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第百六話

 音はすれども姿は見えず、と言うにはやや音が大きすぎるが音源を辿ると、そう遠くでもないような。

 野盗の襲撃であるという警告により、各馬車の隙間は今も緩やかに狭まり防御陣形を形成しつつある。恐らく、リスラの乗る荷馬車の更に向こう側ではないかと予想される。

 しかし、月明かりのみでは暗く、見通すことは適わない。


 そこで明りを灯す必要があるのだが、ランプを用意している暇などなく。更には余り明るくし過ぎるのもどうかと思う。

 そうなると光量の調整が可能な魔術の明かりに軍配が上がるのは仕方のないことだ。


 俺は左手を少し前方の地面へと翳す。

 今まで使っていた光の一段目の魔術もそう明るくはなかったけれど、今回のはまた一段と暗い。だが、暗くて何も見えないということはなく、俺の足元とやや前方を照らしだすことは出来ている。

 この魔術の行使はぶっつけ本番に近い。光量を基準にすると、当社比? この場合は当者比となるだろうけど、約八十%オフといったところだろう。

 分かり易くいえば、電池が切れかけの豆電球の懐中電灯? 最近はLEDが主流で豆電球の懐中電ととなると稀だけれど、ね。

 

 新たに魔術を改良しようと考えた転換点というか切欠となったのは、ライアンにもらったスクロールと魔力が少ないのをどうにかしろというライアンの助言にある。

 ただ、俺はどうしても自身が武器を振り回す光景を想像できなかった。

 それにあのスクロールのようなものを作り出せるだけの知識があるわけでもないし、材料だって持ってはいない。

 なので、俺は考えるべき方向を変えてみることにしたのだ。まぁなんだ、逆転の発想だな。


 俺は今まで師匠に教わった通りの方法で魔術の術式を構築してきた。

 魔術の根幹となる式の部分を暗号化した文章とするのが師匠のやり方なのだが、そこを根本的に変更することにした。


 魔力が少ないのであれば、無駄なものを全て排除して簡略化すれば良いのではなかろうか? と。そうすれば少ないなら少ないなりにも魔術を行使する回数を増やせるのではないか、と。ない頭を振り絞って考えたのだ。


 俺の左手には掌大の円と、その中に「灯」という漢字が描き出されているのみ。

 色々と省略しまくった結果、これが最善であることが分かっている。

 漢字一文字なのは、忘れても直感的に思い出せること。今のところ、長くても二文字で単語である。

 そして何より大切なのは線だった。これは文字を囲うように描く。その際には必ず、線の始点と終点、若しくはそれに準じる形で必ず閉じる必要があったのだ。そうしないと魔力が無駄に消費されてしまう。

 以前、ノルデで師匠に合格をもらった水の二段目試験の時は、螺旋を描くことに夢中で隙間があったことを思い出す。あれはあれでかなりの無駄があったのだと、今だからこそ理解できる。


 但し、俺が考え出したこの方法には欠点がある。

 暗号化して相手の解読を阻害するという趣旨に、著しく反するのだ。例え、漢字そのものが読めなくともパターンとして考えた場合には、師匠やライアンであれば簡単に読み解かれてしまう恐れがあった。


 その解決策は、なんとアグニの爺さんから得られたのだ。それは偶然、そう偶然にも物見の非番時に、ライアンとアグニの爺さんの稽古を眺めている時に目にした。

 馬車の幌の隙間から、ぼーっと眺めていただけので、ほぼ丸パクリである。


 その方法とは、とても簡単で魔法陣や魔法円を隠して発動させるということ。

 アグニの爺さんはライアンとの稽古の途中、ライアンの死角となる位置で魔術を行使していた。

 あれはたぶん長年の間に沁みついた爺さんの癖なのだろう。右掌をライアンの死角となる自身の後腰へと当て、掌大の小さな魔法陣を描き。更にはそのまま握りこむことで、魔法陣そのものを隠蔽する。

 次に見たのは膝裏、ふくらはぎ、靴底だったか。様々な体の部位、それも相手の死角になる場所に魔法陣が現れるのだ。

 ライアンのあのバカ力を正面から受け止めるアグニの爺さんの秘密があの時、少しだけ判明した気がする。時々、吹っ飛ばされたりしている割にはアグニの爺さんには一切の傷がないのだから。反対にライアンは拳や肘などを擦り剥くことが多々あったのだから、相応の隠し玉なのだろう。


とうことで、俺は魔法陣そのものを他人の目から隠す形で魔術を行使することに決めたのだ。


 ただ、それ以外にも問題はある。

 ここのところ、ずっと忙しかったため、魔術の簡略化自体はそれほど進んではいないのだ。宿題をしたり、宿題をしたり、宿題をしたりで……。

 基本、寝る前に少しずつやっていたことなので仕方ないと言えば、それまでである。



 さて、気持ちも改めて、ミヒ・リナスさんを探そう。

 リスラの伏せる荷馬車の斜め前から腹に響く轟音は聞こえてくる。師匠が次々と作り出す土壁は、まだこちらまで届いてはいないがその境目辺りだろうか?


 やはり当たりか? 近付くと月明かりを鈍く反射する銀色の全身甲冑を纏った人物を発見した。

 だが、その人物の姿勢を見て俺はちょっと引いてしまった。土下座一歩手前なのだ。

 正座し、土下座まであと数秒という姿勢にある人物は間違いなくミヒ・リナスさんだろう。その両肩と背中にあるモノがユニークスキル由来のモノだというのであればだけど。


 まず、背中にはランドセルらしき鞄状のものを背負っている。ただ、これは革ではなく、金属っぽいな。

 そして両肩なんだけど、これは何だ、砲身か?

 まるで往年の人型兵器アニメで両肩にキャノンを担いだ赤いロボットのようだ。あのブルーレイだかDVDだかは、父か母の持ち物で幼い頃によく見た覚えがある。

 

――ドン!


 俺の目の前で発射された何かを目で追うことは出来ない。暗いし、速いのだ。

 但し、その際に響く轟音は弱い衝撃波を放つかの如く、俺の髪を撫でていく。

 そして、発射時の衝撃を緩和するためか、砲身の後部から白い煙のようなものが勢い良く放たれていた。

 あれ、もし蒸気だとしたら背中は大火傷じゃないだろうか?

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