人生チカクカビン その11
「先輩。ひとつ確認するのを忘れてました」
王子が振り返る。バングルを着けたせいだろうか、鈴木は王子から若干の悪戯めいた脳波を感じた。
「言い直せ。“ひとつ意地悪するのを忘れてました”だろう」
「うわっ! 凄い、鈴木さん! よく分りましたね」
鈴木の言葉に、王子では無くハザマが返事をした。当の王子は、その横で「くっくっ・・・」と笑っている。
「酷いなぁ、ハザマ。『確認』だよ」
顔は否定してないが。
「僕の本名と先輩の本名、言えますか?」
「わからん」
即答だ。何しろ鈴木は既にこのテーマを捨てている。三十話以上前から分らないままなのだ。鈴木どころか、読者にも明かされていないし・・・。が、
「あ―――っ?」
「どうしたんですかっ、鈴木さん」
頭を抱えショックを受けている鈴木に、ハザマが駆け寄る。
「思い出せないっっっ」
「いいんです。無理しないでください、鈴木さん」
「いや、分ったんだ」
「分った? 分らないんじゃ無くて、分ったんですか?」
鈴木は今、『惑星の王子さま』始まって以来、一番のショックを受けている。“自分の名前”までが出てこないのだから!!!
「“自分の名”まで分らなくなっているんだ・・・」
頭をかかえたまま鈴木はうなだれる。
「・・・そうでしたか。もしかして鈴木さん、“ユウばぁば”という人物にでも会いました?」
「そんなワケねぇだろ」
「ハザマ、こんなときに冗談は失礼だよ。先輩、僕の名をちゃんと教えなかったばかりに、こんなになっちゃったんだ。今更ですが、僕の名は“パク”です」
「全然ウソだろがっ」
「うわっ、鈴木さんっっ! 巨大化してますよぉ―――!!」
確かに鈴木はズンズンと巨大化している。誰か『打ち出の小槌』でも使ったのかっ! な訳あるまい。
「先輩、怒りなどで脳内が高揚すると覚醒するんですよ。魔人的に」
「今更じゃあ、遅すぎだけどねぇ」
鈴木を見上げながらサンドラがため息をつく。
「まぁ、でも、その辺の確認できたからよかった」
冒頭で王子が言った“確認”とは、コレだったのかっ? 基本やっぱり意地悪なヤツ。それからだ、
「せっかくだから、先輩のお名前教えますね―――っ」
巨大化した鈴木を見上げながら王子が笑って言った。
「『ダイス』ですよ。『ダイス』っ! 僕の通称は『シェス』ですよっ!! 聞こえましたか―――?」
確かに鈴木の耳に、王子の声は届いたようだ。しかし次の瞬間! バングルを着けない者も含め、足元の全員に鈴木の怒り充満な脳波が突き刺さった!
『コ・イ・ツ! 踏んづけたろかっ』




