遭遇
「あ!ユウキじゃん!どーしたの?」
その声を聞いて僕は後ろを振り向いた。カレンだった。
「やあカレン、今日はね、体調が良かったから。出かけてたんだよ」
「そう!...で、隣の人は?」
「あぁ、この人はこの前話した死がm...」
「編集部の西上です、この度はユウキ様の生涯を記事にしたいと思いましてカフェテリアで話をしていたところです。以後、お見知り置きを」
その声に反応し横を見るといつのまにかエマは大人の姿になっていて、黒いスーツをピシっと着こなしていた。
まぁ、胸はなかったけれども。そんなことはどうでも良くてエマは胸ポケットから出した名刺をカレンに渡していた。
「西上...絵馬、さん?珍しい名前ですね」
「はい、イギリス人の父と日本人のハーフでして」
「そうなのですね、ではエマは当て字なんですか!」
「まぁ、そう言うことですね」
そう淡々と口にしてる姿は本当に編集部の人のようだった。(まぁ実物は見たことはないけれども)
「すごいじゃんユウキ!有名人になれるね!」
「うん、まぁ。そうだね」
「じゃあ私、帰った方がいいかな?」
「まだ話は続くので帰ってもらえると嬉しい所存です」
「あ、はーい!わかりました〜。んじゃ、ユウキまたね〜!!」
そう言ってカレンは来てほんの2、3分で病院を後にすることになった。
「いやぁ、すごいね死神って」
「これですか?あぁ、はい凄いでしょう!」
「まぁ胸は無いけどね」
「何か言いました?」
ちょっと怒ったような口調でエマ(見かけで20代後半くらい)が睨みつけて来たが、僕は何事もなかったかのように話を続ける。
「それで、話。あるの?」
「あるっちゃあありますけど...。今日話しても無駄そうなのでまた後日お話しますね」
「カレン帰らせた意味ないじゃん...」
「今から追いかけてみてはどうですか?」
「そうだね、久しぶりのかけっこと行こうか」
そう言って僕は、日も沈み始めたオレンジ色の世界に走り出した。
******
「カレン...ッッ!」
「どうしたの?話、あるんじゃないの?」
とぼとぼとゆっくり歩いていたカレンに声をかけるが、なんせ10年ぶりに全力で走ったのだ。息切れしてなかなかつぎの言葉が話せない。
「どこかでお茶しないか?」
「いや、私は良いけどさ。あ、体調は良いんだっけ、今日。でも、門限とか大丈夫?」
「ああ、そこらへんは気にしなくて良いよ」
「そう、じゃああの店でいい?もち私がおごったげる」
カレンが指差したのは大手コーヒーチェーン店だった。
「うん、良いよ」
「何飲みたい?」
「わかんない、なんでも良いよ。カレンのオススメで」
「わかった、じゃあ席先にとっててよ。あ、店員さんキャラメルフラペチーノのトール2つ下さ〜い!」
「はいはい」
空いている席を探そうと周りを見渡していたら、妙に見覚えのあるゴスロリコスチュームの幼女を見かけたが、まぁ見ないことにした。
偶然空いている席はその幼女の後ろの席しかないらしく、僕は仕方なくそこに腰かけた。
「そんで、何か話あるの?わざわざ呼び止めて来たけど」
キャラメルフラペチーノを買ってきたカレンが僕の向かいに座り、じっとこちらを見つめて来る。
「あ、ああ。その話なんだけど」
僕の今の状況を話そうと口を開こうとしたが、声が出なかった。
[ユウキさん、自分の余命を教えたり、私の存在を話してはいけません]
[やっぱりエマか、どうしたの?てゆうかこれ聞こえてる?]
[はい、しっかり読めてますよ。まぁ、私の存在を口にしたりは、ダメです。それだけで別の事は私は邪魔しませんのでお構いなく]
「その話、がどうしたの?てゆうか何?」
カレンの声で我に帰り、話を続けることにした。
「あ、うん。この前さ、帰りにさ」
「うん、帰りに何?」
「結婚しようって、言ってたよね」
「わわわ...!そんなこと覚えてたの?!ちょっと冗談だから気にしn...」
「良いよ、僕。カレンのこと好きだし。てゆうか、昨日のことなんだから忘れてるわけないじゃん」
「ま、まぁそうだけど...って、え?今なんて言ったの?」
「良いよって、OKって意味」
カレンは顔を赤らめながら口をパクパクしていて、それはまるで釣り上げられた魚のようだった。
「え?あぁ...うぅ...」
「うん、どうしたの?まぁ、僕が生きてたらだけどね。死ぬ気は無いけどさ」
「え...。じゃあ、付き合っても。良い?私から言うのすっごい恥ずかしい...」
「カレン、僕と付き合ってくれる?これで良い?」
「やっ、ちがっ!そうゆうわけじゃなくて!ちょっと待って、まじ死ぬ!」
「うん、待ってる」
キャラメルフラペチーノを飲もうとストローを口にするが、なかなか中身が出て来てくれない。
カレンにも飲むように進めたら、カレンは蓋を開け豪快に呑んでしまった。
「それ、頭痛くならない?大丈夫?」
「いや、めっちゃ暑い!からぐって飲んだからだいじょぶ!気にしないで!」
日本語がカタコトになっている。普段とは違う反応に、僕は少しドキッとしてしまった。
「んで、大丈夫?」
「はぁ...はぁ...。うん、大丈夫、大丈夫...?」
「いやなんで疑問系なのさ」
「...うん!大丈夫!」
「てゆうか毎日来てくれて付き合ってない方がおかしいってこの前看護師さん言ってたよ。
僕もね、鈍感なわけじゃ無いけどカレンは学校行ってるからもっと良い人居ると思ったから向こうもその気ないですよって言っちゃったけど、やっぱ僕のこと好きだったんだ」
「え?あの看護師さんそんなこと言ってたの?!てゆうかもうこれ以上私を照れされるな!恥ずかしいっ!」
「わかったわかった、一応病人なんだから頭ポカポカ叩かないでな。痛く無いけど」
「じゃあ、今日から私たちは、付き合います!」
「うん。よろしくお願いします」
「よろしく!」
このあとは少し気まずい空気になったりしたけれども、また明日、とカフェを出た所で声をかけて、各々帰路に着いた。
ちなみにエマは、僕の告白の前にどこかに行ってしまった。
******
「ユウキ様、ユウキ様」
「ん?エマか、どうしたの?」
「恋人もできましたし、少しは生きる希望わきました?」
「うん、まぁ。そうね」
「それじゃあ、余命の延長を...」
「でも他のものを犠牲にするほどじゃ無いよ、カレンには悪いけどさ」
「そうですか...」
「うん、僕は病室帰るけど。エマはどうする?」
「私も今日は帰りますよ、それでは」
「じゃあね、また今度」
そう言ってエマとも別れた。
病院に着く頃にはすっかり日も暮れていて(カレンと別れた時にすでに真っ暗だったのはまあご愛嬌)看護師さんにバレないように自分の部屋に戻った。
「自分の余命、かぁ...」
布団に入りながら考える、自分の将来のこと、カレンのこと、家族のこと。
そしてふと気付いた。自分の中でのカレンの存在の大きさに。
今まで生きて来たのを振り返ってみても、カレンのおかげで生きてこれた気がした。
「僕は生きたいのかもなぁ...。他のものを犠牲してまでも」
カレンのために生きたい、その気持ちで胸がいっぱいだった。
「明日...ちょっとエマに聞いてみようかな」
そう思いながら僕は目を閉じた。