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第百二十四話

 うんうんと頭を寄せ合い悩ませても、誰一人として答えにはたどり着けない。

 そりゃそうだ、真実は相棒の中にしかないのだから……。


「――ぅんん」


「あっ、お姉ちゃん! 起こしてしまいましたか?」


「私、刺されたはずなのに……サリアは? サリアは大丈夫なの?」


 ミラさんが目を覚ました。

 傷を負ったのが何時だか知らないが、ずっと眠り続けていたミラさんが目覚めたのだ。

 第一声でサリアちゃんの心配とは、なんともミラさんらしい。

 ライアンの話だと、ミラさんはライアンを探しに出たサリアちゃんを捜索に出て、野盗に鉢合わせしたのだという。

 ライアンが正体を隠していたことと、俺がガヌ君とサリアちゃんに子供たちの纏め役を任せたことが仇になったのだと教えられた。

 そのことに関して、ライアンは物凄く責任を感じていた。

 しかし、それでもミラさんにライアン自身が叔父であることを明かすことはないという。逆に子供たちにはライアンが師匠の弟であり、長寿な種族であることを明かしたという話だ。

 子供たちから漏れるのは時間の問題なのだから、諦めてミラさんにも正体を明かしてしまえば良いと俺は思うんだけどな。


「ご安心ください。サリアは無事、無傷ですわ」


「そう、良かった。守りきれたのね」


 ミラさんに庇われ、ミラさんの血を浴びたサリアちゃんは猛烈に反省しているらしい。

 また、二人を発見したガヌ君は一時的に言葉を失うほどのショックを受けたというが、今は元通りに復帰したとも聞く。

 

「ミラさんも無事で何よりです」


「カットス、あなた目をどうしたの?」


「大したことはないです。二日程日影で大人しくしていれば、治ると思います」


 俺は光を遮るように、手で目の周りを囲っている。薄目の隙間から覗く俺の目は、真っ赤に充血していることだろう。


「ミラ様お腹空いているでしょ? ご飯あるからね」


 子供の振りをしたライアンも心配そうに、ミラさんへと声を掛ける。

 一瞬、俺がバラしてやろうかとも考えたが、キア・マスが無言で首を横に振る姿を見て止めた。

 バレるにしろ、バラすにしろ、ライアン自身でケリを付けるべきなのだ。俺が勝手にやって良いものではない。


「ねえ? 私、刺された傷が見当たらないのだけど、何か知らない?」


「魔王のお兄ちゃんが頑張ったんだよ! 治癒魔法とは違う何かだって伯爵様が言ってたよ」


「そうなの? カットス、ありがとう」


「一番頑張ったのは相棒で、ロギンさんとライアンも手伝ってくれたんだ」


 俺はあまり役には立ってない。

 相棒にお願いして、気を失っただけだ。本当、相棒には足を向けて寝られないな。


「ミラ様が目覚めたって皆に話してくるね!」


「(上手く逃げましたね)キア・マス、ライアン君をお願いします」


「はい、お任せください」


 これ以上、ここに留まるとボロが出そうなライアンは早々に逃げ出すことを選んだようだ。ミラさんが負った傷に対して、後ろめたい気持ちがあるのも理由だろうか。

 

「あっ、アタシ、飲料水を貰ってきますね」


「飲み水なら俺が魔術で用意するよ。リスラは残ってほしい」


 ミラさんだって本調子ではなさそうだし、俺は目がよく見えていない。

 二人きりにしようという意図が透けて見えるからこそ、居残ってもらわねばならない。


「ル・リスラにも迷惑を心配させてしまったわね」


「そうですね。お姉ちゃんは開拓団の代表であるという自覚を持つべきです!

 危険な場所に赴く際には、護衛を必ずつけてくださいね」


「ごめんなさい。次からは気を付けるわ」


 リスラの忠告は照れ隠しみたいなものだ。

 寄り添う二人の姿からは険悪な関係には一切見えず、本当の姉妹のようにも見えるからな。年齢の上下はちぐはぐだけどな。



「――ミラ! 目覚めたと聞いたよ」


「父上、ご心配をお掛けしました」


「カットス君のお陰で、ミラに治癒魔術を掛けずに済んだからね。アンデッド化する心配はしなくても良かったんだよ」


 馬車の後部から飛び込んできたのは師匠だ。

 後者の台詞は師匠なりの冗談なのだろうが、ライアンと師匠の兄弟喧嘩に立ち会った身としては冗談に聞こえない。師匠は拒絶していたが、ライアンは治癒魔術を師匠に行使させようとしていたからな。


 ミラさんと師匠、親子水入らずにしてあげたい。

 しかし何の防御もなく、日差しの中を行くのは今の俺には危険すぎる。目を療養するのであれば、日差しは敵でしかないのだ。

 俺も先程まで眠っていたから、普段身に着けているものが幾つか外れている。

 酒の入った水袋や木の水筒、小型のナイフに手拭など、だ。

 リスラにお願いして手拭を借りることにした。


 目を隠すように巻くと、ドケチ魔術で水を含ませる。これでしばらくは持つだろう。


「(リスラ、相棒と共に俺の目になってね)」


「(はい、わかりました)」


 話し込んでいるミラさんと師匠を置いて、馬車を降りた。

 薄布越しに日光を感じるが、痛みはない。

 それでも、なるべくは日影を移動することにしたい。リスラにもそうお願いした。

 適度に目を冷やしながら、開拓団の駐屯地である街道を歩いていく。

 障害物は相棒が逐一教えてくれる。さあ、行こうか。

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