人生チカクカビン その5
ジ・エンド。
『バカな女だ。向こう見ずにも程がある。いくら凶暴でもこの怪物に踏んづけられたらどうしようもないだろう。』…鈴木はノドの奥に苦さを感じた。しかし、だ。全てがまだ、何も終わっていない。解決という言葉には到っていない。
が、何とっ! 怪物の足の裏の一件もまだ途中であった! 怪物の足がモコリと持ち上がり始めたのだ! 踏んづけ続けようとする怪物と、地中の何かとの押し合いだ。しかも、重力を味方につけている怪物の方が押されている。
「まさか!?」
思わず鈴木は叫んでしまった。地中からモコモコッと見えてきたのは、人間大の緑色繭玉! どんどん怪物の足を押しのけている。すごい、すごいじゃないかローズ。さすがに凶暴女だ。…と、なぜか鈴木の目に涙。なんかどっかで親心。そして…繭玉からは気分の良さそうな女の口上がっ!
「まさか、まさかと言われれば、期待に答えるこの私。ローズ! スミス! 銀河を駆ける…」
が、「ぶぎゅっっ!!!」・・・ローズさん、ちょっと自分の口上に酔いすぎたか? 言葉の理解できない怪物は、またもやローズを踏みつけた。さすがに“トン”単位のバケモノでは繭だってキツイだろう…。しかし、
「おーっほほほほほ、甘い! 甘いわ。怪獣ちゃん。私を誰だと思ってるの?」
再び出てきた!! 雑草根性ハンパない! しぶとい強さだ、ローズ。すごいぞローズ。お前が四番バッターなら、世界は叫ぶだろう。『ローズ!』『ローズ!』『ローズ!』
この成り行き、怪物には分らないだろうが、ローズが満足気だからそれでいい。世界がそれを認めているっぽいし…。(っていうか、どこらへんで世界なのかっ?)しかし満足ついでにローズのセリフは続く。
「こう見えても本をただせばアタシは植物。そしてっ! 植物と地面は親和性が大なのよ。おーほほほほほ」
何の決着もついていないが、空気だけはローズの勝利だ! そして更に気分良くセリフは続く、
「アタシの髪で作り上げたこの繭玉。アンタみたいなカス怪物にどうこう出来るほど安くないのよ。見てらっしゃい!」
言うが速いかローズはサッと繭を解除! 反動で、のけ反る怪物の両足へスルスルと緑髪を絡みつけ始めた。まるで凶暴化したラプンツェルだ。というか、異常に進化したプランツと言うべきか? ローズはさらに髪を細かく絡みつけながら、怪物の腰までスッポリと制覇した。ナンカまるで緑色のストッキングみたいだ…。
「どうすんだ。そんなコトして」
鈴木は理解できないが、事態は多分好転しているようだ。加えて緑の髪は怪物と鈴木の隙間にも入り込み、鈴木を押し出した。
「うぉぉぉ―――っ」
ポロッと怪物から離脱した鈴木はそのまま落下。そして、一応カンフー女が飛来して上手にキャッチ。
「なかなかやるねぇ、あの人」
この女をも感心させるのだから大したものだ、ローズ。と、鈴木が一人感心に浸っていると、下半身を完全にローズに支配された怪物は、のっしのっしと歩き始めた。
怪物の目は…涙目である。




