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第百二話

 道程も順調で岩窟都市フリグレーデンまで、あと一日足らずという距離にあるらしい。

 そして今日の俺は物見は非番である。


 草原であれば、大きな木などが稀に生えているので目にも楽しいのだが、進めど進めども見渡す限りの荒野にあっては、当初の興奮に似た感動は最早ないに等しい。

 見るべきものと言ったら、偶に襲ってくる鳥の魔物を狩るシギュルーの姿くらい。

 その都度、肉の補給にとシギュルーが両足で掴んでは俺の元に運んでくることに感心するくらいしか変わった出来事はなかった。


 で、今日は宿題もせずに何をしているかというと、贈呈されたまま放置していた爆発物の処理である。

 まぁ、鏃の交換なのだが、そもそも鉄矢には鏃がついていない。

 これが木製であれば、箆と呼ばれるシャフト先端部分と鏃に付属する木片部分とが雄雌の鉤状になっており、糸で結束して膠で固めるという手順がある。

 これがまた面倒くさいのだけど、出先でも消耗品である鏃の交換を行えるという利点がある以上仕方がない。鏃の交換だけで逐一、鍛冶屋や武具屋の元に訪れることをに比べれば、十分とも言えた。


 話を戻し、鉄矢の構造はというと、リスラの用いるクロスボウのボルトの先端のようにシャフトの先端が鈍角に削られていて、それ自体が鏃の役目を果たしている。

 ゆえに、試供品であるこの爆発するであろう鏃の取り付け作業は、当初考えていたよりも手早く済んでいる。ただ、着火の魔具である小粒の魔石は使用時に取り付けることにしたい。

 どちらにしろ、相棒に預けることになるので、相棒が宜しくやってくれることに期待するまでだがね。


 それが終わると次にやるべきことは、小麦粉の挽直し作業だ。

 石臼がライアンの私物以外存在しないと確認できた以上、本来であればライアンに一任するのが筋なのだが……。

 そのライアンが不在なため、頼むことが出来なくなっていた。

 その理由は概ね、ライアンの自業自得なのだが、シギュルー関連のことになる。


 シギュルーはライアンがベスタであることを当然の如く認識している。

 すると、シギュルーは甘えるのだ。五歳児の姿をしたライアンに、ね。

 それを目撃したミラさんは激怒し「あの男はどこに行ったのかと?」訊きまわる事態に発展した。

 その一部始終に同席した俺やリスラは必死に耐えたよ。

 だって、ミラさんが捜そうとしている犯人は、実は目の前に居るのだから。

 リスラもライアンに無意識に目が向くことを避け、俯いているのかとおもいきや。肩を小刻みに揺らし、笑いを堪えていたのだから驚きだよ。

 という理由でライアンは今現在、ミラさんからの説教を受けるために先頭指揮車両に同乗していることだろう。


 この石臼の形状は恐らく日本にある物と同等かな? まぁ、石臼の構造なんてどうやっても似てくるだろうけどさ。

 上部にある穴から材料を少量投入し、そしてゆっくりと焦らずに挽いてゆく。

 この作業、なんというか無心になれるんだわ。何も考えずにルーチン化してるだけでも時間が過ぎ去っていく。暇つぶしにもってこいだわ、これ。


 なーんてことをしてたら、いつの間にやらお昼だよ。子供たちが配給に向かう時に教えてくれた……って、配給急がないと! 怒られる。


 石臼を置いていた余り物の帆布を折りたたむようにして粉を集め、相棒に掃除機のように吸引してもらう。これは後で相棒に言えば、粉だけの状態で取り出せるのだ。

 これは相棒の『収納』の応用技と言えるだろう。


 配給と食事休憩を済ませ、再び子供たちの乗る馬車へと戻る。

 やることは変わらない。今日はどうにも宿題をやる気になれないので、粉挽きに終始するつもりだ。


 時折、幌を捲り前方を確認する。この馬車は馬車列のぼぼ中央付近にあるため、タイミングを計らないと前を見通すことは不可能だ。ただ、前方が確認できずとも、風景として遠くの景色を取り込むくらいは可能だ。

 荒野を進む馬車の前方に、それこそ遠くではあるが緑っぽい色合いが見えた。

 緑なんて本当に久しぶりに見た気がするね。


 それから三時間余りで、先ほど見えていた緑の部分へと近づいていたらしい。

 俺は粉挽きに夢中だったので、途中経過は覚えていないけどな。


 緑の部分に到着した馬車は一度減速する。まぁ止まるほどではない。

 その後、御者さんが御者席から声を掛けてきた。


「フリグレーデンの防風林に侵入します。道が細いので車列が一列に並ぶまで少々掛かるでしょう」


 あぁ、防風林ね。日本だと海岸線の松林とかのことだけど、この防風林はどんな木が植わっているのだろう?

 どうでもいい疑問が浮かんできたけど、本当にどうでもいいな。



 しかし、そんな俺のどうでもいい疑問など吹き飛ぶ事態がやってきていた。


「戦闘員以外は馬車から降りるな! 御者は馬車を固めるように操作しろ!!」


 怒号とでも言うのだろうか? そんな叫びにも似た大声が、俺の乗る馬車の中にまで響く。

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