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第百七話

 ふむむ、なるほどなるほど。

 ミヒ・リナスさんと思われる鈍銀色の全身甲冑の御仁を少々観察した結果、それとなくわかることがあった。


 まず最初に、両肩の砲身へとランドセルから延びたレールを伝い砲丸が再装填されたのだ。カチャリと砲身の上部が勝手に開くのだから驚くが、それはユニークスキルであるからなのだろう。

 そして砲丸だが、薬莢など付随しておらず、真ん丸。大きさも学校の体育の授業で稀にお見えする陸上競技で使われる砲丸であり、ただの鉄球に見える。

 そうなるとやはり俺の憶測通り――


「――兄様のユニークスキルは蒸気の力で砲弾を射出しているそうですわ」


「うわっ! びっくりしたな、もう」


 突然、背後から声を掛けられる。

 俺自身、警戒を怠らないよう気を付けていたんだが、一切気付かなかったよ。相棒だって警戒は怠っていないはずだけれど、警戒する相手の範疇からこの変態は外れているのだろうか?


「ですが結局のところ、触手様の汎用性に勝ることはありません」


「いや、まぁ、そうだろうけどさ」


 それでも凄いことには変わりはない。

 砲身そのものが意志を持っているかの如く、上下左右にと動いている。それはまるで相棒の触手のようではないか。

 何らかの形で相棒と同じように、周囲の状況を把握する能力が備わっているのだろう。


――ドン!


 三度撃ち出された砲丸の行方が気になる。

 発射音だけが過剰で、着弾音は聞こえない。砲丸そのものが火薬を含んでいるということはなさそうだ。

 うん、これ以上ここに居て観察し続けても、な。

 第一、俺のユニークスキルである相棒だって大方意味不明なのだ。他所様のユニークスキルを解析したところで大した意味はない。

 それに俺は師匠から、馬車列の最後尾に向かうよう指示されている。こんなところで油を売っていて良いわけでもなかった。


「俺以外にも戦闘系ユニークスキルを持った人が居るのを知れて良かった。それじゃあ、俺は後方へ移動するよ。皆に武運を」


「後方にはわたくしの長兄が既に向かっております。宜しければ気に掛けていただけると幸いです。ご主人様にもご武運がありますよう」


 最近は滅多なことで俺をご主人様と呼ばなくなった変態だが、実にしおらしい態度だ。まぁ実際には彼女の主人はミラさんとリスラになるんだけどな。

 俺の言葉が聞こえたのか、馬車から出ている開拓団員たちからも「武運を」という言葉が掛けられた。



 移動に際し、リスラの姿を捉えたが彼女は既に臨戦態勢にあり、俺の姿に気付くことはなかった。

 そしてミヒ・リナスさんの元にいる間は蒸気の噴出で吹き飛ばされていたと考えられる臭いが気になり始める。

 しばらく乗らないでいた雨ざらしの自転車のような錆臭さ……いや、誤魔化すのは止めよう、血の臭いだ。

 俺もこちらでの暮らしの中、魔物や獣など多くの生き物の命を奪ってきている。その過程で血の臭いに晒されるということは多々あった。それでもここまで広域に及ぶ血の臭いというものは初めてかもしれない。


 なるべく直視しないようにと目を逸らしてきた野盗の遺体だが、数が増えているように感じる。俺が道草を食っていた間にも、馬車から降りた開拓団員や元冒険者たちは戦闘の最中にあったはずなのだから。

 相棒が先に処理した馬車列の間隙をする抜けるファルコンスケイルを駆る野盗たちの成れの果てなのだろう。今も馬車の影から突き出される槍に驚き、避けた先で農耕馬に踏みつぶされる。

 野盗の頭が地面に半ば埋もれていたり、ファルコンスケイルの腹からは内臓が飛び出しているなどという光景は他にも見られた。

 

 ほんの少し前まで、こんな状況にあれば嘔吐していたことを思うと俺も成長したと言えるのだろうか? 本当に嫌な成長もあったものだ。

 

 胃の辺りが痛むのは、この血の臭いの所為だろうか?

 しかし、不謹慎にも俺の体には歓喜しているかのような火照りを感じる。

 昂ると表現すれば良いのだろうか? 俺は自身の中に戦闘民族みたいな部分が存在していたことが驚きだ。



 あと馬車五台ほどの先が最後尾だろう。暗いながらも月明かりのお陰で微かに見えてきた。そして前方から耳へと伝わるのは甲高い剣戟の音と喧騒だ。


 クド・ロックさんが若干名の元冒険者を連れ、先行しているという話だったな。

 それに後方の馬車にはゴブリンさんたちとドワーフ兄弟が居たはずだ。ゴブリンさんたちは接してみた感じでは善良そうなのだが、血生臭い逸話があると師匠から聞き及んでいる。

 ドワーフ兄弟には是非、ゴブリンさんたちの護衛となってもらいたい。外に出てきていないことを祈ろう。


 懲りずに後方を迂回し回り込んでくるファルコンスケイルが後を絶たない。


「相棒、今のでどの位貯まった?」


「ギィ」


「いや、ギィギィ言うだけじゃ、分からないってば」


「……ギ」


 相棒に問うたのは『びぃむ』の残弾数だ。

 撃つつもりは無いけれど、持っているというだけで安心できるのが抑止力というものなのだ。野盗たちは俺というか相棒が『びぃむ』を撃つことが可能だと、知っているとは限らないのだけどな!

 そして相棒の答え、ジェスチャーの示すところだと二本分であるらしい。

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