人生チカクカビン その20
人間、生き延びる為に必要な最終手段は、「気合」や「気力」でもないらしい。何故なら、今、ダイスは「気」を失いかけている。
命令系統は、小脳だけが一手に引き受け、戦いを保っているのみ。
生命力、というか、生き延びる力は、「産まれつきの危機回避能力」に併せて、「徹底的に訓練され、身体の隅々まで染み込ませた戦闘パターン」の実行によって発揮されているようだ。
ダイスは、どちらにも優れている。
お陰で戦いは、・・・無駄に長引いている。
更にお互い、「次の一手」が無い。
よって、先に力尽きた者が敗者となるわけだが、相手のモンスター・蟻ダイスは、機械的に刃物を振り回し、集合離散を繰り返すだけで、全く疲れなど感じられない。
一方のダイスは、すでに弾は尽き、補助用のナイフ類は全くと言っていいほど、役にたたないでいる。信じるのは、自分の蹴りと拳のみ・・・。
時間の感覚もわからなくなっているが、多少の時は流れたようだ。ダイスは自分の粗い呼吸と疲労感でそれを感じている。が、『任務』だ。
しかし、そうして生じた僅かな隙を、モンスターは逃さず、ダイスの胸を刃で貫いたのだ!!!
どうして、そうなのか?
人は、命を失いかけたとき、全ての音を失うらしい。
そして、全てのものが、ゆっくりとくっきりと見える。
が、ダイスは自分の胸を貫いた刃を見つめたまま、後方へフワリと飛ばされるのを感じ、自分の身体がどうなっているのか、確認さえできないままでいた。
視線は、煌びやかな大広間の天井を見たまま、動かすこともできない。




