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第十二話

「『捕食』とか『融合』というのはさ、ある意味で納得できる内容だね。

 それに『収納』ね。しかし、これは画期的だね」


「そういった魔法というのは開発されていないのですか?」


「あるにはあるらしいよ。どこだったけな、確かオニングの隣の国ストレイドに似たような魔法を使う人物が存在すると聞いたことがあるね」


「なら、俺だけということもないでしょう。探せば、もっと居るかもしれませんし」


 表に出てこないだけで、実は隠し持っていてもおかしいとは思えない。

 実際に便利なスキルなのだし、商人あたりが隠し持っている可能性は否定できないよね。まあ、触手という形態は俺だけだと思うけど。


「ということで、お土産です。相棒やい、地竜のお肉の美味しいところを頂戴」


 新たに出現した触手、今度のはちょいと造形としてはおどろおどろしい。その先端がパカッと開くと、綺麗にカットされたどこの部位か判明しない肉が出てきた。


「ちょっと、カットス。これを調理しろっていうの?」


「そうですけど、何か?」


「馴染んでるねえ。僕たちから見ると、恐ろしいものがあるんだけどね」


「別に相棒は汚いわけではありませんから問題ないですよ。俺も野営ではよく食べていますし」


 塩だけだけど、鞄にはいつも常備している。肉は相棒が新鮮なまま保存してくれているから、おいしく食べられるのだ。

 しかし、どのように、どこで保存しているのかは不明だ。最近は考えるだけ、無駄なのではないかと思うようになった。思考停止とはちがうのだ。


「確かにドラゴンの肉って高級品じゃないの。父上は食べたことは?」


「あるわけないよ。そんなのは献上品や討伐した本人じゃないと無理だよ」


「どうやって調理するの、カットス?」


「このくらいの厚さに切って、塩を振るだけで十分にご馳走ですね。まあ、まだ大量にあるはずなんですけど」


 相棒は触手を生成するのに必要な量以上は消費していないようだった。『収納』が発生する前に狩ったはずの魔物さえも保存されていて、取り出すことが可能なのを確認している。


「売りなさいよ! 一財産出来るわよ」


「勿体ないじゃないですか、折角おいしいのに。3人で分けましょうよ」


「欲がないというか、欲に塗れているというか。独特だね、君は」


「まあ、良いわ。塩振って焼けば良いのね、少し待ってて」


「それじゃあ僕は課題を見せてもらうとしようかな」


 師匠には多様な魔法を教わっているが、一種類でも二段階目と呼ばれる魔法の展開が出来れば合格だと以前に宣言されていた。

 この世界における魔法は、俺が日本の漫画やアニメを見本に考えていたものとは一線を画するものだった。魔法そのものがもうひとつの学問として成り立つほどに難しい。

 

 師匠の専攻は古代魔法で、主に大規模魔術の展開を目指すものだった。但し、俺が教えてもらったのは一般的な元素魔法と呼ばれるものだ。

 一般的とは言うが、どこが一般的なのかと問いただしたくなるほど難しい理論に支えられている技術体系だった。必須とされる知識が語学と数学という、俺の頭をフル回転させなければ対応できなかっただろう。師匠はどんだけ切れ者なのかと……。


「今回は何を?」


「水です。水の二段階目、あくまでも想像ですけどね」


「了解した。やって見せてくれないかな」


 緻密に計算した魔法術式だ。最初は魔法陣を紙に描き出し、それを基に発動させることを覚えた。この世界の文字を使い、自分なりの暗号を組み立てる。その際、文字数や字の大きさなどが、細かく魔法の威力や効果、見た目に作用を及ぼすのだ。

 そこで俺は少し発想の転換を図ったどうせ暗号化するのならば、日本語でも構わないのではないかと。漢字やひらがな・カタカナでも可能なのではないだろうかと。

 最初は本当に悪戦苦闘、四苦八苦したものだけど出来ないことはなかった。但し、威力や効果が思ったより発揮されなかった。この世界で俺が最初に教わった言語の文字はアルファベットのようなもので大した文字数ではない。逆に日本語は使える文字の制限が漢字を含めると、それは無いのと同様に膨大なものと成りえた。

 だが、暗号化などしなくとも日本語ならそのままで暗号となるはずだ。読める人間がこの世界に居るとは思えないし、ね。その点を考慮すると、暗号化のために悩ませる脳みそは必要なくなる。

 そこでその労力を威力や効果のために用いることにしたのだ。それでも試行錯誤の回数は尋常ではない。


「いきます! 水よ集え、そして凍れ」


 差し出した右掌のすぐ前に発声と共に、漢字とひらがな、それを囲うような罫線が螺旋状の魔法陣が淡く光りながら描かれ、その直後に魔法が展開される。


 紙に魔法陣を描き、それを媒介に魔法を発動させるのを基本中の基本とするが、それでは実践・戦闘には堪えられない。故に、必要となるのは記憶だ。

 魔法陣の構成を完璧に記憶し、その記憶を基に魔法を発動させる。これが出来て初めて一人前と評価されるのだそうだ。テスト前の丸暗記に似た何かだけど、忘れると使い物にならないので大変なのだ。


 師匠が以前に見せてくれた方法では、一切の言葉を発することなく魔法を展開していた。しかし俺は事前に構築してあるものを思い浮かべ、口に出し確認しつつ魔法を構築している。これは手紙や文章を認めるときに、口に出しながら書き込むのと同様な行為である。勿論、心の中若しくは頭の中で確認することも可能なのだが、俺は今回の課題に関して全く自信がなかった。元々、今日は課題を見せに訪れたのではないのだ。


 目の前には氷でできた壁が発生している。二段階目は応用と聞いていたので凍らせる方向に持って行ったのだが、師匠の反応に首を傾げたくなった。


「ほう、氷とは考えたね。僕はてっきり滝などの水流を作るものかと思っていたよ」


「あれ、俺の考えと師匠の考えは違ったと?」


「ああ、うん、僕の説明が足りなかったみたいだね。今回の君のそれは、三段階目や四段階目だとしても何ら問題のない結果だね」


 じゃあ、どうなるんだ。課題は失敗?


「文句なしに合格だよ! これだけできるのに、ダメとは言えない」


「水に動きを持たせるだけでも、良かったと?」


「うん、まあ、初段階の簡単な応用でしかないのが二段階目だからさ」


「うわ、考えすぎた……」


 それでも無駄にはならないだろうから、結果オーライかな。


「ちょっとお肉焼けたんだけど、……何よこれ?」


「ああ、ミラ、カットス君の才能には驚くばかりだね」


 あのミラさんが口に手を当てて驚きを表していた。これを観れただけでも、頑張った甲斐はあったというものだ。恐ろしいミラさんの意外な一面を目撃した気分だ。

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