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魔術使い《ウィザード》の契約  作者: 蒼龍由希慧
第1章 はじまりの出会い
5/8

二人の出会いー秀とタクトー

俺が目覚めたのは、そろそろ16時を回ろうとしていたころだった。

洗濯物を畳んで、ソファで寝てしまって、もう1時間がたとうとしていた。

ソファで寝たからか、体が重く感じられ、ぼーっとした感覚だった。

時計をノロノロと確認して伸びをしたとき、俺の頭にある事が突如として浮かび上がった。

「ヤバイ、本!返しそびれてた!!」

そう、図書館で借りていた参考書を返却するのを忘れていたのだ。


…まずい。これはまずい。

ここから図書館まで自転車で30分。

いつもなら図書館が閉まるのは17時。けど今日は何らかの関係で…。

確か、あと30分で閉館するはずだ。


その結論にたどり着く前に、俺は昨日読み終えた参考書をつかみ、自転車に飛び乗っていた。

カゴに本を突っ込んで違法スピードすれすれで図書館に直行した。



「…ぷっはぁ~。」

16時28分。ギリギリ返却できた。


にしても、ちょっと飛ばしすぎたようだ。足に疲労を感じた俺は、すぐそこにあった自動販売機で缶のオレンジジュースを買い、一気に飲み干した。

周りを見渡し近くにベンチを見つけて座り、ふと空を見上げた。

秋もかなり深くなったこともあって、空はもう夕焼けに染まりかけていた。公園が近くにあるが子どもの姿はなく、休日だからか、大人の姿もなかった。

空気も冷たくなり、風も出てきて、全速力で自転車を漕いで汗ばんだシャツが冷たく感じられた。

「…すっかり秋だなー。」


「ほんとだね。」


その声に頷きかけた俺の頭の中に疑問符が3つ出現した。


1つ、誰もいないとさっき言ったばかりだよな。

2つ、ベンチに座ったとき、俺だけだったよな。

…3つ。


……いつ俺の隣に人が座った?


「うわっ!」

すぐさま隣を見ると、いつの間にか男が座っていた。

男の髪は鮮やかな緑で、グレーの片方袖なしトップスと同じくグレーの膝丈ズボンにブーツという、どう見てもコスプレにしか見えない服を着ていた。

「あっはっは!ごめん!驚かせちゃった?」

男は悪びれもなく言ったので「あんたにとっては当たり前なのか。」と突っ込みそうだった。

「なっ、なっ、なっ…!」

「まーまー、ちょっと落ち着いて。」

ポンッと肩に手をおかれ、我に返った俺はようやく平常心を取り戻せた。

「す、すみません。急だったもんで驚いちゃって。」

「いーの、いーの。わざとだから。」

男はにっと笑うと、正面を向いた。


…わざとって言ったよな。いたずらか?

「あの…。」

「あ、俺の名前?タクトだよ。タ~ク~トッ。」

別に名前を聞いたわけではないのだが、名乗られたので一応こっちも。

「秀です。藍澤秀。」

「うん。知ってる。」

「え?」


当然俺とこの人は初対面だ。記憶力はいいほうだからそれははっきりしている。

なのに、「知ってる。」?

以前のサッカー部の駆り出された時の相手校のメンバーかとも考えたが、記憶にない。ましてや、緑の髪の人だったら、印象に残って絶対に覚えているはずだ。

「突然だけどさ、秀君。」

男はこっちの思考を無視するように言葉を投げてきた。


「君はこれから化け物に追っかけられて逃げ回ることになる。」

「は?」

「逃げきれずに君は絶体絶命!そんな時、君はある奴に助けられる。」

「なに、言って…。」

「そいつの言うことには絶対に従うこと。OK?」


「あんたっ。何言ってんだ!?」

思わず俺は立ち上がりながら男に怒鳴りつけた。

そんな非現実な、2次元みたいな話があるはずがない。

「マンガじゃあるまいし、んなことおこるわけ…」

そこまで言って、俺は目を見開いた、と思う。

その男の目は、右は黄色、左は血のように真っ赤だった。

「なっ…。」

またもや絶句した俺に、男は立ち上がりながら、目を光らせながら、笑いながら言った。

「何言ってんの?魔法界に興味があるくせにー。」

「なんでそれを…っ。」

「知ってるんだよー。君の事ならなーんでも。」

男はゆっくり前に歩きながら、口調こそ変わらないが、異様な雰囲気を滲ませながら話し続けた。

「あんた、一体…。」

そこまで言いかけた時、男はグルンとこっちに振り返った。

「残念だけど時間切れー!」

芝居の様に両腕を広げ、満面の笑顔を見せた。そして、最後まで目を光らせ、口には笑みを浮かべたまま、片手を振り、


「じゃ、頑張ってねー。」


次の瞬間、男の姿は消えた。

立ち去ったんじゃない。消えたんだ(・・・・・)

風景に溶け込むようにして。

まるで、霧の様に。


「なんだったんだ…?」

訳もわからないまま、俺はそこに突っ立っていた。


「君はこれから化け物に追っかけられて逃げ回ることになる。」

「逃げ切れずに君は絶対絶命!そんな時、君はある奴に助けられる。」

「そいつの言うことには絶対に従うこと。OK?」


男の言葉が頭の中で反響する。

「…まさか…な。」

風が強く吹き、それでもしばらく立っていたが、夕焼けが深い赤に変わってきたのに気づいた。

「やべっ。夕飯の支度!」

ついさっき起こった現象に首をひねりつつ、来た時と同じように自転車に飛び乗り、もう一度ベンチを振り返った。誰もいないのを見てから、前に向き直った。

そして、背中に視線を感じながら(・・・・・・・・)、帰り道を急いだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「お前はまた勝手なことを!」

「へーへー、悪うございました。」

「あれほど奴には接触するなと…!」

「いーじゃん。キョーミあったんだからさ。」

「…珍しいな。お前が〝アイツ〟以外に興味を持つなんて。」

「んー、なんとなくな。」

「まあいい。…ここまで来てしまったんだ。極限まで気配を消して経過を見届けるか。」

「お!マジ?」

「仕方なく、だからな!」

「ほーい。」


「んじゃ、見届けますか。『破壊の魔女』と人間の初対面を。」

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