異世界行き100番窓口。勇者と魔王編
異世界行き100番窓口二話目の題名を厨二病編へ改稿いたしました。
勇者と魔王編から目を通した読者の方、これは、前に二篇書いた短編の続きとなります。
よろしければ、そちらからお読みください。
↓第一話URL。
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異世界行き100番窓口・勇者と魔王編
彼は全てを救ったはずであった。正義の名のもとにこの大地に召喚され。
正義のために剣を振るった。
魔物を切り裂き、立ちふさがる敵を、敵と名の付くすべてを切った。
その結果を知りもせず。
その意味を考えもせず。
強欲なる人が作り上げた『勇者』として、与えられた使命を全うし続けたのだ。
気がついたときには、全てが遅かった。
魔族最後の王。『魔王』その胸に、聖剣と名付けられた剣を突き刺し、その命を奪い去っていたのだから。
悲しげに笑う、その姿を見て。
初めて自分がした事に気がつく。
彼にとって、魔族はあまりに弱かった、己の力を過信した彼は、その異常性に気がつくこと無くここまで来て。そして、気がついた。
いや、その意味をその身を持って知ることなった。
彼とともに『魔王』を討つために共に旅をした仲間たちが、彼を呼び出した国が、彼が旅をした世界が、死んでいく姿を彼はその目で見ることとなったのだから。
地球という惑星において、住まう様々の生物は酸素を吸い二酸化炭素を吐き出している。
この世界において、人が常に使う魔力こそが地球における二酸化炭素と同等のものであった。
世界のすべての生物は常に魔法の行使とともに大地の初源を喰らい、魔力を世界へと放出し続けている。生きている限りこの事象は変わることがない絶対の不変である。
魔族は、その増大した魔力を糧として生きていた。
世界の余剰となった魔力を吸い取り溜め込むことで、世界に溢れた魔力を初源へと返還し世界へと返す、それこそがこの世界においての魔族という種の生き方であり存在であったのだ。
強欲なる種、人が自らを世界の支配者と勘違いし大地に根付きし魔族という種を世界から根絶する時までは。
確かに魔族は強かった、それこそ人が百人集まっても倒せないほどに。
しかし、魔力を初源へと変化する作業は、魔族にかなりの負担を強いる作業であった。
それこそ、最強と歌われた魔王を聖剣が貫いてしまうほど弱らせてしまうほどに、この作業は魔族に負担を強いるのである。
何はともあれ、人の悲願は果たされ。
魔王は凶刃へと倒れ。人は魔王の体から吹き出した、この世界のすべての負債の影響を受けて、その全てが死滅した。
ただひとり。
違う理のうちに生まれ、この世界に召喚された哀れな『勇者』一人を残して…。
「ううう、ウワァァァアッァアアアアアアアアッッッッッ!!!!」
ただ、指示を受けたままに動くことしか脳のない哀れな人形であれば良かったのだ。
それならば彼も壊れることはなかったのに。
「僕は!ぼくはぁぁぁ!!世界を……、せがいを…すぐ、すぐって…」
彼は哀れなほどに頭が良かった。
理解していしまった。この世界のあり方を、この世界において誰も気がついていなかった、その理に気がついてしまった。
「ぼ、ぼくはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
故に彼は壊れるしかない。
彼は、正しく世界を救い。そして、世界を壊したのだから。
「ぼぼぼおぉぉぉぉぉ……」
そして、着実に終わりの時は近づいってきた。
確かに彼は違う理に生まれたもの。しかし、この世界で戦ううちに、彼はこの世界に順応しすぎたのだ。
彼は既に魔力に触れすぎていたのだ。
「ばがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
気が狂い、正体を失う。
それでも哀れなことに彼は死ぬことがない。既に、魔王を滅し世界最強となった彼は、魔力程度の損傷では例え脳髄の中心を侵される事となっても、その毒素程度で死ぬことはない。
生きるのに必要な初源を得る術は、無意識のうちに体が覚えていた。
故に彼は、生物のいなくなった死の世界で唯一生き続ける。この世界の歴史の終結者として。
「あが、ううう、うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
既にここに勇者いない。
ただ、心が壊れた哀れな化物が一匹吠え続けていた―――。
「私は忠告したはずですよ…勇者くん」
吠える獣の前。
いつの間にか一人の女性が立っていた。魔力の渦の中に揺れる長い長髪が、時々干渉するようにスパークしていた。
その表情は笑っているような冷めているような氷の微笑を浮かべており、魔力光を反射するメガネが存在を主張していた。
来ているのは、シワ一つない紺のスーツ。
その胸元に取り付けられた100と書かれた紀章がどこか異様な雰囲気を漂わせていた。
「勇者など所詮は幻想。世界には絶対の悪も、ましては絶対の正義すらも存在などしない……。
ただ正義を名乗る、力に溺れた愚か者が生まれ落ちるだけ」
哀れな獣が腕を振るう。
その手には、聖剣と呼ばれた剣が握られていた。大地の初源を喰らい大量の魔力の波動を世界に顕現させる、災厄の魔剣が今、女性に向けて振るわれていた。
魔力の変換のために弱っていたとは言え、魔王を一撃のもとに殺し尽くした魔剣である、その威力は折り紙つきであり、既に原初の流れを阻むものがいなくなった世界において魔剣は最高の一撃を放っていた。
「聖剣ですか。原初の理を捻じ曲げ、魔力の毒をこの世界にばらまく悪徳の剣。残念ながらその剣は聖剣等ではありません。
何しろ、その聖剣とやらをこの世界の住人に渡した管理者、『神界』の住人自体、神などと自らを呼んで喜んでいますが、すべての世界において厳密に神など存在しないのです」
しかし、その必殺の斬撃は、女性の腕のひと振りによって霧のように立ち消えた。
何か特別な事をした訳ではない、彼女はただ腕を振るっただけである。人が近寄る虫を払うように、彼女は飛んできた魔力の斬撃を払い除けただけなのだ。
「いるのは暇を持て余したタチの悪い管理者だけ……。
無邪気に世界を作り、気に入らなければ壊してしまう、まるで餓鬼…、そして、後始末は私のような異界上がりに押し付ける。
……全くもって、愚かで嘆かわしい」
それでも獣は止まることはない。
既に、力量の差を図る事が出来るような思考は獣に残ってはいない。
ただ、目の前に立ちふさがった彼女を潰す、それしか、獣には残されていなかった。
「貴方も貴方ですよ…。受付番号1894675839375664777番さん。
私は、三次元宇宙属人類種にとって、常識の違う多重次界世界はあまりオススメできないと、あれ程口を酸っぱくして教え込んだはずです。
それを貴方は、『俺はハーレム王になる』だの、『エルフと獣耳が俺を呼んでいるんだ』など意味の分から無いことを散々仰った挙句、受付を通さずに勝手にエンドルフィン大陸の姫巫女様と契約を結んでしまうし……。
受付を通さないとですね、こちらは何かあっても管理者から依頼がない限り何もできないんですよ?わかってます、そこの所、反省してください全く。
本当に聞いてるんですか?うがうが言ってないで、何かほかの言葉を喋ったらどうなんです?
コレだから最近の子供は、活字離れだの語彙が少ないだのキレやすいだの、ごちゃごちゃ言われるんですよ。本当に、何考えてんでしょうね!
あんたらの時代の方が、世界規模で戦争起こしてたり、学生が警察機関に戦争吹かっけたりしてたくせに、どの口が最近の若いものはキレやすいだのと宣ってんでしょうね!!!」
「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うるさいですわよ!
もう、面倒なので、さっさと任された依頼を終わらせてしまいましょうか…。なになに。
『人間とか小虫な連中はメンドくさい。次、動物王国にするから綺麗にしゃちゃっていいよ。』
と、綺麗にしてくれていいよですか。
ほうほう、私を呼び出した挙句、依頼は綺麗にしゃちゃっていよときたか……」
「…うが!」
いつの間にか獣の動きは止まっていた。
呪縛された様に体は動きを止め、視線は一点に絞られた。
「面倒…?ああ、面倒だ面倒だ面倒だ…。おい、小僧」
それは眼前の獣に向けられた言葉、だが、獣はそれを理解しない。言葉と理解できなかった。
獣にとって、その一言は圧倒的な威圧。
この段となって初めて獣は、眼前の女性が放っている圧倒的な存在感に気がついた。
それは、一撃で死したとはいえ、この世界で間違いなく最強であった魔王と同等。いや、それより更に上の存在感。
聖剣を媒介として接触してきた『神』にすら並び立ちそうなほどの―――。
「身を守れ、死ぬ気でな…じゃないと、このくそったれな世界と心中することになるぜ」
圧倒的で無慈悲な存在がそこにいた。
女性の姿は、先程まで、確かに人であったはずだった。
しかし、獣の眼前にいるのは、既に人ではない、人のはずがない。
シルエットは崩れていない。だが、頭部には三本の角が流れる緑色の長髪ともに背中の上を伸びていた。
メガネは外され、妖しい光を灯す眼光が日が差し込まなくなった世界で三つ、揺れ動いている。
口元から、漏れる白い吐息が瘴気のように漂い、世界を染めていく。
魔力の影響を受けても生き残っていた、木々が大地が、はるかに濃厚な瘴気に飲まれその命を終えていく。
暗黒の大地。
月はいつの間にか消えていた。
彼女がメガネを外した瞬間に、微かに煌めいた三条の灯火に食われるように、その姿を消したのだ。
太陽も既になかった。
彼女が、その本性を表した時には、既に彼女に喰われていたのだ。
「さて、掃除を始めようか……。世界よ勇者よ、覚えておくがいい。私は、とっても暴食なんだ」
月無き影がニタリと笑う。
そして、彼女は大きく口を開き、世界を食べ始めたのだった―――。
「と、いうことで。あなた様を失った世界は滅びましたよ」
「滅びたというか、最終的には貴方が滅ぼした、の間違いじゃないかしら?」
「あら、うふふ。
滅ぼしただなんて、私は少しお食事をしただけですわよ」
ここは、異界行き100番窓口。
今日も彷徨える旅人が、ここに訪れる。
「人間ごときが、世界を支配できると勘違いした時点で、世界なんて滅びたようなもんじゃないですか?」
「それは、詭弁だよ…。あれはあれで儚いながらもいろいろ頑張っている」
「あらあら、その頑張りの果てに殺されたのでしょう?魔王様」
「ふふ。魔王か…。魔を喰らうから魔王、人間も面白いことを考えるものだろう?」
「短絡思考の極みでしょうに、魔を喰らう者たちがいるからこそ生きていられたというのに、還元者たちを殺し尽くした上に、最強の還元機関であったあなた様まで手にかけたのですから」
「あはは、まあ僕も人ごときが、僕を殺せる極地までたどり着けるとは思わなかったからね」
「ふん、これでは、せっかくあなた様をこの世界に出向かせた、私の落ち度になりますわ」
「うん。まあ、其の辺は感謝してるんだけどさ」
「そろそろ、考えてはくれませんの?」
「君の星への移住かい?」
「…ええ。あなたの還元者としての力があれば、私達の星も他者が住める星となり得る。
なにより、種としての極みまで上り詰めることが出来る者が、他にも生まれいでるかもしれませんもの」
「本当に…君は、星の子達には甘いよね…」
「当たり前でございましょう。皆私の子供のようなものですから…」
「ふふ、『星喰い女王』『悪帝姫』『神喰い』と呼ばれたお人も子供たちにかかっちゃ形無しだね」
「貴方も、子供でもお作りなさいな。そうしたら、私の気持ちがわかりますわよ」
「そう、そうだね。もう、断る理由も無い、人への未練もなくなったしね」
「なら手続きは、こちらでしておきますわよ」
「ああ、頼む」
その言葉を待っていたかのように、受付に座る彼女は嘗て魔王と呼ばれ存在の前へと一枚の紙を置いた。
そこに書かれていたのは、惑星世界間移住申請書の一文。
移住先として書かれていたのは。
「ええ、歓迎いたしますわ、我が星、我が子らの星、五次元宇宙開発機構産第三惑星『ドルマン星』へ、ようこそ」
ドルマン星の名前であった―――。
ドルマン星に拘りすぎだろ!という読者の皆様へ。これがオチです。まあ、これ以上でもこれ以下でも無い面白みもない落としどころではありますが、取り敢えず話は区切りが付いたので、異世界行き100番窓口は、取り敢えずこれで終となります。
まあ、読みたいとか続けてくれ!とか、ドルマン星人マジ最高などの奇特な方がいましたら、書くかもしれません。
それでは、またどこかで会いましょう。