人生チカクカビン その7
怪物は心ならずもボロボロのビルに向かって進む。そして、目の前に辿り着いたところで大きくジャンプ! 思い切りビルの屋上に飛び上がった!
しかし、ビルは脆くも砂塵とともに崩れ、そのまま怪物もろとも地下までズブズブと沈んでいった。どういうことだ? 鈴木の疑問に答える者はいない。いや、いた。
「怪物用の落とし穴を作っておいたんです。お坊ちゃまと私で」
鈴木が振り返ると、グレーのスーツを着た男が立っていた。
「お坊ちゃまって誰だ?」
鈴木の質問に、男は驚いた様子。
「王子さまですよ、お忘れですか? 鈴木さん」
「え? 君、俺の名前知ってるのか?」
鈴木は驚きと同時に不安に襲われる。何だろうこの嫌な感じは。
「私です、ハザマですよ。鈴木さんが先発隊として平成の地球に派遣され、その後、お坊ちゃまと、ローズさんと、私が合流したんじゃないですか」
覚えてない! 鈴木は本気で動揺しはじめた。
「その件は、この怪物を処理してから説明するよ」
声と同時に金髪の男が現れ、地面にメリ込んだ怪物目がけて、ナニやら掌大の丸いボールを投げつけた。すると、怪物の姿は“あっ”と言う間に消え、ぶつけた丸いボール状のモノが、さっきの男の手元に戻ってきた。
「手品か?」
鈴木が驚いていると、金髪の男(王子)は優しい笑顔を向けながら、
「そんなカンジのものですよ。タネは簡単。このボールは“モンスターカプセル”と言って、弱った怪物を収容できるスグレモノなんです。サイズも関係なく収容できるし、持ち運びも便利だから、宇宙お茶の間ショッピングではロングランの人気商品なんですよ」
後半のコメントは、なんか嘘臭いぞと思いつつも鈴木は感心している。金髪男は説明を続ける。
「昭和のエージェントの手違いで、というか、僕とハザマが作った時空の隙間が完全に消えていなかったせいで、昭和で退治するはずの怪物が平成に現れちゃったんですけど・・・、昭和から怪物を追って来たサンドラに、怪物を弱らせる役目を頼んで、メデューサ・・・じゃなかったローズ・・・髪を自由にあやつれるローズに、怪物をここまで連れてきてもらって、僕とハザマで作った落とし穴で身動きを止めて、カプセルに収容した訳です」
「成程、あのカンフーカミナリ女は“サンドラ”というエージェントだったのか・・・。で、これからどうするんだ? その怪物」
鈴木の疑問はすでに自分から離れ、事態の処理に向かっている。さすが! 警察官!
「カプセルの開発者、僕の尊敬する博士に任せたいと思ってます。今はM78星雲にお住まいですから、そちらにカプセルのまま送るつもりです。悪いようにはしないでしょう。カプセル怪獣ミクラウスとかウインディみたいに利用するか、帰れる故郷があれば帰してやれればいいのだし・・・」
何故か分らないが、鈴木は感動した。「そうだっ! 地球では、人間にとっては困る存在でも、怪物自身がそうなりたかった訳ではないだろう! 俺も逮捕するだけの警官ではいかんのだぁぁぁ!!」
・・・鈴木は自分のホントウの立場を完全に忘れたまま警察官魂を燃え滾らせたのだった。
ところで、鈴木の本当の立場って?
登場人物について・・・
王子さま : とある星からやってきた十七歳の少年。 地球の未来を託されているらしい。 宇宙の人類からは 『亜種』と呼ばれ嫌われている地球人の未来を握っている。 容姿は秀麗。 金髪の長い髪、深い碧い瞳、スラリと長い手足。 全体的にスマートでありながら骨っぽさゼロ。 フェロモン、ゼロ。 ただ、性格が・・・ちょっとふざけがちで、S。 はぐらかし名人。
鈴木 : 本人は忘れているが、地球人を救うべく派遣された、 とある星からのエージェント。 王子さまのご学友で、彼からは『先輩』と呼ばれ、慕われている? 身体は大きく、力持ちの熱血漢。 地球での仮の職業は警察官だ。 ヒーローの素質充分だが、地球に着いた時のトラブルなのだろうか、 記憶に障害を起こしている。 (ほとんど記憶喪失) 年齢二十代後半?
ローズ : その一の前書きでご紹介した通り。 自分中心で生きている、もと植物の女性。 でも、王子さまの言いつけは何でも聞くという可愛い? ところもあるもよう。 年齢二十代前半か?
サンドラ : 昭和に派遣されていたエージェント。 王子の命令で怪物の保護に動いていたが、 基本、短気で粗野。 だがカミナリを自在に操る超強力な女性。 年齢十七歳。 代々王家のお庭番にして 王子のご学友。 (粗野なのに・・・)
以上。
あ、忘れてた。 ハザマ。 ・・・うーん、 ハザマの説明はややこしいから 『今度』。
「おかーさーん、 『今度』っていつ?」
「『今度』って言ったら 『今度』だよっ」
「お母さんの『今度』は いつになるかわかんないよぅー」
「うるさいわね。 お母さんは今忙しいのっ! アンタ『宿題』やったの?」
「う―――!!」




