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第百二十五話

 ミラさんが意識を取り戻りたことで、戦後処理は予想より早く終息した。

 その結果、俺は現在、微妙な取り合わせの面子と微妙な場面に立ち会っている。


「――ママー!」


「サリア……えっ、サリア?」


 ここは入門審査の非常に厳しいフリグレーデンに於いて、入門の許可が下りない者たちが滞在するための宿場町イラウ。

 なんでも、岩窟都市フリグレーデンはラングリンゲ帝国の金属生産と加工の一大拠点だそうで、帝国政府から許可された者以外は決して足を踏み入れることは適わないのだという話である。

 それは今代勇者の開拓団であろうとも例外ではなく、現在進行形で開拓団員の入門審査が行われている最中であるのだ。


 俺、ライアン、ダリ・ウルマム、アグニ、俺担当の受付嬢、サリア、ガヌという奇妙な取り合わせは、そのイラウにある冒険者ギルドの応接間を訪問していた。

 で、先程のソレにかち合った。


「サリアだけでなくガヌも? ……ガヌ、ベガが帰ってきたのかい?」


「まだ……」


 サリアちゃんがママと呼ぶ女性はガヌ君とも面識があるらしい。

 なぜこんなまどろっこしい言い方をするかというと、この女性はどう見てもエルフではないからだ。体格は一般的な人族のそれだが、顔つきや全体的な印象はドワーフに近い。


「こんな危ない街に来るなんて、帝都の孤児院に預けておいた意味がないでしょう! ガヌもだよ。ベガが帰ってきたら、どうするんだい?」


 サリアちゃんは女性に抱き付いたまま顔を逸らし、ガヌ君は俯き決して視線を合わせまいとする。

 

「モリアよ、サリアもガヌも孤児院の滞在年齢の限界に近い。肩身の狭い思いをしておったのだ」


「報告は聞いていたが、隠居したはずの親父がなぜ開拓団に? この子たちも親父の

差し金か?」


「いやいや、儂は一切関与しておらぬ。陛下やライツバル殿の思惑であろう」

 

「……ミモザ?」


「叔母さま、お爺ちゃんも私も一切関与してません。私たちが合流した時点で既に孤児院からの参加は決定しておりました」


 ここまでの流れである程度の想像はつく。

 このモリアという女性は、きっとアグニの爺さん絡みだ。俺担当の受付嬢もそれに準じる、と。


「親子喧嘩はここまで。本題に入ったらどうだ?」


「「親子?」」


「うむ、モリアは儂の五人おる娘の二番目じゃ。ライアンには以前、話したはずなのだがの」


 似ているといえば……似てるかぁ?

 アグニの爺さんはドルフと呼ばれ、エルフ・ドワーフ・人族の混血だそうけど、見た目的には人族にしか見えない。翻ってこのモリアさんは、ドワーフっぽさが色濃く表れている。髭も生えてるしな。


「了解しました、ウルマム団長。その前に、フィを呼び出せ!」


「長、フィさんは先程休まれたばかりです。起こすのは危険かと……」


「声を掛けない方が問題になる。あとで何を言われるかわかったものではない!」


 俯いていたガヌ君がパッと顔を上げ、俺に抱き付いた。

 普段大人しいガヌ君には珍しく、周囲をキョロキョロ見回すなど落ち着きがない。

 そんなガヌ君を慰めるように相棒は耳の間を優しく撫でたり、時には持ち上げたりとご機嫌取りに夢中だ。


 「ガフィだ、入るよ」


 ガヌ君はより一層強い力で俺の革鎧を掴む。地竜の硬革なのに変形してる、変形してる!

 

「ったく、やっと尋問が終わって眠れたってのになんで起こすかね。報告書はあげたろ?」


 ドアを開き入ってきた人物の姿に俺は驚きを隠せない。

 その姿が、服を着て二足歩行する白い虎だったのだ。

 だが、俺よりも驚いているのはガヌ君を見て、俺の驚きは急速に醒める。

 ガヌ君はドアの先から声が聞こえた瞬間に俺の背に素早く隠れたのだ。隠れるなら、俺よりも体格の良いアグニの爺さんにすべきだと思うのだけど。

 しかし猛獣の感覚は思った以上に鋭く、どちらにしろ手遅れではあったようで――


「――ガヌ! お姉ちゃんに会いに来てくれたのかい? 母さんは?」


 ドアから俺の立つ位置まで三、四メートルほどの距離を瞬時に詰めてきた。瞬きをする間もない、刹那に。

 勢いのままに、俺を押し退けようと鋭く薙ぎ払われる太い右腕。

 俺は見えてはいても反応できない。そんな俺を庇うのは、いつも相棒だ。

 相棒は振るわれる右腕を受け止める。

 そしてライアンとアグニの爺さんが俺と白い虎との間に入ると、空かさず白い虎を床へと倒し押さえつけた。


「何しやがんだ、離せ! このクソガキ、クソジジイ!」


「勇者殿に怪我がなく何より、モリア」


「はっ、ウルマム団長! フィ、大人しくしな。……って、勇者?」


「そうだ、こちらが今代勇者殿である。魔王という名の方が有名ではあるがな」


 その姿と距離を詰めてきた時の言葉から、完全にガヌ君の姉であることが察せられる。姉である以上、女性なのだ。

 この状況は仕方ないとはいえ、物凄く居た堪れない。

 それにダリ・ウルマム卿から妙な紹介もされているし、さ。


「開拓団は勇者様が率いていると報告を受けておりましたが……。巷を賑わせている噂の魔王と同一人物とは、また何の冗談でしょう?」


「先の賊による襲撃もあるでな。身代わりを立て、正体を隠しておられるのだ」


 師匠やライアンに聞いた話によれば野盗の狙いは俺。勇者の身柄拘束であった。

 ただ、野盗が狙っていた勇者はライアンが化けた偽物の方だったけれど。


「……姉ちゃん。アグニ様、ライアン様、もう大丈夫」


「俺に様付けするなと言ってあるだろう? バレる元だ」


 取り押さえられ大人しくなった姉を労わるガヌ君。

 だが、それは少々早まったのかもしれない。


「ガヌ―! お姉ちゃんは、お姉ちゃんは、お前を二度と離れたりしない!」


「痛い、痛い。たすけて、魔王の兄ちゃん」

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