自分達の歴史
「大方、星利さんの懸念は片付きました?」
「そうだね。詩恵の中身が詩恵さんなら、わたしと雅人引き合わせないでしょ?」
私のことを味方だと完全に認定したのか、星利は不敵な笑みをむけてくる。
「それはどうかしらね。雅人には私の中身について打ち明けようと思うの。それと星利とのやりとりの結果、雅人が星利に惹かれればあるいは、よ」
「え、言うの!?」
平然と言ってのけたのだが、星利からの反応は熱いもので、温度差を意識せざるをえなかった。
「さっき星利さん言ったじゃない。『雅人は詩恵が好き』だって。なんとなく彼には言わなきゃいけない気がするの。他の誰に隠しても」
星利は不安で心配なような思案するような納得しているような複雑な表情をした。
「わたしは誰にも前世の記憶があるって打ち明けてないよ?」
前例も正解も無いような問題に、星利は自身の経験を語る。単に私の真意を知りたいだけなのかもしれない。
「最初から他人なのと、途中から他人なのとは違うでしょう」
我ながら抽象的すぎる言い方だ。しかし星利は大意を察してくれたらしい。
「これまで築いてきたものが詩恵にはあるもんね。わたしはほとんど全部、自分で作ったけど」
「そういうこと」
話は大体終わったので、洋梨のタルトを口にする。
「おいしい」
初めて食べるはずなのに、何故か親しみある味わいだ。洋菓子は洋子さんの作ったものしか私は食べたことない。詩恵も母と洋子さんの菓子しか食べてないイメージだ。友達と買い食いなんてこともなかったようだし。
「詩恵さんは雅人とか他のルート知りたくないの?」
お菓子の味について思考に浸っていると、ふいに星利が声をかけてきた。私は少し考えてから、やはり一番気になるのは雅人のことだ、と思った。
「ええ。特には。雅人がどうして編入してくるのかは気になるところがあるけれど」
星利が苦い顔をする。眉尻を下げているわけではないから……。
「悪い理由ではないけれど、口にするのは躊躇われるみたいね」
的を得られた星利は、あははと乾いた笑いを発して目を逸らした。普段は割と相手の目を真っ直ぐ見て話す星利。都合が悪くなると目をそらすのは、癖、だろうか。