ペルア村・2
少年が姉を救ってくれという嘆願した後に続くかのように村の男性衆が続々と集まってくる。
話を聞くに、ドラゴンが村の女性を生贄として要求しているのだという。
四人の反応は様々で、ユナは目の前の不思議に目を輝かせ、他三人は信じられないといった具合だった。
それもそのはずである、ドラゴンなんてものは架空という扱いだ。
それについて書かれた著書は複数あれど、その発端はユーストラル神話と呼ばれる神話である。
ユーストラル神話とは、この大陸が一つの大陸であったという設定を持って作られた話で、この大陸が分かれたのは魔王という存在が真っ二つにしたからなんだよ!という突拍子もない最後で締めくくられる。
そのために『もしかして本当にいたのではないか』という発想を持つ者は全くと言っていいほどにいない。
「それで、救援要請などは」
「村の男がいったんだがかえって来やしねぇんだ……」
シオンはその返答に顎に手を当てて考える。
そのドラゴンとやらにあったことはないが、何かしらのトリックを使い、ドラゴンがいるように見立てている集団だろう、救援要請はその集団によって邪魔されているとみたほうが確実だ。
そうなると腕の立つ者が必要だ、王都に救援要請をするには。
シオンは自身の剣を見る、戦場を駆け抜けてきたために自信はある。
「ね、姉ちゃんを助けてくれ!」
「だ、誰も怖がっていこうとはしねぇ、あんな化け物を倒せるわけがねぇ」
そんな会話をしているのを聞かず、シオンは思考をまとめていく。
村人たちの訴えを聞くまでもなく、シオンはどうするかは決定していた。
「俺がやる」
そういって剣をひっつかむと、村の衆はビクリと体をおびえさせる。
村人たちは自分たちが訴えたというのに、それにより他者が危険な場所に行くことに恐怖した。
――それは、期待と罪悪感だった。
「し、しかしドラゴンとは突拍子もないものですよ」
「しかしこの村人たちが被害を受けているのは事実だ、何かしら行動をしないとダメだ」
「……シオン、おめぇマジでいくきか?」
「はい」
「だ、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないですか?」
「なんで疑問系なの!?」
そんな会話をすると、村人たちから口々と礼を言われる。
アルアにお願いして、携帯食料や攪乱用の物を買い取れるようにすると、アルアは首を振って携帯食料と煙玉といった商品を押し付ける形で手渡してくる。
「――どちらにいけばいいんでしょう」
「み、南の門からまっすぐいけばすぐに……お願いだ、妻を……」
「はい」
そういってスグに決定してシオンは歩いていく。
他者と自分の思考のすれ違いを彼らは全く理解していなかった。
当然、シオンがまっすぐ行けば――そのドラゴンらしきものの巣に到着する。
巣の外からも聞こえる唸り声。
「……」
沈黙して元来た道をみるシオン。
「……えっ」
再度巣を見て、龍の唸り声であろう音を聞く。
「えっ?」
時は少し遡り、先ほどの村人たちとの会話へとさかのぼる。
「そ、それで、ドラゴンはどのような姿だったので?」
「すげぇでかかった、すげぇ赤くて、すげぇ怖かったんだ!」
最初に嘆願をする少年が説明をする、ガルンはその説明を聞いて少し顔を引きつらせる。
説明がよくわからない上に突拍子もなさすぎるために判断のしようもない。
たしかに思い出してみると、若い女性がいなかったように思えるが――シオンをみる。
「それで、救援要請などは」
「村の男がいったんだがかえって来やしねぇんだ……」
シオンはその返答に考え込み始める。
頭を抱える村人はその姿から見ても虚偽を発してはいないだろうが、何分信じられる要素がさっぱり無い、さらに現実味もない、ないない尽くしである。
「ね、姉ちゃんを助けてくれ!」
「だ、誰も怖がっていこうとはしねぇ、あんな化け物を倒せるわけがねぇ」
助けてくれ、といいながらその恐怖を説明するというのはどうしてほしいのだろうか。
ドラゴンの強さを説明し、倒せるわけがない、ありえないと発する村人をガルンが見た時、シオンは口を開いた。
「俺がやる」
その言葉に主もユナお嬢様も、村人たちも驚いた表情をみせる。
倒せるわけがねぇと言われた後に俺がやるといったのだ、倒して見せると。
村人たちは怯える、期待の混じった視線と、恐怖、矛盾している思考をもっている。
引き留める言葉をガルンとその主とユナお嬢様が言うが、意志は固いようだ。
そして主が無理やり食料と攪乱用のものを渡して彼はドラゴンの巣の場所を聞いて歩いて行った。
「……シオン、大丈夫だよね」
「ドラゴンというものが本当ならわかりませんが、賊に劣る彼ではないでしょうが……」
剣を見る、彼を助けたいが、賊がすれ違いに着た場合、主たちを助けられない。
そうなるとユナお嬢様が狙われるだろう。
願うことしかできなかった。
「……」
ドラゴンの巣を目の前にして座り込む一名。
しかし、彼も男の子である。
剣を掴み、そろりそろりと中へと入っていく。
それは好奇心だった、猫をも殺すどころの話ではない、針山が待っている罠へと突撃していっている。
歩き続ける、ドラゴンがいたなら煙玉を投げて逃走を図る、賊ならバレないように救出する、賊による川流れをすることになった彼である、賊に対して策を考えながら歩き続ける。
そしてドラゴンの唸り声が聞こえる洞窟の奥へと進み、遠くに広場が見える。
そこにいたのは、巨大なドラゴンだった。
村人たちの会話どおりでかくて怖い。
――若干の歓喜を感じながら、戻ることを選択することにした。
その時だった、ドラゴンに発見されたのは。
『ヴォオオォォォオオオォォォッ』
「ッ!?」
咆哮が響き渡る、体の憶測からビリビリと揺らし、一瞬ひるんだが、即座に腰につけた煙玉を下へと投げつける。
煙はあたりへと充満し――充満したのだが、閉鎖空間でやったせいか全く見えない。
考えなしだったことに舌打ちをしかけながら、ある程度の方向を見定めて、音を立てずに歩き出す。
煙が薄いところへとたどり着く、しかしそこは何故か行き止まりだった。
そしてそこにいたのは――黒いローブと杖を握った小柄の人影。
それはまさしく神話ででてくるような魔術師であった。