人生チカクカビン その13
秘密基地に運び込まれた鈴木は、ここでもしつらえてあった、天蓋付きのベッドに横たえられた。呼吸も脈も回復していない。ハザマは急いで救命装置を運び込むが、王子はそれを阻むように手を上げた。
「放っておいてくれないか」
「何言ってるんですかっ、一刻を争うんですよ!」
珍しくハザマが声を荒げるが、王子は無視をしたまま傍らのソファーに深々と腰をかける。瞳は相変わらず遠くを見ている。
「サンディー、悪いけど、何か飲み物欲しいな」
サンドラは黙って厨房へ行く。更にローズに声をかける。
「ローズ、ちょっと席を外してもらえるかな」
「いやよ」
即答だ。ローズだもの。
「アタシ、王子さまを見損なってよ! 別に人間の一人や二人、どうなろうと構わないけど、なにかその態度、気に入らないわ」
一人や二人、どうなってもいいのかっ。いや、でもローズの怒りは本物らしい。
「どんなカスな相手でも、親切に扱うのが紳士ってものじゃない! こんなツルピカハゲで、がに股で、バカでかくて、ビジュアル的に迷惑なのに、役にも立たない男だって、やることはやってあげるのが礼儀じゃなくて!?」
そっちに怒ってるのかっ! っていうか、鈴木はカスなのかっ。
「ひどいですよっ! ローズさんっ!! そんな言い方ってないじゃないですかっ」
おおっ。ハザマが喰ってかかった。めずらしい。
「鈴木さんは、まがりなりにも“仲間”なんですよっ! カスじゃありません!」
ていうか、『まがりなりに』って言ってるし。
「あら? カスじゃなかったら何? ダメ男? ムダ男?」
「そういうことじゃ、あ―り―ま―せ―ん―――!!」
基本、口喧嘩(口じゃなくても)が苦手なハザマは、声の大きさで勝負に出た。
「あなた、自分と重ね合わせて、哀れんでるだけよ。自分のために怒ってるだけでしょ?」
ローズは平気でどこまでも言える女だ。もともと相性の良くないっぽい二人に、決定的な亀裂が入ってしまった。
「ちょっと待ってよ。二人とも」
王子が口を挟む。珍しい・・・。
「みんな静かにしてほしかったのに・・・」
そっちかい!?
「揉めるから、空気が乱れて困るよ。せっかく捉え掛けた先輩の意識、取り逃がしちゃった・・・」
「エエッ!!!」




