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第百五十二話

 減速した馬車から師匠に引き続き、アグニの爺さんとライアンが飛び降りた。

 あと十数メートルで門前に至る。入門の審査があるために馬車は停車するというのに、そこまで急ぐ必要があるのだろうか?


 それに、アグニの爺さんは師匠の勘定には入っていないはずなのだが。


「冒険者ギルド関連であれば、儂が出向く必要があろう」


 などと嘯く。実際のところは、半分以上は好奇心で満たされているに違いない。

 だが、ライアンを連れて行くには良いカモフラージュになるのも確かだった。


 馬車が停車すると、衛兵による入門の審査が開始される。

 人物に関しては前回の入門時に審査が完了しているため、俺とリスラは門を素通りできた。

 衛兵たちは馬車の荷台やその裏などを入念に調査している。荷台の裏に張り付いて秘密裏に入門する輩が居ないとも言い切れない以上、致し方ないのだろう。


「もう、どこに行ってたのよ?」


「ちょっと実験に」


 門を通ると早速声を掛けてきたのはミラさんだ。しかも、見るからに機嫌が悪いときた。


「開拓団の責任者は私とカットスなのに、なんで冒険者ぎルルドの職員はライアン君を指名したのかしら? あなた、何か知ってる?」


「さあ、なぜでしょうね?」


 ミラさんの瞳は俺を捉えて離さない。ちらっと周囲を見渡せば、リスラも子供たちも視線を背ける。ずるいぞ!

 だが、ミラさんの質問は要領を得ない部分がある。俺だって今、何が起きているのかを師匠から聞いていないのだから。

 そして、ライアンの正体に関しては俺からは一切何も答えられない。

 開拓団の主要面子でミラさんだけが真実を知らされていないのは、ライアンがそれを望まないからだ。もし正体を明かすことになるなら、それはライアンが自身で行うべきことだろう。

 従って素知らぬふりを続けるほかないのだが、俺は内心が表情に出易いらしいので気が気ではない。


「父上も私をフリグレーデンの外に出そうとしないの。開拓団の重要な話なら私にも聞く権利、いえ、義務があるはずよ!」


「きっと、何か危険があるのでしょう? どこから襲われるかわからない、とか」


 ミラさんは相当腹に据えかねているのか、矢継ぎ早に言葉を捲し立てる。俺の相槌や返答は恐らく聞いていない。お陰で、ライアン絡みの嘘が露呈せずに済んでいるのは幸いと言えるだろう。


「ミラさんの気持ちもわからないではないですが、師匠がミラさんを心配するのも仕方がないと言いますか……」


「わかってるわよ!」


「ミラ様、ダメ! 大人しく待ってるの!」


 俺ではミラさんの愚痴を聞く程度しか役に立てそうにないと諦め掛けた、その時。

 小さな助っ人が現れた。サリアちゃんだ。

 ミラさんもサリアちゃんも野盗の襲撃の際の行動には色々と問題がある。

 そしてミラさんは、事あるごとにサリアちゃんが勝手に動き回ることを牽制し続けてきた。その立場が逆転したのだ。

 ぐうの音も出ないとは、このことだろう。

 今まで散々喚き散らしていた愚痴は止み、急に大人しくなってしまった。


「ミラさん、宿に戻りましょう。俺も荷物を置きに戻らないと」


「……そうね」


 本当は俺の荷物など大したことはない。

 実験に用いた手袋を手入れするのと、実験結果を忘れないように書き留めたメモの保存くらいなもの。

 あとは馬車の中に放置してあるクロスボウだった物をどうするか? だな。

 リスラはミラさんを宿に封じ込めるのに手が割かれるため、ダリ・ウルマム卿へ確認を取るのは俺の仕事になる。それでもし開拓団に払い下ろされている品であった場合は、日を改めてミラさんに謝罪することにしよう。

 うん。今日の俺の予定はもう埋まっているのだ! ミラさんを宿に送り届けたらイラウの冒険者ギルドに向かうようにと、師匠に言い付けられているのだから。


 馬車の検査も終わったようで、ミモザさんが所定の位置に馬車を移動させている。

 ドワーフ兄弟の爆発物が危険物と見做されなかったようで何より。

 お肉も馬車から外され、放牧地に戻されるようだ。



「じゃ、行ってきます」


「「「いってらっしゃーい」」」


 白壁の宿『白き魔窟』の前で、子供たちが元気よく手を振って見送ってくれた。

 ミラさんと師匠と共に借りている部屋へと入った後、出てくることはなかった。当然だが見送りはない。

 ミラさんの話し相手としてリスラも居るし、子供たちも師匠から何やらご褒美の契約が為されているらしく、ミラさんの行動を制限するように動く模様。

 その子供たちの中には珍しくガヌの姿がある。どうやら、ガフィさんも師匠と同様に冒険者ギルドへと呼ばれたようなのだ。

 まあ、俺も今から向かうので、向こうで会うこともあるだろう。


 宿に向かう間には気にならなかった、ランプの燃料である獣油の臭いがやたらと鼻につく。天井に空いた通風孔にて換気されるため、窒息するようなことは無いのだが一人寂しく洞窟内を歩いていると、色々と気が付くものなのだ。

 

 さて、本当に一体何が起こっているのやら?

 師匠が焦りを見せるのは珍しい。それこそ、俺と出会った牢屋以来だろうか?

 クド・ロックさんやミヒ・リナスさんが帝都へ報告に向かったと聞いているが、往復となると流石に日数が足りないとも思える。

 野盗が再び襲ってきたとは考えにくいし……されど、それくらいしか思い至る事柄はない。

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