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第百話

「姫さん、ちょい、俺の目を見てみろ」


 ライアンはリスラに軽く手招きしつつも、シギュルーから瞳を逸らしはしない。きっと瞳を合わせていないと情報伝達に支障があるのだろう。

 ついでに、今の状況でライアンの目の変化を隠すにはもってこいだ。


「白目が黒く、瞳が金。瞳にうっすらと魔法陣が浮かんでいます」


「あちゃー、そこまで見られちゃったのか。まぁ、そういうことだ。俺は人族ではない。

 兄さんの実母は、兄さんを生んだ後の産後の肥立ちが悪く、亡くなっている。兄さんも俺も、兄さんの母親の顔は肖像画でしか拝んだことがない。

 俺の母親は、その後に嫁いできた後妻にあたる。そんでもって俺の母親が魔人族なんだ。人族の上位種である魔人族の子は同じ上位種同士で交わらない限りは、上位種に固定されるんだと。だから俺は魔人族ってわけさ」


「小僧、端折りすぎだ。殿下、魔人族はハイランドエルフと同等かそれ以上に長命であるという噂もあっての。但し、エルフは人族の成長速度に準じるが、魔人族の成長が著しく遅いのだ。それはそこの小僧を見れば、一目瞭然じゃがな」


「では、全ては真実であると仰るのですね?」


「うむ、儂がアグニ=ギラザエルの名を以て保証しよう」


 おぉ! アグニの爺さんのフルネームで以て保証された!

 なんだかよくわからないけど、凄い場面に立ち会った?


「ってことで、姫さんは最早共犯確定な!」


「な、なんでですか?」


「兄さんはいずれ国元に送り返さないといけない。現当主だからな。

 ミラはなんというか甘え下手でな。身内に対してはそうでもないんだが……。

 そうすると俺の存在が問題になってくるわけよ。――よし、終わった問題なし!」


「小僧は天邪鬼なところがあるでな、儂が引き継ごう。

 小僧は小僧なりにミラ殿の成長を促したいのだ。しかし、そこに叔父の存在があれば、頼りたくなるのが心情というものじゃろう?」


 あれ? ライアンは自由を奪われたくないとか言ってなかったけ?

 あぁ、本心を隠しているからこそ、天邪鬼なのか。


「ちっ、余計なことを。

 ミラが壁にぶち当たることがあれば、その都度助言はする。但し、俺が直接というのはなしだ。魔王なり、姫さんなりの口を利用させてもらいたい」


「まぁ! 本当に素直じゃありませんね、叔父様は」


「だから、そういう呼び方は止してくれ。俺は今のこいつと同じで正体を隠している状態だからな。少しでもバレる要素は取り除きたいんだ」


「わかりましたわ、ライアン君」


 当初はかなり焦ったけど、収まるところに収まった感じ?

 リスラが協力してくれるなら、俺の役目はほとんどないに等しいか。

 なんかどんどん俺の仕事が減ってきてないか?



「そうだ、魔王。昼までにパン、作れ!」


「いや、もう間に合わないんじゃないか? ライアンの分だけ、というわけにもいかないだろう?」


「石臼はゆっくり回さないと焼けるんだよ。粉の質が落ちるから、大量に挽き直すには時間が掛かるんだ。とりあえず、俺の分しか確保できていないからな」


 帝都の水道を利用した水車で挽いたのがあのセモリナ粉だ。

 やたらと目が粗いのは水車関連の機構がどこか狂っているのか? それともあれが基準だとすれば、どこの街でも手に入る状態だとセモリナ粉になってしまう。問題だ。

 ライアンの言う、速く回すと焼けるという話は兄貴から聞いたことがあるので理解できる。だったらやっぱり人海戦術が一番なんだけど、石臼って在庫あるのかな?


「えっ、パンて何のことですか? カツトシ様」


「「「あっ」」」


 俺だけでなく、ライアンとアグニの爺さんまでもがマズいと感じたのだ。昨日の実験を知っているのは、ここにいる男三人だけだし。


「ほら、姫さんを仲間に引き込んだ記念に一丁頼むわ」


「いやいやいや、それ以前に窯がないと無理」


「ちっくしょー! こんなことなら昨日の内に挽き直して焼いておいてもらうんだった!」


「自業自得だの」


 アルミホイルや飯盒みたいな金属製の容器があれば、焚火で焼き上げることもできた可能性は高いけど、ないものは仕方がない。諦めるしかない。

 実は俺も今の今まで、窯がないと焼けないことをすっかり忘れていたんだけどさ。

 ライアンだけ優遇するってのもどうかと思うし、皆揃って硬パンで平等だ。


「あの質問に答えて下さい。パンとは何のことですか? そのご様子だと、硬パンのことではなさそうですが」


「どちらにしろ、窯がないと焼けないからね。次の街でのお楽しみってことで」


「うぅぅ、また謎が謎を呼んで眠れなくなってしまいます!」


「殿下、フリグレーデンまでの街道は道がしっかりしておるから、三日もあれば到着しよう。それまで楽しみに待っておるが良いぞ」


「三日? 三日だと? あの柔らかさを知った、知ってしまった俺が、また硬パンと三日も闘うのか? 冗談じゃねえ!」


 あっ! ライアンが癇癪を起し地団駄を踏んだ瞬間、荷馬車の屋根はあっけなく抜けた。そしてライアンは家畜たち、主に虎の姿をした牛の群れの中へと消えた。

 ライアンは自身のスキル『剛腕』と『剛脚』を忘れていたのかね?


「何をやっておるか? カツトシ殿は屋根の補修をお願いする。

 儂は助けに……行きとうないのぅ」

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