表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Knockin'on heaven's door  作者: 佐野和水
1/8

子煩悩な鈴木雅貴の場合

「初めましてぇ、鈴木さん」

 僕の声に鈴木さんはとても驚いていた。「俺が見えるの?」というリアクションだが僕には毎度の事、気に留めずに話を続ける事にした。



『 その1 子煩悩な鈴木雅貴の場合 』



「日曜日に遊園地に連れて行く約束だったんです。なのに前日の夜に……」

 今回、天国へ旅立ってもらう鈴木さんは、娘さんとの約束を果たせなかった後悔の念で現世に留まっている。このような優しい気持ちの持ち主を天国へと送ると、天国は良質な霊魂が増えて運営がスムーズに行われるのだ。

「鈴木さん、現世を離れるにあたって『浄化』を行ってもらいたいのです。あなたの御霊を少しでも良質に高めるために、現世でやり残した事はないですか?」

「やり残した事ですか……、最後に娘の姿を見られるのなら、それだけでいいです」

 鈴木さんはそう言うと、静かに目を閉じて黙り込んでしまった。亡くなっても愛娘を思い、その優しげな表情で見守ってあげていたのだろう。

「分かりました、鈴木さん。それでは娘さんのいる場所まで行きましょう」

「……はい」

 僕の後ろを鈴木さんはトボトボと歩いてくる。その間も、自慢の愛娘の事を思い出し、僕に出来事の全てを話してくれた。


 小さな公園に着いた僕たちは、一組の親子に目が止まった。芝生の上で小さなボールを使って遊んでいる小さな女の子と、その母親。

「間違いない、真奈美だ」

 鈴木さんはそう言うと、大粒の涙を流し始めた。「近くに行きませんか?」と僕が言っても、鈴木さんはその場を離れる事はなかった。

「会わせる顔がないのです」

「いえいえ鈴木さん、向こうからは見えませんよ」

「そうなんですけど、会わせる顔がないのです。親らしい事をしてあげられなかった、だから今まで娘を見守ってやる事もできずに……」

「そうですか……」

「ありがとう。また、娘の姿を見られて満足したよ」

「いえ、これが仕事ですから。娘さん、まだ小さいから心残りになりますか?」

「ハハハ、俺の娘は母親の方だよ」

「えっ? ……鈴木さん、どれだけ現世に留まっていたのですか」

 鈴木さんは照れながら、笑顔のままで光に包まれて消えて行った。



 天国と契約して、現世に居座る良質な霊魂を天国に送る、それが僕の仕事。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ