現実世界で始まったデスゲームで無双して≪神≫になったので、今日も世界を救済している。
ある日突然始まったデスゲーム。
世界中の人々が強制参加させられたそのゲームで、それまで厨二で引きこもりでボッチの高校生だった俺は、ラノベ主人公のテンプレ的活躍を見せた。
つまりラノベの主人公のように無双し、ラノベの主人公のように女の子にモテまくり、ラノベの主人公のようにハーレムを築き上げたのである。
そうして俺TUEEEEとチーレムの限りを尽くした俺は、このゲームの≪神≫の座に上り詰めた。
このゲームの概要をザッと説明すると、
世界中の人々に職業と固有スキルと武器を与えたうえで白と黒2つのグループに分け、
7月1日のゲーム開始から365日後の最終日-≪審判の日≫と呼ばれる-に生存者数の多いグループの勝ちとする、というものだ。
負けた方に所属する者は全員死に、逆に勝った方に属していた死者は生き返ることができる。
そのためすべての人間が否応なしに殺し合いを強制されるという鬼畜仕様となっている。
60億を超える人々にそれぞれ異なる固有スキルを与えるとは、このゲームを始めたヤツつまりホンモノの神様は1日の大半を惰眠と2次元への供物とするクソニートかなにかに違いない。
まあ、会ったことはないのだが。
このゲームのシステムで興味深いのは、敵味方に関わらず、他者を倒すとその固有スキルを糧にして自分の固有スキルが進化する、という点である。
ポイントは他人のスキルを≪奪う≫のではなく、某魔人B氏のごとく≪吸収≫する点である。
つまり、どんなに相手を倒してもスキルの数が増えることはないが、その代わりにスキルがグレードアップするのだ。
ニュー○イプ並みに勘のいいあなたならもうお気付きかもしれないが、≪神≫の力を得るためには、このスキル吸収を世界中の人全員に対して行わなければならない。
つまり≪神≫とはスキルの名称であり、ここに到達したただ一人のプレイヤーにのみ職業としての≪神≫の座が与えられる。
そうして神になると、このゲームを最初からやり直す権限が手に入る。
なぜそんなことをするかというと、実は神には独自の勝利条件があるのだ。
それは
「審判の日の正午時点で2つのグループの生存者数をぴったり同じにすること」
つまり白と黒を引き分けにすることである。ただし全滅は引き分けとはカウントされない。
神がゲームに勝利するとゲームが始まる前の時点に世界を戻すことができる。
逆に言えば神が勝利することでしか世界を救済することは出来ない。
神になった俺には下界への直接の干渉は認められておらず、各プレイヤーの≪運 《ラック》≫を調節したり、モンスターを投下したり、アイテムを蒔いたりすることでしかゲームを管理できない。
そのため、このゲームを神がクリアするのは20メートル離れたゴミ箱に鼻をかんだティッシュを正確に投げ込む並みに至難の技である。
審判の日にはすでにどちらかのグループが大差をつけているので、たいていは
「俺たちは最後まであきらめない!
死んでいった仲間たちのために!!!」
とか言って発光し出したヤツらに超最強の武器を奇跡的な形で与えるという、
まるでLI○Nプレゼンツ(え、なに?モザイクになってないってか?冗談キツいわね)
の某クイズ番組決勝終盤戦がごとき得点調整を行うことになるのだが、
これをやると負けていたグループが
「怒涛の追い上げを見せて」そのまま追い抜いてしまい、結局神である俺は負けてしまう。
実は俺、こんな感じでかれこれこのゲームを10周くらいしている。
頑張ってゲームに勝利したグループには気の毒だが、ゲーム終了時に神の職業に就いているプレイヤーにリセット権限が与えられるのだ。
初めのうちは自分が管理するゲームで人が死ぬたびに罪悪感と無力感の涙を流したものだが、
1周もしないうちにそんな感情はなくなり、人の死を単なる数値と捉えるようになった。……なに?
人でなしだって?
俺が?
いやいや。よく考えてみなさいよ。
なんてったて一回のゲームにつき最低でも30億人が死ぬところを見ることになるんだから。
あなた方だって最初に卍解見たときは
「ヴぁんかいしゅげええ!!!」
ってなったけど、だんだん
「え、なに?こいつまだ始解?ダッサWモブかよW」
ってなっていった経験があるだろう?
それと同じで、どんなにショッキングな体験でも幾度となく繰り返すうちに感覚が麻痺してくるものだ。
「なにをニヤニヤしてるのですか、マスター。
また≪神眼≫を使って女性のナマ着替えノゾいてたのでしょうか?
だとしたら本物の変態ですね」
今話しかけてきたのは俺の使い魔の一人、ドSメガネ系エルフのフレアだ。
だが今の推測にはいろいろと誤解があるようなので正しておかなければ。
「違うな。俺は断じてそんなことはしていない」
「では道ゆく女子高生のスカートの中を超ローアングル≪神眼≫でノゾいてたのですね」
何故だ。
まあ、前科は数件(とでもしておこうか)あるのだけど。
「図星ですか。マスターはイケないヒトですわね。……愛のムチをご所望でしょうか?」
フレアの手にはいつの間にやら愛のムチ(物理)が握られていて、それをピシャリピシャリと弄んでいる。
「……結構だ」
思わず息を呑む。
「それに俺は何もノゾいてはいない」
「そ、そうだったんですか。……残念です」
何がだ。
「そんなことより、今日はニューゲームの初日だろう」
そこへ新手が現れる。
「ヒドいわマスター。そんな日にこのリリイちゃんを忘れるなんて」
頬を膨らませながらこちらを上目遣いにじっと見つめているのは小悪魔系悪魔のリリイ。
俺の使い魔衆の一人だ。
一体お前には何人の使い魔がいるのかという話だが、俺の使い魔は5人。
そのうち2人は警備の名目でこの神域内をブラついていて不在。
もう一人は所在不明。
確か下界に遊びに行くとか言って数日前に出て行って、それっきり。
おそらくもう誰かの経験値と成り果てていることだろう。
使い魔は気が向いた時にモンスターを生成する要領で簡単に作れるから、別に悲しくもなんともない。
たぶん、温め中のカップ麺のフタがいつの間にか開いていたことに「よし、3分」となってから気付いたときの方が堪えると思う。
……え?使い魔は全員女の子なのかって?
そうだ。
俺の使い魔は全員女。
ハーレムは一度築くと決して抜け出せない魔宮なのだ。
「それで、今回はどのような戦略をお立てになったのですか?」
フレアが眼鏡を人差し指でクイと押し上げながら尋ねる。
常軌を逸した切り替えの速さ。
二階のパソコンでAVを観ている時に階段の軋む音を察知した俺の画面がYAH○○に切り替わるときのそれに匹敵する……いや、それ以上かもしれない。
さて、気をとり直して。
「そうだな。これまでは≪審判の日≫の直前になってから一気に人数調整をやって失敗してるからなぁ。
……そうだ。プレイヤー全員の≪運 ≫を最低に設定してみようか」
このゲームにおける≪運 ≫とは、普段使う「運がいい」「運が悪い」の意味に加えて、
モンスターを倒した際の獲得経験値量やアイテムドロップ率にも影響する隠しパラメータである。
「確か、≪運 《ラック》≫が低いとレベルが上がりにくくなるのよね。
そうでしょ、マスター?」
リリイは小首をかしげながら上目遣いにこっちを見つめている。
小悪魔系女子の決まり手の一つ、
「顔を傾けることによって表情に陰影をつけて男をドキッとさせる」
の構えだ。
「そうだ。
どれだけ雑魚を倒してもレベルが思うように上がらなければ必然的にプレイヤーは戦闘を避ける。
戦闘を避ければ死者数がグッと減る。
死者数が少なければ生存者数の差が小さくて済むから、≪審判の日≫の調整が軽くなる」
「なるほど。しかし、案外微調整の方が難しいのではないでしょうか?」
フレアは冷静モード継続中。
「えーっと、稼ぎたい死亡者数ピッタリの集団がいるところに高レベルのモンスターを投下して全滅させるってのはどうだ?」
「リリイ、それがいいと思う。さすがマスターね」
今度は常套手段「ほめ殺し」。
うーむ、我が使い魔ながら緩急のついたなかなか良い攻撃をするではないか。
「私も同感です。プレイヤーのレベルが低ければ全滅させるのは容易いですし」
「じゃあ、さっそくゲームを始めようか」
俺はパチリと指を鳴らす。
それがゲームスタートのサインなのだ。
職業や固有スキルの割り振り、プレイヤーへのゲーム概要及びルール説明といったことはシステムが勝手にやってくれるから、基本的に≪神≫はゲーム中、ただの観測者兼モンスター&アイテム製造機と化す。
「面倒だし、しばらくは100倍速で様子見だな」
数ある≪神≫のスキルの中でも、特に便利なのが≪神眼≫と≪時間加速≫である。
100倍速なら1日が約14分、365日が約3.5日に圧縮でき、最大で200倍まで加速できるので大変重宝している。
目の前にディスプレイを創り出して、死者数推移の観測を開始する。
フレアとリリイもそれを見ようと後ろから覗き込んでくる。
「待ってろ。もう少しで表示されるから」
俺がそう言うと同時に、ディスプレイに死者数が数字で表示される……ん?
見間違いだろうか、俺には凄まじい速度で死者数が増加しているように見えるのだが……。
目をこすってもう一度死者数を見る。
間違いない。
やはり死者数は増加している。
まだゲーム開始から下界の時間で1日も経っていないにもかかわらず、すでに世界中で50万人以上が死亡している。
「一体何が起こっているのでしょうか?」
流石のフレア(冷静ver)もこれには動揺しているようだ。
「分からん。過去ログを見てみよう」
俺は≪時間加速≫を解除してから画面に過去ログを表示させる。
≪神≫といえども時間を巻き戻すことは出来ないが、過去ログを閲覧することは出来る。
画面を操作して、死人が出たシーンを検索する。一つ目の映像の再生が始まる。
……どうやら現場は日本のようだ。
禿げた老人が散歩していると、画面の隅に一羽のカラスがあらわれた。
カラスはふらふらと辺りを飛び回ったのち、突然があっと唸ってクチバシを下にして真っ逆さまに落下。
その真下には眩いスキンヘッド。
そして……無防備な老人の頭に鋭いクチバシがダブルブル。
……ギャグか、ギャグなのか!?
ツッコミどころが多すぎて脳の回線が処理落ちしてしまった。
思考を切り替えて
「次いってみよう」
これはたまたまだと自分に言い聞かせてから、再生ボタンにタッチする。
次の映像が再生される。
今度の現場はヨーロッパ辺りの台所。
女性がケチャップを冷蔵庫から取り出して味見しようとしている。
……。おかしい。
嫌な予感がする。
ケチャップをいちいち味見する主婦がこの世のどこにいるというのだ。
そして女性がケチャップに口をつける。
途端に何やら声にならない絶叫を挙げる女性。
彼女は文字通り口から火を噴いたのち、沈黙した。
……ふざけるな。
火を噴いたのは彼女の固有スキルの発現ということにして、一体彼女は何を舐めたのだ?トウガラシか、トウガラシが入っていたのか!?
仮にトウガラシだったとして、それでなぜ死ぬんだ!?
今度は脳の処理が間に合ったようで、言いたいことを言い切った俺がぜいぜいと息を荒らげていると
「分かりましたわ」
とフレアが静かにつぶやいた。
「彼らは運が悪かったのです」
「なにを言うかと思ったら、なんだ。
そんなの見れば誰だってわかるじゃない」
これこそリリイの本性。
ほかの女に対して隙あらば徹底的な攻撃を行い、ライバルをせん滅する。
「そうではありません。
私が言いたいのは、彼らが死んだのは私たちが彼らの≪運 《ラック》≫を最低に設定したからではないか、ということです」
「なるほど!そういうことね!」
先ほどまでの攻勢はどこへやら、リリイはぽん、と手を叩いて納得している。
さっきの惨劇が運 《ラック》の良しあし云々だけの問題だとも思えないが、まあ、確かにそういうことならこの目の前の不条理にも一応の説明がつく。
「仕方ない。
≪運 ≫の設定はもう変更できないから、200倍速でさっさと終わらせて次のゲームに懸けよう」
「マスター。このような自然死の場合、死亡したプレイヤーの固有スキルはどうなるのでしょうか」
……あんな死に方の一体どの辺が自然なのだろうか?しかしながら、まあ、質問の内容は的を射ている。
「たしか、生きているプレイヤー全員に均等に配分されるはずだ。
全プレイヤーの固有スキルを吸収しないと≪神≫のスキルにはたどり着けないから、そうしないと上手くいかないんだろう」
「やはりそうなのですね。
分かりました。では、今回のゲームはお諦めになるようですから、私は神殿で休んでいてもよろしいでしょうか?」
「リリイももう疲れちゃった。ね、いいでしょ、マスター?」
ゲームに熱中したので俺も疲れている。しばらく眠ろうか。
「いいぞ。ついでに俺も休むから」
有難うございます、とフレア。
やったあ、とリリイ。
二人を見送ったのち、俺も寝床へ向かう。使い魔衆も俺も神殿を生活拠点としていることには変わりないのだが、使い魔衆には広大な神殿の西側を使わせて、自分は東側を使っている。
寝るときくらいは静かなところがいいのだ。寝室に着くなりベットに飛び込む。
ニューゲーム初日の緊張で疲れていたのか、そのまますぐに眠り込んでしまった。
目覚めると朝だった。
昨夜は眠り通しで何も食べていないのだが、基本的に≪神≫は食事を摂る必要がない。
もちろん食べたければ食べてもいいが、身体的には何のメリットもない。梅雨時にマスクを着けるようなものだ。
一応ディスプレイを呼び出して下界の状況を確認する。
下界はゲーム開始から150日程度経過したところらしい。
死者数は3億人ほどになっているが、前日のような異常な増加は見られない。
死因を検索してもモンスターとの戦闘やプレイヤー同士の戦闘といったごく普通のものばかりだ。
しかも白と黒の生存者数はほとんど同じ。
完全に諦めていた今回のゲームだが、いつの間にか当初の狙い通りになっているではないか。
シャワーを浴びてさっぱりしてからフレアとリリイを呼び出す。
事態の予想外の好転に二人は驚いた。
「いったい何がどうなってるのよ、マスター?」
リリイがちんぷんかんぷんの様相を呈していると
「……もともと運の悪い方が全員亡くなったからではないでしょうか?」
とフレア。
冷静モードの彼女は非常に賢く、役に立つ。
「つまり、俺たちが≪運≫を最低に設定したとしても、生まれつきの運の悪さは引き継がれるってことか?」
「おそらくそうかと。
亡くなった方々は私たちが≪運≫を最低に設定したことと、生まれ持った運の悪さの相乗効果で亡くなったのではないでしょうか」
なるほど。それなら死者数の増加率が下がったことも納得できる。
「よし。このまま200倍速で300日目くらいまで観測してから人数調整にとりかかろう」
かしこまりました、とフレア。
アイアイサー、とリリイ。
特にすることもないし、過去ログ使ってアニメでもみるかな。
それから神域が薄暗くなるまでダラダラと過ごしたのち、ふと思い立って下界の状況を見てみると、驚いたことに再び死者数の増加が加速しているではないか。
それも昨日よりも遥かに急激な増加だ。
慌ててフレアとリリイを呼び出す。
急な呼び出しだったのでリリイには派手なねぐせとシーツの跡がついている。
「ねむいよー、マスタぁー」
とリリイは俺にもたれ掛かってくる。
フレアはというと
「急に呼び出して何の用でしょうか。
……さてはいかがわしい動画をご覧になって感情を抑えられなくなったのですね。
まったく、マスターはなんという性癖をお持ちなのでしょうか」
しまった。
完全にスイッチが入っている。
この数時間で一体何があったというのだ?
「気持ち悪い。燃やしてしまいましょうか」
フレアの周囲にはいつの間にかおびただしい数のロウソクが出現していた。
一応断っておくが、俺はこんなつもりでこいつを「フレア」と名付けたのではない。
「……結構だ」
丁重にお断りしたのち、現在の状況を伝えると、フレアが聞いてきた。
「死因はどのようなものなのでしょうか?」
まるでら○まが水を被ったかのような豹変ぶり。もはや超自然の域に達しているといっても過言ではないだろう。
「過去ログを洗ってみる」
検索してみると、どれも死因はプレイヤー同士の戦闘ばかり。
死者数はすでに40億人に膨れ上がっている。
≪神眼≫を発動して下界の現在の様子を探ると、世界中でプレイヤー同士の殺し合いが発生しているではないか。
だめだ。状況が飲み込めない。
もっと情報を集めなければ。
「フレア、リリイ。下界に降りて情報を集めてきてくれ」
言葉を喋る使い魔を作るのは大変だし、この状況を理解している方が情報収集に都合がいい。
こいつらはモンスターとしては強力な部類だから、やられることもないだろうという判断である。
2人はこっちの時間で30分も経たないうちに無事戻ってきた。
どちらも無傷である。
「マスターのバカ!3日間大変だったんだから!」
リリイはご立腹のようだ。
「2人とも、お疲れ様。で、どうだったんだ?」
はい、とフレアが答える。
「聞くところによると、モンスターを倒すより他のプレイヤーを倒した方が手っ取り早く強くなれるという情報が広まっているそうです」
……そうか。
固有スキルの吸収に≪運≫は一切関わらない。
そのためレベルを上げるよりもスキルを進化させる方が効率的だったのだろう。
それに誰かが気づいて、一気に情報が拡散したらしい。
そうこうするうちに生存者は1億人程度に減っている。
「あーあ。このままじゃ最後の一人まで減っちゃうよ、マスター?」
「最後の一人……とすると……」
「そのプレイヤーは≪神≫のスキルを手に入れることになりますね」
……なんだと!?
≪神≫が2人になれば俺が戦わなければならないではないか。
そんなのは面倒だし、最悪≪神≫の座を明け渡すこともあり得る。
大慌てで≪時間加速≫を解除して下界の様子を見る。
時すでに遅し。
白と黒の生存者全員による最終決戦が今にも始まろうとしていた。
その数白1万に黒1万五千といったところか。
決戦の地はロンドン。
テムズ川を挟んで両軍ロンドン橋の両端から睨み合っている。
雄叫びがあがり堰を切ったように人だかりが橋へ躍り出る。
凄まじい光景だ。
数の利で黒の軍勢が白をじわりじわりと押し戻し、戦場は西ロンドン市街全域に広がる。俺はその様子をまるで三国○双をやっているような気分で傍観していた。
既に大局は決した。
あとはもう黒の一方的な掃討戦……と思いきや突如街の西の端で光の柱が上がってそれが収縮したかと思うと、黒の死亡者が急速に増え始めた。
ただちに状況を探る。
光の中心にいるのは日本人とおぼしき少年。手には剣を携え、それが一振りされるごとに周囲のすべてが薙ぎ払われる。
……何だ。ただの覚醒じゃないか。
この調子なら、神域に上がってくる者がいるとすればこいつだろう。
少年が街の中心部にせまったそのとき、光を纏った少年を迎え撃つように街の東側から黒い闇の柱が天を貫くようにして立ち昇った。
どうも黒のリーダーが本気を出したらしい。
闇の柱は勢いそのままに街の中心へと直進し、光と闇が街の中心で激突する。
そこを中心として爆風と熱と光とが半球状に広がり、街を蹂躙した。
砂煙が消えると、ロンドンの街があった場所は辺り一面瓦礫すらない荒野と化していた。
大地はこれもまた光と闇の衝突地点を中心に半球状にえぐられていて、その中心には先ほどの少年がただ一人立っていた。
ディスプレイに目をやる。
生存者数、1。
再び下界に視線を戻すと、そこに少年の姿はなかった。
≪神眼≫を解き、顔を上げた瞬間、ドオオオーン、とすさまじい破壊音が背後で起こった。
振り向くとそこには件の少年の姿が。
少年がこちらを睨みつける。
年齢は俺と同じか1,2歳下かといったところだろう。
その視線はまさしく憎むべき対象を見る目。クッパを見るマリオの目などという生やさしいものではない。
あれはゲマを見るドラ○エ5の主人公の目だ。
こいつ、さてはこのデスゲームを始めたのは俺だと思ってやがるな。
確かに開始の合図を出したり、≪運≫を最低に設定したりはしたが、それも別に好きでやっているのではない。
少年が口を開いた。
「……お前がこんなゲームを始めたせいでみんな死んだんだ!!俺はお前を許さない!!!」
……やっぱりそうか。
少年の剣がさらに強い光を発する。
何だ、ビームでも出るのか?
雄たけびとともにその剣が振り下ろされる。やはりビームのようだ。
フレアとリリイが慌てて俺の背後に隠れる。おのれ、主人を盾にするとはなんという使い魔だ。
俺は右の拳を前に突き出し、迫りくるビームに向かって手を開く――
勝負は一瞬。
開かれた俺の手から我ながらビックリするほどのエネルギー波が放たれ、放たれたビームを少年もろとも呑み込んで、試合終了。
いやはや、なんともあっけない。
「お強いのですね、マスター」
「すごーい!カッコよかったよ、マスター!」
俺の後ろから外道な使い魔が二人、ひょっこりと出てくる。
「お前ら、主であるこの俺を盾にしてただで済むと思ってるのか?」
ここは一喝しておかなければ、後々に関わる。
「だってぇ、マスターならあんなやつラクショーだと思ったんだもん」
リリイに悪びれる様子はない。
「同じく」
お前もか、フレア。
「それにしても、今回も上手くいきませんでしたね」
……言いたいことはいろいろあるが。
「そうだな。でもまた次頑張ればいいさ。たとえ何回、何十回、何百回失敗したとしても、いつかこのゲームがなかった未来を取り返せたら、それでいい」
「……そうですわね。
私もその日までマスターの使い魔として力を尽くさせていただきます」
「はーい!
リリイも最後までマスターにお供しまーす!!」
……そうして俺は今日も、明日も、明後日も世界を救済するのだった。