第十話
ステータスプレートなる不思議な板、俺のは黒いんだけど。
加筆がされることがあるなんて、俺は聞いていない。俺が知らないだけで、あるのかもしれないけどさ。
ユニークスキルの欄の『触手』の記載の少し下に、今回加筆されたのは『収納』という地味な記載だ。実は以前も『捕食』や『融合』などという何やら危険なワードが加筆されたのだけど……。でも、その実態は掴めている。
まず『捕食』は魔物との戦闘中や戦闘後に、触手が相手を喰らう。今はもう見慣れてしまったが、当時はもう衝撃的だったと言わせてもらおう。
実のところ、現在の触手の展開最大数は8本である。これ、増えた要因はたぶんだけど、食ったからだと思う。喰らった魔物の特徴を持つ触手が生えてきたから言うまでもない。ただ、増えるにしても限度があるのか、最大8本になった状態から増えていない。
次に『融合』 これは喰らった魔物の特徴を数種類合わせたような触手のことだろうと思われる。
『捕食』にしろ『融合』にしろ、詳しいことは俺でもわからない。そういうものだと思うしかない。
で、今回の『収納』なんだけど、これちょっと処かほぼ意味が分からない。
当初は武具などを格納する程度かと思われたのだが、実際はそれだけでもないらしいのだ。
先日、山麓での竜退治の依頼を受けた際のこと。無事に2頭も存在したグランドドラゴンの討伐に成功したところ、触手は俺が何を言うまでもなくグランドドラゴンを喰らい尽くした。このグランドドラゴン、地竜に属するだけあってマイクロバス並みの大きさがあったのにも拘らずだ。
山麓から近い場所にある依頼を出した小さな集落で、竜退治が済んだことを伝える際に依頼主から証拠の提示を求められた。当然といえば、当然の話だ。
証拠もなく終了したと言われても普通信じられるわけがない。だがしかし、触手が何もかも残さず綺麗に召し上がってしまったのだから、どうしようかと宿代わりとして借りた木こり小屋の中で途方に暮れた。
「何か地竜だとわかる証拠、現地に残ってるかな? もう一回、確認にいくしかないよな」
あくまでも独り言だった。そのはずだった。
なのに相棒が反応し、俺の左の頬を軽く叩くと、地竜のもので間違いのない俺の胴体ほどある大きさの角が目の前に出現した。
「おい、相棒やい。実は食べてない部分があったりしちゃう?」
その言葉に反応するように次々に、地竜のものと思われる部位が放出された。
「こんなに要らないからしまって! 角が2本あれば、証明できるだろうさ」
地竜はその額から鼻筋に掛けて、立派な1本の角を持つ。その角が2本もあれば、依頼主も満足してくれるはずだ。
相棒が不要なものを収納するのを待って、依頼主の元を訪れ、無事解決という運びとなったのが今回の依頼。
今まで魔物は狩っても素材一つ残さず相棒の餌だったために、俺の稼ぎは依頼料のみだった。お陰で家計は火の車だったのが、今回の加筆部分『収納』で懐事情も温かくなるというもの。
とはいえ、触手をおいそれと一般人に見せ訳にはいかない。何せ、グロいから。
食中・食後だと慣れてきてはいる俺自身でも厳しいくらいだし、一般人には荷が重いだろう。事前に取り出しておく必要がある。
月の栄亭が買い出しに使っている荷車を借りた。その形状は、リヤカーまで進化していない大八車だ。
「おーい、相棒やい。お金になりそうなのを頼む」
こういう言い方で大丈夫なのかと疑問に思うが、この触手スキルは馬鹿ではない。この世界に於いては、俺よりも遥かに賢いのではないだろうか。そんなのが今や俺の相棒だ。隆文より使えると断言できる!
地竜素材のみならず、売れそうな魔物素材が荷車の上に整然と並べられた。大きいものから細々としたものまで、俺自身で整理しなくもよく大助かりだ。
ただこの作業は納屋の中で行っているため、薄暗く蒸し暑いのが難点だな。だって、見られるわけにはいかないもの。
この町で、この宿周辺の住人には既に知られていることなのだけど、一応礼儀だし。
誰が呼んだか、通称魔王。
確かに最近の相棒は悪魔的なグロさが際立っているよ……。そもそもが俺のユニークスキルである以上、魔王の名は俺が主体らしいのだが。
さて、そろそろ移動しよう。今日は武具屋を中心に回る予定だ。
「おーい、爺さん、居るかー?」
「ああ、魔王様じゃないか! どうしたよ?」
「表に色々積んできたんですけど、買取とか、加工とか、何とかなりませんかね?」
「じゃあ、拝見するぜってドラゴン素材じゃねえか! おい、母ちゃん、早く来い」
「さすが、魔王ちゃん、腕利きだねえ。あんた、魔王ちゃんは大事なお得意様なんだ。しっかり仕事するんだよ!」
「そんなことはわかってる! 急いで金を持ってこい。
魔王様、全部買い取らせてもらうぜ」
「ドラゴン以外のも混じってますけど、良いので?」
「もちろんだ! ホバースケイルの翼膜までありやがる。ハハッ、お宝だ」
ホバースケイルとは地を這うワイバーンと呼ばれるトカゲで、翼が小さく短い以外見た目はほぼワイバーンだったりする。但し、こいつは高空を飛べない代わりに水深を無視して水の上を走るという特技を持っている。しかも小回りが利く分、非常に厄介な魔物だった。
「結構な額になるな、足りるか? 母ちゃん」
「加工して俺が使えるものがあれば、その分引いてくださって構いませんよ。あと、いつもの武具の修繕費用もそこからで」
「大助かりだ! 武具は置いていきな、二、三日中に終わらせるぜ。しっかし、今回はこんなに持ち込むとは珍しいな」
「まあ、スキルが進化したのでね。あっ、清算は後日で良いですよ」
「禍々しさが増したと? 俺たちみたいな稼業にとっちゃ、魔王様が強くなるのは大歓迎さ。
じゃあ、修繕と新作のお披露目に合わせて残りの代金を払うようにするわ」




