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第百一話

 珍客を迎えた後、私の隊が偽装する行商の馬車は進路に困っていた。

 なぜならそれは、異界の勇者率いる開拓団の進路が鉱物精製で有名な都市であるフリグレーデンであったからだ。

 フリグレーデンは帝国に於ける魔法金属と一般に流通している金属素材の一大生産地となっており、例え帝国民であっても許可のない者は都市の外縁部までしか入ることが出来ないという話である。

 当然の如く、私たちでは厳重に規制された区画に足を踏み入れることは適わない。仮に警備を掻い潜って潜入できたとしても、得られるものがあるかどうか?


 私では判断しかねる事態につき、まことに不本意なれど、珍客の皆さんに指示を仰ぐとしよう。


「えぇ~、第三騎士団、団長殿。少々、お知恵を拝借したいのですが?」


「う、うむ。申してみよ」


 なぜ、私の隊に第三騎士団の団長殿が合流されるのかと問うたところ、ラウド将軍からの命令であるという回答を受け取るに至る。

 ラウド将軍は今回の派兵の総大将であるがゆえ、私や部下は勿論のこと、当然第三騎士団としても従わざるを得ないのだろう、と結論付けた。

 先行していた第三騎士団の全てが私の隊に合流したというわけではなく、団長殿を含め五名の騎士が合流を果たしたのみであることは、私にとっての救いであろう。


 なぜか、合流した第三騎士団には一切の指揮権がなく、私に指揮権が全て委任されているという状況は冗談ににしか聞こえなかった。

 文句の一つでもつけたいところではあるが、抗命と見做される行為となるため何も言えないのが現状だ。


 それにラウド将軍と言えば、父が所属する戦士団の雇用主だ。かの戦士団は国が用意したものではなく、ラウド将軍の私兵である。

 父もかつては従騎士として働き順調に功績を重ね、いずれは正騎士への叙勲を受ける予定ではあったようだが、どこをどう間違えたのか父は従騎士すら辞めてしまい、ラウド将軍の戦士団に所属している。

 そこに至る重大な何かが存在するのであろうが、父は私や母には一切漏らしたことはない。だからこそ私はそんな父に反発し、従騎士を経て正騎士の叙勲を受けるに至ったわけだ。


「例の開拓団の進路がフリグレーデンのようなのですが、このまま後を追われますか?」


「フリグレーデンといえば、帝国の重要生産拠点ですね。都市内部への入門審査は特に厳しいでしょう」


「ええ、ですが。外縁部分にあるという村規模の集落には問題なく逗留できると思われます」


「では、迷う必要はありません。私たちはそちらを目指すことにいたしましょう」


 開拓団の向かう先に見当は付いているゆえ、多少の時差を設けてから行動を開始するとしよう。ここまでずっと開拓団に付かず離れずの旅程を組んでいるのだ、少しくらい怪しまれていても不思議ではない。

 件の開拓団には豪華な面子が揃っている手前、私の隊と合流した珍客たちだけでは手に負えそうにないのは事実である。ここはあくまでも行商人然とした行動をとるに限る。


「それで将軍からの命令書にも目を通しましたが、友好的に接触を計れという命令の遂行はいつ頃を目指すのでしょう?」


 王国が打ち出した勇者強奪の攻勢計画から一転、友好的な態度で接しろという命令には私としても隊の他二名も大いに驚いたものだ。

 既に勝ち目のないことが分かりきっている戦いを断行せよ! などという無謀な命令でないだけ十分ではある。但し、一体どのように接触の機会を得ろというのだろうか?

 それについての秘策は、この第三騎士団の皆さんが持っておられるのだろう。私としては、そう考えておくしかない。

 無理難題である。


「ここ、フェルニアルダートの市中に第三騎士団の方々は散らばっていたようですが、新たに何か情報は得られましたでしょうか?」


「い、いや、我々が求めていた情報は何も得られていない」


 返答から考えて、かなり怪しい。一体、何を探っていた?

 指揮権が私にある以上、勝手なことをされては困る。最終的な責任は私に付随するのだからな。


「何を探っておられた? 隠し事は出来る限り、無しにしていただきたいのですが?」


「……貴殿からの追加報告書が挙がる前に、地域の盗賊団に接触している。開拓団に一当てし、戦力分析を行うために、だが。

 その件について追加情報を求めておったのだが、何も得られてはいない」


 冗談も甚だしい! あの開拓団に盗賊団を差し向けた、と?

 このままでは開拓団を追随する私の隊も確実に巻き込まれることになる。

 多少の時と距離を置いても、開拓団の休憩のタイミング次第では距離は詰まってしまうことだろう。

 友好的に接しろという命令書に従うのであれば、かの開拓団の戦力分析には何の意味もない。で、あるならば、フリグレーデンまでの道程が約二日。開拓団の脚の遅さを考慮しても三日が妥当だろう。

 数刻程度ではなく、丸一日距離を置くべきか?

 それに幸いにも、我が隊にはリグダールが存在がある。彼のスキル『遠見』に頼り、付かず離れずの距離を保つという手もあるな。


「誠に申し訳ない。フェルニル殿」


 苦渋に満ち満ちた表情の第三騎士団団長殿を見る限り、相応に後悔していらっしゃるのだろう。そう考えると、一概に攻め立てるわけにもいかない。

 しかし、その謝罪の言葉を素直に受け取れないことも理解していただきたい。


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