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第百三十九話

 強引な話題転換はブーメランとなり、ロギンさんやローゲンさんに突き刺さったようだ。

 ライアンが概ね話の内容を察したらしい。訊ねてみると、こう答えた。


「ドワーフってのはどこの国でも一カ所に固まって暮らしているもんなんだが、ロギンの親父はなぜかノルデで武具屋を開いていた。そのまた親父も石工仕事で外部に出向いているとはいえ、遊び惚けて中々帰らない、と。

 やっぱ、ウロウロとほっつき歩いているドワーフは珍しいんじゃねえか?」


 フリグレーデンは確かにドワーフがやたらと多い。というか、帝都以外の街でドワーフを見掛けたことはほぼ皆無と言っていい。

 例外はロワン爺さんとその一家だけ。ロワン爺さんの息子であるロギンさんとローゲンさんも勿論含む。

 ロワン爺さんは言ってみりゃ、群れから己の意思で離れた一匹狼? 悪く言えば、放蕩息子だろうか?

 だが、ロワン爺さんはフリグレーデンを離れてもちゃんとやっていけている。奥さんを娶り、孫までいるのだから、文句のつけ処はないように思える。

 しかし、集団で暮らしている者から異端視されてしまうのも理解できる。


 直接、ロギンさんやローゲンさんに訊ねるのは気が引ける。二人はそのことを異常に気にしている節が見られるからな。

 訊くとすれば、フリグレーデンから離れた後にとなるだろう。


「勇者様。盾の製作は早くて三日、遅くとも五日以内には仕上がる予定です。お代は出来上がりに満足いただいてからと致しましょう」


「結構早く出来上がるんですね」


「五日後に再びいらっしゃってくだされば、間違いないでしょう」


 深くお辞儀をしてローファさんは工房の奥へと消えた。陳列の品は見本とはいえ、不用心に過ぎないか? 開拓団員に盗みを働く者がいるとは思えないが、この商店街のような通りには多数の人が行き来しているのだ。


 それはそれとして、代金の支払いが出来上がり次第であったのは僥倖だった。

 師匠は後から合流するとか言っていたけれど、まだその姿は影も形もない。ミラさんと連れ立って向かった資材の受け渡しは、難航しているのかもしれない。


「小僧、ここに居ったか? 儂は良い買い物ができたぞ」


「なんだそりゃ?」


「――メリケンサック……にナイフ。どこか、いや、何かの漫画で見たことがあるような」


 入り口に近い方の通りから現れたのはアグニの爺さん。その両手にはメリケンサックが握られていて、小指側からナイフの刃が突き出ていた。

 メリケンサック本体とナイフは赤みの強い銅色で、材質がオリハルコンであることがわかる。


「爺、そんなもん必要か? 俺も最近まで身体強化と誤認していたが、極小の結界魔術を拳や脚に纏っていただろ? 結界の形状を弄れば、斬りつけることも出来なくはないはずだぞ」


「なん、だと……。そういうことは早く言わんか、この馬鹿タレが!」


「身体強化なんて危ねえもん使ってるなぁと思ってたから、敢えて訊かなかったんだよ」


「身体強化なんぞ、回復魔術と一緒じゃ! そなもん、儂が使う訳ないじゃろうが! 第一、そんな高等魔術、儂は知らんぞ」


「俺の目で見ても、どういう魔術か把握できなかったんだ! あの夜までは、な」


 拳を交えての喧嘩ではないが、口喧嘩を始めるライアンとアグニの爺さん。

 洞窟内で一本しかない通りでそんなことしていれば、当然のように目立つ。大声で張り合う二人に興味を持った人々が、次から次へと集まりだした。

 まあ、そのほとんどは開拓団員なんだけどな。


「勇者殿、どうなされた?」


「ああ、ダリ・ウルマム卿。ライアンとアグニの爺さん、いつものヤツですよ。特に心配する必要はありません。たぶん」


「ふむ。ミラ殿とライス殿は搬入路から広場に戻っておるそうだ。良ければ一緒に戻りませぬかな?」


「別の入り口があったんですね」


「うむ。資材の運搬用に、鉄製の馬車を数台買い求めたそうでな。元冒険者連中に何やら仕事を割り振っておられるようだ」


 道理でここに来てから随分と時間が経つというのに、師匠とミラさんが姿を現さない訳だ。

 鉄製の馬車に興味を惹かれるが、馬車は先の戦闘で大きく壊れてはいない。馬車の数が増えるということは、戦闘で死傷した馬が数頭でたことも含め、不足するではないだろうか?

 フリグレーデンは洞窟の中にある街。洞窟内で馬を飼っているとは考えにくい。


「卿、馬はどうなさるのです?」


「フリグレーデンで馬は買えない。それはイラウも同様だ。だが、元々人員運搬用の馬車が二頭立てであることは過剰であったのだ。荷馬車以外の馬を一頭にすれば、十分に賄えよう」


「なるほど、そういうことですか。じゃあ、新たな馬車を拝見しに向かいますかね」


 通りの真ん中で口喧嘩を続けている二人は放置することに決めた。

 俺はダリ・ウルマム卿と一緒に、ミラさんと師匠がいるという門前広場を目指す。

 師匠には五日後に仕上がる予定の鋼の盾、その代金を支払ってもらう約束があるからな。前もって伝えておく必要がある。


 俺とダリ・ウルマム卿が揃って歩み出したことで、開拓団員たちもその後に続く。

 開拓団員たちの手には、この商店街で得たであろう戦利品がいくつか見受けられた。全員が全員でなく、手ぶらのままの者も多い。物見遊山で訪れた者たちも多いのだろう。


「あれ、放っておいても平気なのですか?」


「いつものことだし、飽きたら帰ってくるだろう」


 横から声を掛けてきたリスラに答えを返しつつも、歩みは止めない。

 リスラの両脇には双子、その前面にはサリアちゃん。ミラさんの言いつけは守られたようで何より。サリアちゃんは迷子になっても、泣きわめくような子じゃないけどね。

 ただ、子供たちの手には何かしらの果物が握られていて、皮のまま齧りついている。子供たちの口の周りと手は果汁と涎でべっとりと汚れていた。

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