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取引

前回の続きです

病人の朝は早いもので朝5時前、新聞配達が来る時間には目がさめる。


なんせ一日中寝たきりの生活である、いくら寝たくてもこの時間には目が覚めるようになってしまった。


朝は朝食が7時にやってくる以外の来客はない、だが現在6時30分。ドアをノックする音が聞こえた。


「はい、誰ですか」


「ユウキ様、私です。入ってもよろしいでしょうか?」


「あぁ、エマか。良いよ、入ってきて」


来客はエマだった。普段は午前中は驚くほど暇だから、話し相手がいるのはとても心強い。


「おはようエマ、今日は何をしにきたんだ?」


「おはようございますユウキ様、今日は取り引きをしようと思いまして...」


「取引?何を取引するんだい?」


「はい、端的に申しますと。今日どこかに出かけませんか?」


エマが言ってるのは実現不可能なことだ。僕はこの病院の敷地から出られないし、出る体力もない。


「僕はこの病院からは出られないよ、出られるものなら出かけたいけどね」


「それならユウキ様、一週間の寿命引き換えに今日一日完全な、健康な体でお過ごしになりませんか?」


「ほぅ、死神はそんなこともできるのか、良いね。気に入ったよ」


「それは、了承ということで構いませんね?それじゃあ、やります。担当医の目は誤魔化せるのでご心配なく、でもカレンさんには置き手紙をしておいたほうがいいですよ。

あの人の目は誤魔化せないので」


「ああ、うんわかった。でもその前に」


「その前に?」


「ご飯食べさせて?もうお腹ぺこぺこだ」


「あ、わかりました。私どこにいれば良いですか?」


「死神には透明化なんてお手の物でしょ?」


「もともとユウキ様とカレン様にしか見えてませんが。一応気配を消しておきますね」


病室に朝食が届けられてから20分弱、なんとか病院食を食べるが今日は一段と不味かった。


今までは普通に食べていたのに、健康体になって味覚が変わったのか、なんなんだろう。


「体が健康になって色々な感覚が敏感になっているんですよ。」


僕の心の中を読んでるようにエマが答える。


「読んでいるように、じゃないですよ。読んでるのです」


「あ、そうか。死神ってすごいね」


「まぁ、死神ですからね」


「......」


「......」


「それで、どうするの?」


「ユウキ様の行きたいところ、ございましたら。私が連れて行きますので」


「じゃ、水族館がいいな。水族館、好き?」


「水族館ですか、行ったことはないですね。でも魚は好きです」


「そっか、じゃあ水族館は良いよ、うん。楽しめると思うよ」


「そうですか、ここから近いんですか?」


「環状線で一本だね、それで。どうやってここから出れば良い?」


「窓からいきましょう」


「え?ここ3階だよ?」


「3階くらいへっちゃらですよ、ほら。私の手を取ってくださいな」


エマの手を握りしめ窓から降りる。そうするとふわふわとシャボン玉のようにゆっくりと地面に降りて行った。


「健康な体で地べたを歩くのは久しぶりだ、実に良いね。最高だ」


「そうですね、それでは。参りましょうか」


このままふわふわと飛んでいくのかと思ったら、テレポートとかそういうのは一度行った場所じゃなきゃ使えないらしく(とあるゲームみたいだなって思ったのは内緒)電車で向かうみたいだ。


「お金、ある?」


「まぁ、持ち合わせは多少ありますが。乏しいですね」


「僕出そうか?」


「いえ、下界では幼い者は大体の事が安く済むのですよね?だから私はこの体なのですが」


「あ、それがデフォルトじゃないんだね」


「そうですよ、死神はいくらでも姿を変えられます」


「じゃあもっとグラマラスなおねーさんとかにもなれるんだ、へー」


「ユウキさんは胸が大きい人が好きなんですか?」


「いんや、そんなのどうでも良いよ。興味ないし」


エマは何か言いたそうな顔をしていたが、着いたよ、降りるよ。という僕が声をかけると黙ってついて来た。


******


目的地の水族館館に着いた。あたりにはカップルと思しき二人組みの男女がちらほら見受けられた。


まあ、女同士ならまだしも男同士でくるようなとこでもないけれど(券売カウンターのところで4人組の男達がチケットを買っていたのは見なかったことにした)


「仲睦じい男女がたくさん居ますわね」


「まぁ、そういうところだからね。水族館って」


「そうなんですね」


なんて会話が弾む訳でもなく券売カウンターに並ぶ。


券売カウンターにいたのは4、50代のイケてるおじさんだった。


「おっ!兄さんたち、カップルかい?いや、その年齢差だと兄妹かな?」


威勢のいい声だ。


「まぁ、そうです」


どちらとも取れる返事を返してみる。


「そうかそうかぁ、嬢ちゃん。アメいるかい?おじさん禁煙中で大量に買いためてるんだ、一本どう?」


「ありがとうございます」


エマは差し出された棒付きのキャンディの外ビニールを剥がし口に咥えた。


「兄さんたち、おじさんに免じて1000円で売ってあげよう」


「はぁ、ありがとうございます」


よくわからないけど本来なら1500円かかるのに1000円になった。


「てゆうかそんな独断で値引きしちゃいけないですよね?」


「なぁに、ウチにゃあカップル割があるんだ、大丈夫大丈夫」


なんやかんやで入口を抜けると早速大水槽があった。


まぁこんな午前中にもかかわらずえげつない人がいるお陰であまり見えないのだけれど。


そして僕は、はぐれないようにとエマの手を握りしめた。


「ッ...?!ユウキ様どうなさいました?」


僕の突拍子も無い行動に驚いたのか柄にもなくエマが動揺している。


「はぐれないようにね、人多いし」


「そ、そうですか......」


フロアマップの前に立ち、僕はエマに聞く。


「どこから見たい?」


「そうですね...。この、ペンギン?というのがみてみたいです。写真見た感じ可愛いので」


「わかった」


海獣類が居るブースに向かって歩いている。やっぱりとても混雑しているのでエマの手をよりいっそう固く握った。


「迷子にならないようにね、言うの2度目だけど」


「はい。まぁはぐれても、私。ユウキ様の場所わかりますし」


「そっか」


なんとか海獣類ブースに辿り着くと、そこには様々な海獣がいた。


ペンギン、トド、セイウチ、アザラシ、イルカ...。あれ?ホッキョクグマって海獣だっけ?


「ペンギンも可愛いですけれど、あれ。とても可愛いですね、気に入りました」


そう言ってエマが指したのはマナフィーだった。


「俗に言うブサカワってやつだね、僕も好きだよ。この子」


「そうなんですね」


時計を見る。針は12時を指していた。


「ご飯どこかで食べよっか」


「そうですね、はい」


僕はいつ食べたかわからないくらい昔に食べたハンバーガーを買った。


まぁじつは食べたくてちょこちょこ買っては少し食べたらカレンに渡してしまうのだけれど。


だから健康な体で、全て食べきるのは初めてだ。


「ハンバーガーってこんなに美味しかったっけ?」


いつもだったら2、3口で気持ち悪くてギブアップしてしまう訳のだが、今日はとても美味しく感じた。


健康がいかに大事かが身に染みてわかった。


「健康な体って良いですよね、ユウキ様もしようと思えば毎日健康に過ごせますよ?」


「どうやってさ」


「だから、ほかのものの命を差し出せば寿命が伸ばせるって言ったじゃないですかぁ」


「他人を犠牲にするのは僕のやり方じゃないんだ、他を当たってくれって言ったはずだけど?」


「でっ!でもっ......!」


何か言いたそうな顔でこちらを見つめていたが(僕はエマと違って心が読めるわけでもないので)何が言いたいかはわからないままだった。


「まぁ、そろそろ帰ろうか。お昼も食べたし、親しい人に見られたらダメなんでしょ?あと3、4時間もしたらカレンが病院に来ちゃうし」


「はい、帰りはテレポートで帰れますけれど。いかが致しましょうか?」


「せっかく外出られるんだから電車で帰ろうか。近所も散歩してみたいし」


「了解です」


*****


電車で最寄駅に着いた後は、特に何をするわけでもなく近所を散歩していて、今は病院の入り口にいる。


「いやぁ、久しぶりに外に出たからもうヘトヘトだよ。エマはどうだった?楽しかった?」


「はい、楽しかったです。また行きたいですね!」


「そうだね、機会があったら植物園でも行こうか」


なんて話しながら病院の自動ドアをくぐった時...


「あ!ユウキじゃん!どーしたの?」

*****

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