奇怪
さて、毎夜外に出るようになってこれで四日目だ。
二日目も三日目も、闇はただ深いだけで、なんの変化もなんの出会いもなかった。つまらんな。ただの迷信だったのか?
しかし、これくらいで諦めるのももったいない気がして、男は眠い目をこすりながらその日も外に出た。
さすがに夜にも慣れてきた。改めて街を眺めると、外に出ている人はもちろん灯りのついている家すらひとつもない。
空に浮かんでぼぅーと光る黄色っぽいものが、昨日より少し大きい気がする。そしてぽつぽつと白い光が真っ暗な空に散っている。あれは何て言うのだろう。もしやあれが皆が恐れているものなのだろうか。いや、毎日見ていても何が起こるわけでもないし、ずっと見ていたいほど綺麗な光に思えるからたぶんあれは恐ろしいものではないだろう。
上を見上げながらのろのろと歩いていると、何かにぶつかった。そして男は驚愕した。
男がぶつかったのは人らしきものの背中だったのだ。
…誰だ。足がわずかに震える。
人影は、ぶつかられたのにも関わらす、振り返らないどころかまったく反応もしない。男は恐る恐る声をかけた。
「すまん。余所見をしていて気がつかなかった。」
今度は反応があった。数分にも思える長い沈黙の後に、いえお気になさらず、と少し低めの女性の声でかすかな返事がきこえた。
言葉が通じて一気に安心した男はさらに話しかけた。
「こんな夜中に人に会ったのははじめてだ。君も夜というものに興味でもわいたのかい?」
「………いえ。」
相変わらず男の方を向かずに佇んだまま返事をする。
言葉につまった男は口を開けたり閉じたりしながらどうしたものかと考えていた。と、相手が自分から声を発した。
「ここでなら、空を独り占めできるから。いえ、できるはずだった。なぜ外に人がいるの。」
独り言のような無機質な声が恐ろしく、男は完全に押し黙った。
どれくらいの時がたったのか。それは一瞬だったのかもしれないが、男にはありえないほど長く感じられた。
その女性らしき人は、ふと歩き出して通りの向こうに消えていった。