ペルア村・3(最終)
勘違い系というのは実力勘違いや、思考といったものを勘違いしてしまうものがありますが、実力は伴い、思考はある程度伴っておりますが、主人公はお人好しですが夢に一貫しています。
基本この物語は主人公パートだとかなり地味ですが、それを取り巻く環境が勘違いにより行動し、主人公の行動によりさらに勘違いを呼び、いつの間にか勘違いが深まり、そこからまた勘違いを呼びというループにより構成されます。
そして次のガルナで主人公が後戻りできなくなったと勘違いし、そこから主人公のいもしない追手からの逃走が開始されます。
うーん説明の順番がおかしいですね。
ここで一つ、このドラゴン騒ぎの犯人について語ろう。
そう、目の前の黒いローブをきた小柄の魔術師のような存在が犯人である。
ドラゴンは本物ではない、幻影によって作り出した虚像である。
そしてこの魔術師は、広場に投影したドラゴンと入口からはいってきたであろう侵入者を見るために、見渡せる入り口付近の横穴に入り口をこれまた幻影で隠し隠れた。
「ぼ、ぼくの魔術師をみやぶっただとぉ!?」
そう言葉にして魔術師は現実を理解する。
目の前にいる少年は剣を携え、こちらへとかなりの速度で接近する。
腕が振るえ、思考が混乱する。
そもそも煙玉によって幻影といった錯覚にとらわれずに突っ込んできたからこそシオンはここに到達できたのだが、混乱する頭では理解できなかった。
魔術式を構成し、炎を放つ。
直撃しろと願ったわけだが、そんな願いがかなうことはなく、回転しながらの横跳びで軽く避けられる。
次の、次の魔術を構成しなければ、飛ばす系の魔法は回避される、ならば磔にするものか足止めにするものか風の魔術で範囲を広くするべきか、それとも呪いをやるべきか、いや呪いといったものだと速効性をもたなければ殺されるのは自分だ、なら磔や足止めでするべきだろうか、それでも絶対に当たるといった確証は全くない上に今の状態だと構成前に――
混乱に混乱を呼び判断を募らせ続け、思考がパンクする。
その時点ですでに一メートルもなく、後ろへと到達した剣士は魔術師の肩を軽くポンと叩く。
ビクリと肩を揺らす、すでに魔術師は剣士から恐怖しか感じていなかった。
「大丈夫だ、怖くない」
全然大丈夫ではない。
幻影を見破られ、攻撃をかわされ、すでに犯人は自分であることも見破っているであろうなどと信じ切ってしまっている魔術師にとって、「大丈夫だ、怖くない」の『怖くない』という言葉に『死ぬことは』という言葉がついているように感じてしまう。
股間が何か濡れている感じがする。
自分が漏らしているということは即座に理解できた。
緊張と恐怖のあまり過呼吸をおこし、餌をねだる魚のようにパクパクと口を開閉させる状態を続けた数秒後、魔術師は悲鳴を上げて全力逃走をする。
シオンにとって魔術師という存在はやはりドラゴンと同じような存在だ。
神話の中でしか知らない、つまりは物語で存在するいわば妄想の産物だ。
だがドラゴンをこの目で見た瞬間、魔術師のような存在をみたとき一概にありえないと否定することはできなかった。
魔術師か、それっぽい服装をした人か。
その答えを出すには魔術をみせてもらうぐらいしかできないので、その思考をやめておくことにする。
そうなると何故目の前に人間がいるのだろうかと考える。
シオンは迷い込んでしまったのか、それともドラゴンを倒そうとしたのかと二つ考えてみる。
しかしドラゴン討伐に乗り出した者がいるとは村人は話してはいなかった、そうなると迷い込んでしまい、ドラゴンに出会い、恐怖でここに逃げ込んでしまったと考えるほうが自然だ。
かなり慌てている様子だし、とりあえず落ち着かせようとそう考えた時、魔術師のような人間は炎を放ってきた。
その瞬間、最初の疑問は答えがでる、目の前の存在は魔術師だと。
魔術師だというのなら、話は早い、協力してドラゴンを倒す――のは正直できるとは言えない、ならば人質と共に逃げるというベストな結果を出すために手を取り合うべきだ。
混乱し続ける魔術師へと近づき、肩に手を置く。
「大丈夫だ、怖くない」
優しい声で優しく微笑みながらそういった。
その瞬間魔術師は固まる、大丈夫だろうかと顔色を見ようとした瞬間に魔術師は全力で走り出す。
「お、おい!そっちは!」
声をかけるが止まらない、気が付けばその姿は小さくなる――が、ドラゴンの咆哮や魔術師の悲鳴は聞こえない――何故だろうか、巣の奥へとドラゴンが戻ってしまったのだろうかとそう考え、外に出るべきかと横穴の入り口付近をみたとき、
「あ、ありがとうございます!」
後ろから声をかけられる。
何事かと振り向くと、そこにいたのは牢屋に囚われていた若い女性達だった。
シオンは正直意味不明だったが、そのままにするわけもなくカギを破壊し、外へと出す。
女性達は手を取り合い喜び合う、その光景を横目に見つつ、シオンは横穴の入り口付近で左右を何度も見る。
あんなに巨大な存在であったドラゴンが影も形もないのだ、何が起こっているのだろうかと疑問符を浮かべ首をかしげながらも、好機として女性達を先導し、村へと向かうことにする。
かくしてペルア村のドラゴン騒動は、本人が全く理解できずに終了したのである。
「ユエ姉ちゃん……!」
「カイ、大丈夫だった?」
「そ、それは俺がいうべきじゃないのかな……?でも、よかった、よかったよぉ……」
ペルア村でシオンたちへと最初に嘆願した少年と、栗色の髪色である彼の姉は抱き合い、涙し合う。
「シオン兄ちゃん、ありがとう!」
「シオンさんありがとうございます!」
口々と村人がお礼を言われている中、シオンのみが納得がいかない表情だ。
パズルのピースが最後の1つだというのに何故か入らない、そんな納得のいかない感覚が彼の中がぐるぐると回転していたのだが、ふぅと一息をついて笑みを見せる。
「……まぁいいか」
そう若干諦めを混じらせつつ、笑みを浮かべてお礼の言葉へと対応していたのだが、一つ思い出した。
エウリカの王都へと向かったこの村の男たちである。
もしかしたら首都についていたのかもしれない、そうなると軍事を整えるのが遅れてしまって今の今までこれなかったのかもしれない。
いや――そもそも青年たちは何故帰ってこないのだろうか。
その前にこのドラゴン騒ぎはこれで終わったとは思えなかった。
ドラゴンがどこにいったかのはわからないが、奪ったものを奪い返されたらそれは怒る、そうなると手は付けられないかもしれない。
とりあえず報告をしておいた方がいいかもしれない、兵を出してもらえれば安心ができる、そう思いシオンはエウリカの王都へと向かうことを考える。
「アルアさん、エウリカ首都へと向かうのはどういけば?」
「ガルナか?西の門から左にいってまっすぐ言った後に休憩所がある、そこから南西に道なりいきゃああるが……」
「ありがとうございます」
「おう……おっと、シオン、そういや村長が歓迎パーティーをしてくれるっていうんだが……って、おい、どこいったんだあいつ?」
気が付けばシオンの姿はアルアの視界からは消えている。
シオンはすでに村の出口へと到着し、外へと歩き出していた。