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エウリカ首都・ガルナ1

運よく休憩所に辻馬車が停留していたために、それに乗って次の日に到着する。

ペルア村とは違い、そこは舗装された道路と所狭しと家々が建ち並ぶ光景が視界に広がっていた。

村からくると少し窮屈な感じがするが、シオンは景色を眺めた後にすぐに役所へと思考を切り替える。

道行く人々に役所への道のりを問いかけ、小走りでそこに向かうと、少々込み合っていたために、係員であろう人に紙を手渡されてそこに記入する。

名前・出身・内容、この三点を記入するのだが、そこでシオンは迷う。

川に流れて不法入国した人間だ、理由はどうあれこのような公共の場所で面倒事をさらしたくはない、というよりさっさとペルア村を報告して対処してもらい、そのあとにやるほうが良いとシオンは判断する。


「(すまないアルアさん……)」


心の中で謝りつつもアルアの名前を使わせてもらい、内容をペルア村の問題についてと記入し、椅子へと座り、少し待つ。


「レイヴンさん、アルア・レイヴンさん」


声を駆けられて、一瞬停止したがすぐに自分だと理解してシオンは立ち上がり、窓口へと近づく。

そこにいたのは眼鏡をかけた肩まで伸ばした栗色の髪を持つ女性であった。


「ペルア村の問題について、ですか、たしか先日報告がありましたね、その方とは違いますか?」


「はい、報告された方は村に戻ってはいません」


「戻ってはいない……?少々お待ちください」


女性はファイルを手に取り、パラパラとめくる。

しかしそのファイルの最後までめくり続け、焦るようにファイルの日付を見る。

日付は三週間ほど前のもので、それで問題がなかったようなので再度ファイルの中身へと視線を落とし、ファイルをめくり続ける。

だが、再び最後までめくってしまった。


「しょ、少々お待ちください……」


後ろにいる同じ役員だろうか、小柄な少女へと問いかけると少女はもう一つファイルを持ってきてパラパラとめくりあげるが、最後まで到達する。


「たしか……ファンテッド様が動かれたはずでしょ……」


「でも、また来られたわけだし、動いていないのでは……」


「なんでよ……!?」


内緒話のように小さな声で話しているのだがシオンの耳に普通に届いてしまっている。

そんな彼女らにシオンは手を挙げて視線を集める。


「あー兵士は来ませんでしたがドラゴンの騒ぎについては既にほとんどが終わっていますが、警戒のために兵士を出していただきたいのです」


「は、はい、それではそのようにこちらで報告書を届けださせていただきます、こちらに不備があり、先日の訴えを書いた書類があったはずなのですが、申し訳ございません、紛失してしまったようなのです」


「いや別にいいです、それよりもこちらに先に報告に来た村人は今どこにいるかわかりますか?」


「たしかそれについてはファンテッド様が直接話を聞きたいということで城の方に向かわせてほしいとのことをお伝えいたしました、その後についてはこちらではわからないです」


――怪しすぎる。


「ファンテッド様とはどのような方なのでしょうか」


「騎士団の幹部の一人で伯爵家の貴族様になります」


「……そちらのほうに村人について教えていただけないか通達を送っていただくことはできないでしょうか」


「本人の返答が得られる確立は低いですが、こちらの方で送らせていただきます」


「はい大丈夫です」


もとより村人の安否については二の次だ、ひどい話だが、村に兵士を出してもらうほうが先だ。


「返答については数日ほどかかるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」


「大丈夫です」


「宿についてはこちらで手配させていただきますので」


そういってすぐに後ろへと引っ込み、少し経った後に小走りでこちらへと向かう。


「宿が取れました、料金についてはこちらから支払わせていただきますのでご安心ください、役所から出て――」


宿の道のりをきいて、そちらのほうへと向かうことにする。

かなり申し訳なさそうに女性は何度も謝ってきたが――正直書類紛失については役所の方では大問題だろうが、こちらについてはすぐに兵士を出していただければ問題ない。

しかしできれば村人の安否も知りたいところだ。

そう考えながら宿屋につき、与えられた個室へと入る。

ベッドへと体を預けると、何故か久しぶりな感覚がした。


「……もう、どれくらいたっただろうか」


ディパングの屋敷から旅立ったことを思い出す。

テレジアとディパングの国境付近で金を失くすといった失態も今では笑い話だ。

そこから貴族という身分を隠し、ボロボロの布を纏って、よくわからん貿易……だろうか、それについての仕事を請け負ったことを思い出す。

そこからテレジア城へと向かい、銀髪の少女と出会い、貴族のお嬢様かと思ってこれまでのことを話した――その少女がお姫様だったんだよなぁ。

そこから最初から最前線へと配備された。

キツかったが、ナターシャさんもいたし、だからこそ生きてこれた――。


「……風呂に入るか」


お湯の風呂だったらいいなぁと思いながらシオンは入り口へと向かう。







「ウァッハッハッハ!」


「ゲンイチロウ、お前の息子が英雄になるとはな!さすがお前の子だ!」


豪華絢爛なパーティ会場で、二人が肩を組み合って酒を豪快に飲む。

ゲンイチロウと呼ばれた白いひげを蓄えた初老の男性が豪快に笑い、長身のこれまた初老の男性は笑いながらも褒める。

長身の男はディパングの皇帝である……皇帝なのだが。


「ユウキ、お前も負けるんじゃないぞ、シオンにあった時目を丸くして驚くぐらい立派になってやれ、二代目賢帝ヤマトと言われるほどにな!賢帝ユウキ、フォォォッ!」


「酔っぱらいすぎです父上」


叫ぶゲンイチロウの息子にしてスカイライト家長男のシオンが呆れた表情で父親をなだめる。


「カエデ、今どんな気持ちだ?お前の未来の夫が英雄になった今どんな気持ちだ?」


「何をいってるのですか!シオンがこうなるなんてわかりきってましたヴフォッアハハハハハハ!アハハハハハ!アハハハゲホォッゴフッゴホッアハハゲホッ」


「カエデ様ァ笑い上戸なんですから飲み過ぎないでくださいと始まる前に申し上げたではありませんか!?あぁ着物にお酒が!?」


美しい黒髪の美しい着物を着た、これまた美しい少女は全力で爆笑して酒を吹き出すディパングの姫君、そこに執事であろう人物がハンカチを持って必死にあって着物を護るのだがさすがにすべてから守れるわけもない。


「はぁ……はぁ」


もう嫌だ、疲れた、そんな言葉が顔に書かれている執事にポンと肩を叩くのは二男のセツナと、その後ろに控えるユウキだった。


「……母さん、呼んでくるよ」


「……お願いします」


「俺もいこう」


その数分後、はしゃぎ過ぎた男性二人を止めるために、二人の妻が満面の笑みで登場し、男二人の叫びが響き渡った後、このパーティはお開きとなったのだった。

この騒ぎの次の日、シオンが行方不明であることを知って、国を挙げて捜索活動が開始されるのだった。

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