人生チカクカビン その16
鈴木は、いやダイスは、金髪・碧眼のシェスというか、王子に引かれながら、漆黒の世界を移動している。どうやら浮上しようとしている感じがする。なんとなくだが・・・。
「先輩、どうして僕が迎えに来れたか分りますか?」
王子の問いかけに、すぐには何も思い出すことが出来ない。
「・・・さっぱりだ」
「でしょうね。僕もそうでした」
「僕も・・・?」
鈴木の脳が、ゆっくり動き出した。停止していた何かが動き出したようだ。シナプスもニューロンも、血液も・・・。
「僕を助け出した時のことを覚えてますか?」
王子は妙な質問をする。『助け出した?』・・・鈴木の深い処で小さな映像が浮かび始めた。
☆☆☆☆☆
その日、ダイスは上官に呼び出され、その足で王宮へ向かうことになった。
「一介の武官にとっては、非常に光栄な事だ」
上司には、そう言われたが、ダイスにとっては不本意な命令だった。
「子供の相手ですかっ!」
つい、口を突いてしまったが、実際、子供の相手だ。引退後でもいいじゃないか的気分だった。日々の苦しい訓練と、緊急時の命がけの任務は、一人の子供の遊び相手をするためにやってきたんじゃない。まして、少数民族出身の自分が、ここまでやって来れたのは、業績を積むことで、故郷の仲間が、この王国から充分な保護を受けられるからだ。
それが、新しい任務が『子供の相手』。
あきらかに左遷じゃないか。
とにかく命令だ。・・・不本意な気持ち満載で、ダイスは宮殿に向かったのだった。




