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第百五十話

――ドォォンッ!!


 本日、実験を開始してから最も大きな音が響く。

 盛大な爆発音と共に押し寄せる衝撃波に体を揺らしながら、俺は想定外な事態を眺めるほかなかった。

 衝撃波が及ぶ範囲が恐ろしく広い。槍も今回は水素の燃焼に完全に巻き込まれたのか、落下音すらなく消失したらしい。

 

 俺が投げた泥水球の大きさは、試験的に作られた樽よりも遥かに小さいものだ。

 樽がラグビーボールなら、泥水球は軟式M球といったところなのだが、それに反比例したような音と衝撃波があったのも事実。


 俺はてっきり気温や手の熱で、氷が融け始めたのだと勘繰ったチャプチャプという水音……実のところ、液体水素だったのかも?

 いいや、この爆発の威力を鑑みるに、それしか考えられない。

 ならば、泥水球の作成中に俺の側に火気がなかったことは幸運だったとしか言えない。もし存在すれば、間違いなくドカンといっていただろうからな。

 危ない、危ない。今後は特に気をつけよう! 火気厳禁だ。


「よく当てた。偉いぞ、相棒! 実験は成功だ」


「ギッ!」


「おい、なんだアレは? 樽よりも酷えじゃねえかっ!」


「罠に良し、投げても良し! 今は相棒の本数が少ないからな。遠距離攻撃方法の確立は大事だろ?」


「俺は近接をどうにかしろと言ったはずなんだが……どうしてこうなる?」


 ライアンが怒っているが、近接に関してもドケチ魔術なら即応できなくもない。それだけのポテンシャルを秘めていると俺は考えている。

 だからこそ、近接に限らず、多様な戦闘形態を模索している最中なのだ。

 あとは宿に戻ってからになるが、泥水球の作成と水素を中に貯める一連の工程を一つの魔法陣へと集約する作業を残すだけである。それが完了次第、この実験は終了と呼べるだろう。

 俺のドケチ魔術は一つの工程を、原則一つの魔法陣もしくは魔法円で執り行う。それは魔力を最大限ケチるという方針があるためだ。

 今回の実験で得られた成果を元に魔法陣を描き起こす作業は、言ってみれば更に無駄を省くため。無駄を省けば、それだけ魔力の消費を抑えられることに繋がるからだ。


「まあいい、これはこれで凄まじいからな。次は俺の番だな!」


「は?」


「は、じゃねえよ! お前が武器を注文してないのは知ってたからよ。試しに魔具を一つ作ってみたんだ。それがこれだ!」


「木の棒?」


 ライアンが取り出したのは木の棒。かの有名な檜の棒?

 その全長は三十センチくらい。一見すると木の棒だが、よくよく観察してみると剣の柄のように何かの皮が巻かれている。


「キア・マス殿の持つ炎の小刀を参考にして、以前、お前に描いてもらった造水のスクロールを利用したものだ。ただ試作品で完成とは言い難い。まあ、俺が使うのであれば魔石は不要で、こんな感じだな」


「「「おおぅ」」」


 ライアンが握り方変えると、棒の先端から水が出た。

 いや、出続けている。


「んで、こうする!」


 今の動きで、水が流れ出すのは止まった。

 但し、棒を真横にしているというのに水は地面に落ちることはなく、棒の延長線上に留まっている。言ってみりゃ、水の剣?


「俺の魔力量なら、こういう風にも出来る」


「「おおお?」」


 棒の延長線上に留まっていた水がうねる。まるで水の鞭とでも言わんばかりに。

 俺も含めた誰もが興味深く、ライアンのが操る魔具を注視している。中でも最も注目しているのはロギンさんとローゲンさんだ。

 やはり、物造りを生業としているだけ興味も一入なのだろう。


「俺が使うだけなら問題はないんだがな。魔具として魔石を魔力源とすると途端に欠陥が露わになる。

 まず、加工された魔石だと水が出るだけだ。未加工で、それでいて大きめの魔石が必要になる。その上、燃費がすこぶる悪いのと、一度起動すると魔石内の魔力が枯れるまで止められないという欠点もある」


「ふむ。欠陥品以外の何物でもないのぅ」


「俺が持っている最後の魔石がこれだ。無論、未加工だ。魔石は柄頭に固定するんだが、魔王持ってみろ」


 師匠に教わった話では、魔石は魔物の体内にあって生命活動を阻害しない大きさであるらしい。

 ライアンが棒にセットした魔石の大きさは、大人の親指の第一関節程度。そら豆一粒くらいと言ったほうが分かり易いかもしれない。

 この大きさの魔石でも、中型以上の魔物からしか確保できない。スモールラビの魔石だと、足の小指の爪くらいの大きさしかないのだ。


 ライアンに言われるがまま、俺は棒の中心を手袋を外した右手でしっかりと持つ。先ほどライアンが創り出していた水は、既に地面に沁みとなっていた。

 持ってみると、どうも木の棒だけの重さではない。中に金属でも入っているかのようにズッシリとした重みを感じる。


「握ったら、魔力を一度だけ短く流せ。それで魔石が反応する」

 

 俺は掌から魔力を一瞬だけ強めに流す。すると、パリッという音がした。

 すると棒の先端からは、ライアンが行使していた時のように水が噴き出し、棒の延長線上に剣の刃のように留まる。

 だが、次の瞬間には変化が訪れた。

 棒の延長線上に留まっていた水が、棒と水の境目から徐々に凍り始めたのだ。


「……氷の剣か」


「もう槍は使わねえよな? なら、この柄を切ってみろ」


 俺の実験は成功したので終了。引き続き起爆に槍を用いることはない。

 ライアンが斜めに掲げた短槍の柄に、俺は氷の剣の刃筋を意識して振り抜く。

 ペキッという音と、俺が握っている棒に伝わる妙な感触があった。しかし、問題なく短槍の柄は断ち切れ、断片は地に落ちた。

 妙な感触を覚えたため、氷の剣を確認するが特に何ともないようだ。


「槍の柄に当たった瞬間に氷の刃が欠けたの。直ぐに戻ったがな」


「まだ試作だからな、そこまでの強度は無い。だが、魔石の魔力が枯れるまでは再生を続けるぞ」


「これ、魔石を外したら止まるのでは?」


「加工済みの魔石ならそれでも良いが、未加工の魔石だと外しても魔力の流出が止まらない。勿体ねえからな、使い切りたい」


「確かに勿体ないですね。お爺ちゃん、未加工の魔石が使える魔具なんて珍しいです。出資しましょう!」


「むむむ。儂はカツトシ殿の造水のスクロールになら、出資しても良いとは思うが……この魔具はまだまだ実用には程遠いのではないかの?」 

 

 ミモザさんの案はさらっとライアンに拒否され、魔石の魔力を全て消費させる方針が執られた。それでもミモザさんは挫けずに、ライアンの魔具に興味を注いでいる。

 俺がライアンに請われて描いた『H2O』のスクロールは下書きしただけだ。様々な材料を用いて、スクロールとして完成させたのはライアンである。

 ライアンはこういったスクロールや魔具などの開発が得意らしく、師匠もたまに手伝っていたりする。以前貰ったスクロールもライアンの自作だというし、な。

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