人生チカクカビン その22
グレーの少年は、定められたスケジュールをソツなくこなしている。毎日、たゆみなく・・・。
勉強も、着替え、食事、散策、読書、等等・・・。よどみなく、こなしている。受動的生活において、これほど適応できている人間はいないだろう。但し、感情が全くない。予定が空いてしまった時は、ただ、座っている。何もせず。ただ、じっと座って、次のスケジュールが来るまで待っているのだ。
「気持ち悪い・・・」
最初、家臣たちは、全く自我の無いこの子供を怖がった。他人に害を与えることはないが、まるで生きている幽霊のようで、存在が怖いのだ。しかし、それを声にするものもいない。「なぜ、こうなってしまったのか」も、知っているから。
先程、王より退室を命じられた後も、部屋に戻り、余った時間を、ただじっと夕日を眺めることについやしている。「・・・眺める」? 本当に眺めているかは分らないが、斜陽を受けながら、ただ、じっと窓の外に視線を向けたまま、じっと動かない。これが、この十二歳の子供の過ごし方。ただ、ごくたまに、
先程のように、心かどこか、奥の方で、感情らしきものが動く時がある。関連性はわからないが、王宮に巣食うモンスターが動き出した時。
但し、モンスターは、この宮殿で働く者には現れない。・・・ダイスのように、外部から招かれた者にのみ、攻撃的な現れ方をする。
理由は、分りようも、ないが。
☆☆☆☆☆
「先輩!? 何か感じましたか?」
記憶を失ったまま、暗闇の中を漂っていたダイスを引き上げようとしているシェスから、声というか、脳波を感じたダイス。
「少し、思い出した」
「それは、良かった」
「良い? オレがモンスターに殺られた場面を思い出したんだぞ! 良いわけないだろ!」
「あー、そんな所、思い出しちゃったんだ」
「今になって気付いたが、あれは、お前が仕向けたんだな」
「うーん、そうかも」
相変わらず、シェスはとぼけるのが上手い。仮名リナの頃から、とぼけるのが上手い。
「でも、殺ってはいませんよ。仮死状態にしただけです」
「・・・お前」
ダイスは、いや鈴木は、いや、多分今、魂だけになっているだろう「オレ」は、こうして死んでも王子にからかわれる運命にあったのだろうか?




