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人生チカクカビン その21

 ボゥゥゥゥ―――ン・・・。


 精巧な匠の技と芸術の粋を極めただろう床や壁は、全て哀れな姿に成り果て、気の毒な鈍い音を、一度だけ吸収して、久しい静寂を取り戻した。


 モンスターは、床の上に横たわり、完全にむくろと化したダイスを確認すると、ズルズルと身体を崩れさせ、一つの巨大なスライムとなった。色は無い。

 完全に透明な巨大スライムが、ズルズルとダイスに近付く。程なくダイスを被い尽くすと、グシュッ・グシュッ、と嫌な音を立てながら、彼をゆっくり包み込んだ。更に、スライムと化したモンスターは、その身体の中心へ、ダイスを浮上させている。・・・消化しようというのか?


 しかし、巨大スライムは、ダイスをまるで自分の核のように位置取ると、内包したまま、どこかへ移動を始めた。



☆☆☆☆☆



 「彼も同じだったか・・・」


 別の部屋で、一連の様子をモニター越しに見ていた男が、深いため息をついた。


 男とは、先ほどまで、厳しい戦闘をモニターで観察されていた男・ダイスをこの宮殿に招いた本人。つまり、惑星連合の王。ダイスが、戦いに勝ち抜く事を期待していたようだ。が、結果は残念な事に。


 豪華な大広間の天井に届きそうな程の玉座に座り、プラチナの土台に、贅を尽くした宝飾品を散りばめたしゃくを持ち、黄金で輝く長服をまとっている。「いかにも」王者・らしいイデタチでありながら、表情は暗く、頬に陰さえ見せている。やつれの原因は、あのモンスターなのか?


「・・・少し、違うようです。・・・何となく、楽しいカンジがします」


 王が驚きつつ、横にいる子供に目を移した。


「・・・、同じでは、無い気がします」


「ど、どう違うのだ!」


「あっ・・・」


 子供は、王に気圧けおされたように口をつぐんでしまった。


「いや、いい。お前のせいではない」


 王は、深いため息をつくと、付き人を呼び、自分の横に座らせていた少年を去らせた。


「今日はもういい。部屋でゆっくり休みなさい」


「ありがとうございます」


 少年は、深く礼をすると、無表情のまま、部屋を後にした。



 王は、悲しみとも、後悔ともとれない複雑な表情で彼を見送ったが、ふと、彼の座っていた椅子に目をやった。


「あれが好んで座っていた椅子だ・・・」


 一人、ため息をついた。王の脳裏には、金色の髪とキラキラした紺碧の瞳の少年が映し出されているのであった。


 一方、部屋を出た少年は、王の愛を一身に集めたように、きらびびやかな長服を身にまとい、彼の歩く先には、幾重にも織物が敷かれ、最上の扱いを受けている。が、瞳は何も見てはいない。無表情のまま、案内されるまま、ただ歩いているのだ。

 まるで、影が四肢を持ったように、立体化しただけのように。


 グレーの瞳とグレーの髪。そして、アイボリーの肌の12・3歳位の少年である。

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