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第百三話

 俺と子供たちの乗る馬車は完全に足を止めていた。


「指示に従い急ぎ、密集陣形を取ろうにも、防風林に入るために車列が伸び切っていますから」


 御者からも慌てたような掛け声が俺へと届けられている。


「何が起きているのか、わかりますか?」


「野盗の襲撃のようです!」


 シギュルーが上空から警戒していたというのに、その目から逃れて襲撃だと?

 しかし、その疑問は後方の幌を捲り上げて乗り込んできたミラさんと師匠によって解消する。外は既に夕闇に覆われていたのだ。

 シギュルーは魔物ではあっても鳥であることに変わりはなく、夜目は利かない。

 それが原因か!


「はぁはぁ……カットス、仕事よ。子供たちのことは私に任せて、行きなさい」


「現在は僕たちは野盗の集団に半包囲されている状態だそうです。ただ、馬車列の前方の何台かは既に林の中に突っ込んでいます。

 そこで、カットス君の本来の役割である前方の防衛をウルマム卿に任せ、君には後方の防衛に当たってもらいます」


「リスラは?」


「彼女は既に戦闘態勢にあります。見えますか? あの馬車の屋根に伏せっているのが。予備のクロスボウも持ち込んで待機中です」


「わかりました。俺は後方ですね」


 息を荒げているミラさんは先頭車両から走って来たのだろう。まだ襲撃そのものは行われていない証拠だな。

 それだけ確認すると、先ほど馬車に入って来たばかりの師匠と共に俺は外へと出た。



「ちぃぃぃぃ! なんだ、あいつら、はしっこい」


「ライアン、焦るな! ライス殿、ファルコンスケイルに騎乗している輩が居る。やつらは小回りが利くから厄介だぞ」


 師匠と俺が馬車から降りると、その付近にはライアンとアグニの爺さんの姿がある。お互いに小型で翼のないホバースケイルを追い回しているが、上手く躱されている。

 小型の翼のないホバースケイルというよりも後ろ足の発達した二足歩行の小型恐竜に近い、ラプトルといった感じの尻尾まで入れて三メートル弱のトカゲだった。

 それに騎乗した野盗と思われる者が、馬車列の周囲をこちらの感情を煽るように走り去っていく。


 アグニの爺さんの助言の賜物か、ライアンは一度身を引いてこちらに合流する意思を示した。


「婚約者殿には親父殿を援護していただく、問題ないだろう?」


「ええ、彼女なら乱戦は得意分野でしょうからね。では、ライアンは攪乱を。アグニ殿は自己判断で。カットス君は先ほどの通りに、車列の後方へ。

 僕は中央側面に防壁を築き上げます」


 ライアンがダリ・ウルマム卿の呼び方を二転三転させているけど、それはもう誰も気にしていない。無論、俺もそれどころではない。

 野盗の若干名がトカゲを駆って走り回っている中、それを気にせずに師匠は馬車と包囲との間に立つ。


「しばらく魔術は使っていないので、魔力は有り余っていますからね」


 なんとも暢気な一言を放つと、師匠は地面へと両手をついた。

 荒野と防風林の境にある地面は粗い砂が混じってはいても土ではある。その土を用いることで魔術が切れた後も防壁を維持していられる。師匠はそのつもりなのだろう。

 師匠の両掌から放たれたのは数えるのも嫌になるほど多数の魔法陣だった。その魔法陣は師匠の両掌を基準に並列となっている。

 馬車列の全てを遮ることは不可能だろうが、それでも子供たちの乗る馬車への突撃は防ぎきれそうなほどの横幅を持つ壁が師匠の前方へせり上がった。

 師匠の掌が触れていた地面は一メートルほどの深さに抉れており、そこにあった土を壁へと流用したことがわかる。


「ハッ、そんな低い壁がこのファルコンスケイルに相手に役に立つものか!」


 トカゲで駆る野盗が師匠を小馬鹿にしつつ、壁を飛び越える。高さは確実に俺の背よりも高く二メートルはあったというのに、楽々超えてみせた。

 しかし、それは師匠も想定内だったのか、新たな壁が先ほどよりも高くせり上がり、低い壁を飛び越えた野盗とトカゲは呆気なく新たに出来た壁へと激突後、沈黙した。後からせり上がった壁により俺たちの視線は遮られているけれど、もの凄い激突音がしたので概ね察しはつく。

 先の壁に用い抉れた地面も含めると、二番目の壁は相当な高さになる。但し、荷馬車に伏せっているリスラの視界と射線にも考慮された高さであるようだ。

 そして、幾ら後ろ足が異様に発達したトカゲでも助走ありきのジャンプでは二度連続で跳べないことが証明されたのだった。


「このまま僕は防壁づくりに専念しますね」


 高い壁に遮られることで師匠の顔色は伺えないが、その声音は何の痛痒も感じさせないものだ。

 野盗、襲われていることから正当防衛となるだろうけど、その相手の生死に対して何も気にしてはいない様子である。


 俺は……俺は……戦えるのだろうか? 殺せる?

 殺さなければならないのだろうか?


 少なからず、今は自身に問いただしている場合ではない。

 まずはこの襲撃を掻い潜る必要がある。それは俺だけでなく、開拓団の皆の安全も含めてのこと。いざとなれば……覚悟を決める必要があるかもしれないが。


「よし! 兄さんの護衛は任せるぜ、爺」


「おう! 任せとけ」


 アグニの爺さんに師匠の護衛を託すと、ライアンは掻き消えた。

 そうか、姿を偽れるのなら、その姿自体を消すことも可能なのか。

 近未来SFアニメの光学迷彩というやつだな。カッコイイなー、おい!

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