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第百五話

 ……おかしい。


 どうも、アグニの爺さんやライアンの見解は間違っていたようだ。

 次々とトカゲを駆る野盗が開拓団の馬車列後方を迂回し、こちらへと向かってきている。中には馬車と馬車の間をすり抜けるようにして向かってくる者もいた。

 その数、今もまた相棒に丸呑みにされかけているトカゲを含めると六匹目になる。

 野盗に関しては、意識を奪った上で転がしてある。ただ、手足がおかしな方向を向いていたりするのは見なかったことにしたい。


 それとリスラの伏せる荷馬車に辿り着いたのだが、なぜかそこには変態キア・マスが姿があった。

 もしかして、俺の持っている情報が古い? いや、でも、俺の持っている情報は師匠やライアンたちに聞いたものなんだけど……。

 わからないなら訊くしかない!


 相棒を竹馬代わりにして荷馬車の屋上へと近づいた。その間も周囲に対し警戒を怠ることはない。


「カツトシ様、ご無事で何よりです」


「あ、うん。なんでここにキア・マスが?」


「わたくしは父様の指示で、兄様と共に数名の元冒険者を連れ、こちらへと参りました。新手の存在も確認されておりますし、前方の戦力は過剰でしたので」


 やはり持っている情報に違いがあるようだ。


「新手というのは?」


「あれです」


 キア・マスだけでなく、リスラも指し示すのは、こちらへと迫りつつあるトカゲの群れだった。それは師匠が土壁を構築している側で、ここに来るまでに相手にした連中の母体と思われる集団だった。


 そして俺は大事なことを一つ思い出した。開拓団の戦闘指揮はダリ・ウルマム卿に一任していたという事実を。

 師匠やライアンが何を言ったところで優先順位が低く、アグニの爺さんに関しては完全にオブザーバーでしかないということを。

 

「俺、師匠の指示で後方に回るつもりだけど、問題はないかな?」


「はい、問題ありません。戦闘員が不足気味ではありますが、元冒険者たちが各馬車を廻り、戦える者に声を掛けている最中です」


「アタシだって戦えるのです。エルフやハーフエルフであれば十分に戦力となりえます。ただ、連携はどうしても拙いため、土壁より先には出ずに馬車の影に隠れての奇襲に努めてもらうことを徹底させます」


 なるほど、ね。

 確かにエルフやハーフエルフであれば、リスラのように戦えるだろう。

 各馬車につき、一名若しくは二名が短い棒を手に降りてきている。棒というより穂先に何か尖ったものが付いているようで、短槍かな?

 更に、その中の数名が俺と相棒で昏倒させては放置していた野盗を縛り上げている姿も見られる。 


「姫様のスキルにて確認したところですと、あの新手こそが奴らの主力でしょう。

 ファルコンスケイルと思われるものに騎乗した輩がおよそ七十。その後方に大型馬車が二台。大型馬車それぞれに二十から三十の乗員が確認できています」


「カツトシ様が対応なさったファルコンスケイルは恐らく、野盗の主力から見て後方を遮断し、完全に包囲するために送り込まれたのだと考えられます」


 あ、うん、俺の少ない脳みそでもそうではないかと思っていたところだ。

 ややこしいのは戦場を俯瞰する視点をどこに置くか、だ。

 野盗主力から見た後方とは、俺たちから見れば馬車の進行方向に対して左側となる。そうすると防風林内を右翼、俺がこれから向かう馬車列の最後方が左翼となるはずだ。あぁ、こんがらがってきた。


「大型馬車には魔術師も?」


「いえ、魔術師は存在しないものと考えられます。

 エルフ・ハーフエルフは魔術師の素養を持つものが極端に少ないのです。ゆえに魔術師の需要は非常に高く、余程おかしな価値観を持つ者でない限りは賊に身をやつす必要はありません。それが人族であっても同様です。帝国は種族での差別をいたしませんので」


 俺の勝手な先入観として、エルフは魔法・魔術を問わずバンバン撃ちそうな感じなんだよな。実際に皇帝陛下は魔術の行使をしていたと思うんだが……珍しい、と。

 あぁ、でも、考えようによっては、そうか!

 魔術師の素養とは自身の中にある魔力に違和感を覚えたり、俺のように完全に異物として捉えたりすることを示すと師匠に教えられている。

 逆にエルフやハーフエルフは魔力に対し親和性が高すぎて、違和感を覚えることがないという話だった。これに関してはミラさんも同様だと師匠は言っていたな。

 それに俺が魔力に異物感を覚えたのは、完全に後付の能力だからなんだけどさ。

 あの脱走劇の後、お腹の中で動き回る魔力に違和感を覚え、師匠に訊ねた時に発覚した事実である。当初は毒でも盛られたのかと、本気で心配したんだけど。



――ドドンッ! 


「って、何の音だ!?」


 大玉の花火が弾ける時のように、腹の奥に響く大きな音がした。

 急だったため、吃驚してしまったよ。


「あの音はリナス兄様のユニークスキルに因るものですわ」


 リナスリナスリナス……どこかで聞いたことがあるような、無いような?

 あー、うーん、クド・ロック氏とミヒ・リナス氏だったか? 思い出した、思い出した! 今の今まですっかり忘れていた。名も知らないイケメンだと思い込んでいたよ。

 確か、変態キア=マスの兄で弟さんの方だったかな?

 で、彼は戦闘系のユニークスキル持ちだったのか。イケメンは敵だと思ってたけど、なんだか急に親近感がわいてきた。

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