのは間違いない。だけど、それが何なのか? 俺には皆目見当がつかない。


「ちょいと待ちなよ! あの二人がこの街に居るってことは、他のムリア騎士もこの街に滞在しているんじゃないのかい?」


「彼らは僕たちに、いえ、開拓団に用があるのです。放って置いても後を追ってきますよ。ですから、少しでも早く開拓地へ向かい、迎え撃つ場を整えようではありませんか。秋の雨期までには現地に陣地を築きたいですし」


「開拓地はウェンデル川が近いからの。何としても雨期の後に到着するのは避けねばなるまい。モリアは密偵の何名かを行商に仕立てるが良かろう」


「うっせー、親父。オレに命令すんじゃねえ!」


 モリアさんとアグニの爺さんがじゃれているのは放って置く。

 ラングリンゲ帝国には、てか大陸には雨期がある。春の雨期と秋の雨期、そして冬には豪雪。

 春の雨期は言ってみりゃ梅雨で、秋の雨期は秋雨前線? どちらも日本のものよりも短期間で二週間くらい雨が降り続くだけだ。

 俺にとっての問題は雪の方。南関東で、雪など数年に一度三センチも積るかどうかとう地域で育った俺。

 吹雪が何日も続き、見上げるほど雪が積もる光景は美しいのだけど、大変に過ぎた。大きな宿なら問題はないに等しいが、出先で小屋生活などしていると扉が開かないわ、窓が開かないわで四苦八苦したのは去年の冬の話だ。

 日本の蒸し暑い夏も嫌だけど、こっちの豪雪も本当に嫌で堪らない。いつか、慣れてしまうかもしれないけどさ。

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