Fool on the planet
再び意識を取り戻すと、そこは牧歌的な農村だった。木造の小さな家が立ち並び、きっと家々に繋がれた家畜達がもたらす恵みと、離れた場所に見える畑を耕作することでで生計を立てているのだろう。疲れた現代人が理想のスローライフを送るにはうってつけの場所だ。
もっとも、現在進行で何軒かの民家が火に包まれており、あちらこちらで馬や羊に似た家畜がけたたましい鳴き声を上げていることを除けばの話であるが。
あまりの惨状に唖然としていると助けを呼ぶ声で我に返った。よく見ると簡素な衣服に身を包んだ住人が何人も血を流して横たわっており、その傍らで女性が必死で傷口を押さえて止血を試みている。
パンクしそうな頭を一旦停止させ、咄嗟に怪我人の方へ駆け出すが突風が吹いたかと思うと、頭にニット帽を被り、両手に短剣を携えた男が立ちふさがった。
自分と同じ、元々この世界にいる住人ではないということをは服装から理解できる。しかし、理解の範疇から超えているのはその速度だ、この男が目の前に立ちはだかるのを目で追うことすらできなかった。
「お前、こっちの人間じゃないな?尻尾巻いて逃げるなら見逃してやるけど邪魔するならブチ殺すぞ」
どうやら相手も俺がこの世界の住民ではないことを理解している。そして、その上でとても魅力的な提案をしてきた。考えるまでもなく何も見なかったことにしてこの場を立ち去るのが賢明な選択肢なのだろう。
『与えられた力で好き勝手にするのも良いし、自分なりに正義を振りかざしてみるのも良い』
しかし、意識を失う前に聞いた言葉が頭にこびりついていた。気づいた時にはこの村の住民が抵抗するときに使ったのであろう剣を拾い上げ、不細工ながら昔体育の授業で習った剣道の構えを取ってみる。生まれてこの方、真剣など握ったことはないが怯んでくれれば御の字だ。
男は俺が抵抗するとは全く想像していなかったらしく、一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに目を血走しらせて構えを取った。
事情は呑み込めないが、好き勝手に自分なりの正義とやらを振りかざさせてもらおう。
たとえその結果、無様にのたれ死のうともだ。