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第九十九話

 フェルニアルダートを後にした開拓団一行が次に向かうのは東だ。

 当然の如く目的地から遠のくのだけど、主に金属製資材の受け取りがあるために端折ることが出来ない。

 なので、目指すは岩窟都市フリグレーデンとなる。


 フェルニアルダートを出発して早三時間くらい? もう少々でお昼という時間帯。

 ここまでの道中は街道沿いということを除いても、景色は余り代わり映えはしなかったのだけど。どういうわけか、ここからはかなり変わっていく様子である。

 まず、草が余り生えておらず、若干ながら地面は赤錆色を帯びている。また、疎らに背の低い樹木が生えてはいても林や森といった密集したものは見当たらない。

 緑溢れる田舎生まれ、田舎暮らしの俺が生まれて初めて目にする光景。

 所謂、荒野というやつだ。



「カツトシ様、何を?」


「あぁ、うん、何でもない」


 感動を心の中で述べる暇もなく、リスラに釘を刺されてしまった。

 今日の物見はリスラとペア。時折、シギュルーがなぜか俺のご機嫌伺いに訪れる以外は、ライアンとアグニの爺さんは日課の稽古に勤しんでいる姿も垣間見れる程度でしかない。


「しかし、ライアン君は一体何者なのでしょうか?」


「えっ!?」


「やはり、何かお隠しになられておりますね?」


「……い、いや、何も」


 女の勘というものを甘く見積もっていたつもりはないのだが、恋愛経験の浅い俺には荷が勝ちすぎていたようだ。それはもうあっさりと見破られているご様子。

 しかし、この勘の良さはリスラだからだろう。ミラさんは結構大雑把な性格だし、今は開拓団のこともあるのでライアンの正体を探るような暇はないと思いたい。

 どう返答すれば良いのかわからず、俺はだんまりを決め込むことにした。


「……」


「はぁ、わかりました。では、ちょうど稽古も終わった様子ですし、ご本人に伺うといたしましょう」


 一難、去って……いない。

 本人にということはライアンに、ということだ。

 俺は黙秘権を行使し、何も漏らしてはいない。だから、申し訳ないけれど、ライアンア後は頼むぜ。


「爺、地獄耳だな。で、姫さん、俺に用があるんだって?」


「まぁ! さすがはアグニ様ですね。ここでの会話が聞こえていらっしゃったとは」


「何を仰る。殿下こそ、儂らに聞こえるように話しておったじゃろうに」


 ライアンの言葉を参考にすると、恐らく聞き取ったのはアグニの爺さんだろう。

 っていうか普通、馬車の走行音や様々な雑音がある中で、それなりに離れた距離での会話を聞き取れるものか? 

 この爺さん、日本の一般的な爺さんと同等に扱うのは無理だな。元より、そんなつもりはないのだけどさ。


「では、お訊ねします。ライアン君は人族で特殊な生い立ちにより、戦闘行動が可能ということですが。

 もう少し上の年齢であれば、その言い分も通るでしょう。しかし、アタシの目にはどう見ても異常にしか映りません。

 だからこそ疑問があり、すっきりしないと夜もまともに眠ることすら困難なのです。ですから是非にお答えいただきたい、あなたは何者なのですか?」


「……ひとつ訊く、それは姫さん個人の疑問なんだな? ミラは気付いていないよな?」


「二つですが……。はい、アタシ個人の疑問です。お姉ちゃんは開拓団のことを考えるのに一生懸命で、今はそれどころではないと思われます」


 速攻でリスラに突っ込まれてるけど、ライアンはそれを気にせず、難しい顔をしている。


「儂は殿下をこちら側に引き込んでおく方が無難じゃと思うがの。

 第一、考えてもみよ。カツトシ殿がこちらの国々や市井に通じておるというは、いくら何でも無理があるじゃろ。それとなくミラ殿をフォローするのであれば、殿下の存在は小僧にとってメリットの方が大きかろう?」


「だがな~。姫さんは余りにもミラに近すぎる。ポロっと漏らされたら、終わりだ」


 黙秘権を継続して行使中の俺は、この問答に加わるつもりはない。だって、面倒くさそうなんだもの。

 それにしたって既に俺に正体を明かしている以上、今更な気もするがね。


「……良いだろう。姫さん、今から俺が明かすことは絶対にミラには内緒だぞ?」


「はい、お約束します」


――ピーーーッ


 ライアンが指笛を吹き、シギュルーを呼んだ。

 呼び出されたシギュルーは嬉しそうにライアンに突進したが、間際にライアンに躱されすっ転んだ。鳥が転ぶところなんて俺、初めて見たわ。


 ライアンはシギュルーの目を覗き込んだ状態のままで、リスラに背を向けて回答し始めた。


「俺はホーギュエル伯爵家の次男だ」


「それはお姉ちゃんの弟ということですか?」


「いや、そうじゃない。俺は後方の馬車に乗るライス=フォン=ホーギュエルの実弟で、ミラの叔父にあたる」


「えっ、それってどういう?」


 五歳児の戯言と切り捨てられない状況に困惑を通り越し、混乱しているリスラは俺やアグニの爺さんの顔をじっと見つめてくる。そこで俺は頷きを返すことしか出来ない。


「何度か見ている姿だが、異様だの」


「うるせー、爺。こうしないとシギュルーが見た光景を読み込めないんだよ!」


 リスラの質問に回答しながら何をしているのかと思えば、きちんとした仕事だった。すまんライアン、照れ隠しと勘違いしてた。

 シギュルーの瞳とライアンの瞳を合わせることで情報を読み取っているらしい。それが事実だと考えられる要因は、ライアンの目の色が変化しているからだ。

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