君が笑うから。私は声を殺して泣くしかなかった。
なんか、キャラの設定がバラバラな気も…。
そして、完全にタイトル負け(?)しているきも…。
過度な期待はおやめください。
日差しは熱いけれども、髪を揺らす風は涼しい。反射する太陽の光はきついけれど、視線を逸らせば、黄色向日葵が笑っている。
それだけでいい。
「あの…ずっと前から、僕は君のことが」
何もないけれども、日常は楽しい。特別声を上げて笑うことはないけれど、それでもいつも微笑んでいられる。
「あの、だから、僕は君のことが好きなんだ」
だから、いらない。「好き」なんて、私にはいらない。だから、そんな言葉聞かせないでよ。そんな物が存在するなんて、思い出させないで。
「ねぇ。聞いている?」
目の前で何やら話していた男の声が急に低くなった。けれど、気にせず、背を向けた。だって、「ちょっと待って」と言われただけだから。話を聞けとまで、言われていない。「ちょっと待った」でしょう?それなら、私がここから、立ち去っても文句は言えない筈。
「ふざけんなよ!」
さっきまで優しい雰囲気をまとっていた男の態度が急変する。私の腕を掴み、強引に引いた。
けれど、私の身体は、反対方向に倒れる。
「彰人」
顔は見えなかったけれど、私は私を引くもう一つの手を知っていた。いつもそばにあった温かい手。 彰人は私を支え、すぐに、男の視界に入らないよう、私を背に隠した。
「触んな」
冷たい声。見えないけれど、その眼光は鋭いのだろう。
「お、お前なんなんだよ」
「こいつの、幼馴染」
彰人が事実を告げる。そう、ただの幼馴染。
「ただの幼馴染が出てくるなよ。これは、僕と亜美さんの問題だ」
名前も知らない男も真実を告げた。分かっているから、改めて口に出してくれなくたっていいのに。分かっている。彰人は、いつもピンチの時には助けれくれる。いつもそばにいてくれる。ただの幼馴染。
男は無様にも、彰人の背に隠れる私に手を伸ばした。
「だから、俺の大事な奴に手を出すなって!」
そう叫び、彰人は男の腕をとる。その勢いのまま、背負い投げをした。男の身体が宙に浮き、鈍い音を立てて地面に落ちる。残念ながら、彰人は黒帯保持者だ。
「痛くないようにしてやったけど、次に亜美に手を出すようなら、容赦しないから」
子どもなら泣き出してしまうんじゃないか、と思えるほど冷たい声。その声に恐怖を感じたのか、男は全力疾走で姿を消した。それを確認すると、彰人はやっと振り返り私の顔を見る。彰人より数センチ背の小さい私に合わせ少し膝を折った。
「大丈夫だったか」
そう言って、髪を触る。大人が泣いている子どもにそうするように。
私は、目を閉じた。「大丈夫」だと、自分に言い聞かせる。「大事な」の後ろには(幼馴染)と入るのだ。彰人の優しさは、家族がそうするような、兄がそうするような、そんなそれ。大丈夫。勘違いなんかしない。
子どもの頃、父親のいない私はよくいじめられていた。そんな私を助けてくれたのは、いつも彰人だった。ただ、家が隣だっただけ。ただそれだけで、仲良くしてくれた。護ってくれた。それは、高校生になった今も変わらない。だから、幼馴染で良かったって思う。だから、幼馴染なんかじゃなければ良かったって思う。
でも、どうすることもできないから。私は泣くの。
俯いた私の顔を覗き込み、彰人は優しい声色で言った。
「怖かったよな。でも、大丈夫。俺がいるから」
「…ありがとう、彰人」
「お礼なんかいらないよ。だって、亜美を護るのは、小さい頃からの約束だろう?…ほら」
彰人は、手を差し出した。
「ごめんね」
目の前にある大きい手を見ながら、私は呟いた。ごめんね。約束が、そんなに重いなんて知らなかったの。
「彰人くんは、私とずっといてくれる?」
「もちろんだよ」
「じゃあ、彰人くんは私のナイトだね」
「ナイト?」
「うん。昨日絵本で読んだの。ナイトってね、お姫様を護ってくれるんだよ?」
「じゃあ、僕も、亜美ちゃんのこと護ってあげるね」
「うん。約束だよ」
幼い頃に交わした約束。ただの子どもの戯言。「大きくなったら結婚しようね」くらい、効果のないものなのに。なのに、彰人は、優しいから、だから、護ってくれる。ごめんね。彰人。「もういいよ」って言えなくて。
「何がごめん?」
首を傾げる彰人に首を振って見せた。差し出された手を握る。
「帰ろうか?」
彰人はまだ不思議そうに私を見ていたけれども、私は無視して進んだ。手を繋いだまま。
どんなに楽しくても、一日は終わるし、どんなにつらくても明日は来る。なら、楽しめばいい。けれど、君の優しさは時に残酷だから、私は少し臆病になる。これ以上近くにいたら、私はきっと、「ごめんね」しか君に言えなくなりそうで。
「おはよ~!」
そう言って、元気に私に抱きついてきたのは、友人の春菜だ。短く揃えた栗色の髪は、明るい春菜によく似合っている。小柄な彼女は、顔も小さく、くりくりした目がとてもかわいい。まるで小動物みたいな女の子だ。
「おはよう、春菜」
私にしがみついている春菜の髪を撫で、あいさつを交わす。
「ねぇ、亜美。どうして教えてくれなかったの?」
私から離れた春菜は、少し不機嫌な表情を浮かべた。春菜に話していなかったことなんてあったかな?
「…何の話?」
「とぼけない!彰人くんと付き合うようになったんでしょう?ま、お似合いだし、じれったかったからいいんだけど、報告してよ~。学校の噂なんかで知りたくなかった」
「…え?」
「え~まだとぼけるの?だって、昨日手を繋いで帰ったんでしょ?目撃証言多いんだから。しらばっくれても駄目なんだからね」
「春菜」
「ん?」
「付き合ってない」
「…?」
「私と彰人、付き合ってない」
「え~。またまた」
「本当に。付き合ってない」
「…手を繋いで帰ったのは?」
「それは本当。けれど、付き合うとかそういうのじゃない」
そこまで話して私は昨日の出来事を春菜に話した。
「…何それ、そいつ最低!」
「いや。別に…。上の空で話を聞いていた私も悪いし」
「悪くない!…でも、なんだ。付き合ってないのか」
「春菜、ゴシップ好きだった?」
「違うよ。私は亜美に幸せになってほしいだけ。だって、好きだもんね」
「え?」
「親友なめんなよ?亜美の視線が誰を追っているかぐらい知ってるんだから。それこそ、相談とかして欲しいな~~」
「…ごめんね。なんか、言えなくて。…どうせ叶わないから」
「え?そんなことないよ。絶対彰人くんも亜美のこと好きだもん」
「うん」
「は?…そこ、肯定するの?」
「彰人は私を好きだと思うよ。だけどね、恋愛の好きじゃない。きっと、これからも恋愛で私を好きになることはない。彰人にとって私は、幼馴染で、妹だから」
「そんなことないと思うよ?」
「いいの。春菜。ありがとう」
「でも…」
「おはよう」
まだ何か言いたそうに口を開いた春菜の声を止めたのは、彰人だった。噂をすればなんとやら。
「おはよう、彰人」
「おはよ~、彰人くん」
「彰人、ごめんね」
「ん?何が?」
「昨日、手を繋いで帰ったから、私と彰人が付き合っているっていう噂が流れているらしいの」
「そうだよ。しかも、今回は目撃証言もあるから、みんな完全に信じてるみたい」
「ふ~ん。そうなんだ。でも、別にいいよ?」
彰人はそうやっていつもの優しい笑みを浮かべる。私を安心させる笑み。
「よくないよ。ちゃんとみんなに訂正してね」
「だって面倒くさいし。あ、そうだ。いっそのこと付き合っていることにしちゃえば?そうしたら亜美に近づいてくる変な奴らから亜美を護れるし!」
彰人は妙案が浮かんだとばかりに手を叩く。私は思わず下を向いた。そんなに無邪気な顔で、残酷なことを言わないでほしい。私と付き合う「ふり」なんて、何も思われていない証拠だ。だって、好きな相手に、そんなこと言えないでしょう?
「え~でも、そんなことしたら、亜美に彼氏できなくなるよ。もし亜美を幸せにしてくれる人まで勘違いしたらどうするの?」
「え?亜美。彼氏欲しいの?」
「欲しいに決まってるよね?」
彰人と春菜の視線が私に集まる。彰人はどこか不機嫌な表情で、春菜はどこか面白がっている表情だ。
「ね!欲しいよね~?」
なかなか答えない私に焦れたのか、春菜はもう一度聞いた。聞いたというより、そう言えと言っているような感じなのは気のせいだろうか。
「えっと…。人並みには?」
「そうなの?」
「…うん。だから、彰人もちゃんと訂正してね。…それに、彰人にも勘違いされたくない人いるでしょう?」
私はかわいくない。どうして、そんな風に言ってしまうんだろう。彰人がそんな風に思う人なんていなければいいと願っているのに。意地を張って、虚勢で自分を護っている。そこで頷かれたら、彰人の前で笑えなくなってしまうのに。
「ごめん。もう行くね。春菜、行こう」
自分で聞いておいて。とは思うけれど、答えを聞きたくなかった私は、その場を離れた。 もちろん、彰人の顔なんて見られなかった。
「ほらね。だから言ったじゃん」
彰人が見えなくなった頃、春菜が楽しそうに言った。
「…何が?」
「私の読みは正しいんだって!」
「だから、何の話しているのかわかんないんだけど」
「大丈夫。大丈夫。私にまかせて!」
「…意味がわからないんだけど」
はぁ~。と聞こえるようにため息をついたけれど、春菜は相変わらず一人だけ楽しそうに笑っていた。春菜が張り切ると、ろくなことが起こらないからできれば何もして欲しくはないが、きっとこの顔は何かするのだろう。
今度は聞こえないほど小さいけれど、本気のため息が口から洩れた。
「ねぇ、橘さんて、本当に彰人くんと付き合ってるの?」
「手を繋いで帰ったってどういうことなの?」
「幼馴染だからって、調子に乗らないでよ!」
朝の段階である程度予想はしていたが、みんなからの質問攻めは激しかった。ただの野次馬ももちろんいたが、ほとんどは彰人を好きな人たちばかり。
彰人はもてるのだ。まず、顔がいい。いわゆるイケメンである。そして、運動神経もよく、頭もいい。極めつけは、優しい。誰にでも優しく、穏やかだ。どうしてここまで揃ってしまうのだろう。みんなが好きになるのも当たり前だ。
いつも彰人の周りには、彰人に好意を抱いている人たちが集まっている。
「彰人くん、一緒に帰ろうよ」
「彰人、一緒に遊ばない?」
しかも、その子たちは綺麗だ。みんな彰人に好かれるために努力をしている。
メイクに時間をかけ、彰人の話に合わせられるように、彰人が好きな車やバイクを必死で覚えてくる。
私を睨むその眼光はとてもきつく、それはとても迷惑で、怖いのだが、彼女達の必死な姿を見ていると、本当にかわいく見えてしまうのだ。恋をすると、人は必死になる。その姿はかわいくて、とても綺麗だ。私なんかは、到底敵わない。
彼女達と彰人が並んでいるところを見ると、本当に美男美女のカップルのようで、胸が苦しくなる。そして、今、そんな子たちは彰人ではなく、私の机を囲んでいる。一種のハーレム状態。嬉しくはないが。むしろ怖い。綺麗な顔で睨まれると普通の何倍も怖いのだと実感している。
「あの。だから、別に付き合ってないよ?」
「でも、手を繋いで帰ったじゃない。見たんだから」
「いや~。…それは」
「それは。…何?」
日頃から私が幼馴染という理由だけで彰人の周りをうろうろしているのが気に入らない彼女達は、ここぞとばかりに私を責める。
「…私がこけそうになったから、彰人が手を差し伸べてくれただけで。深い意味は…」
「深い意味なんかないの分かってるわよ。あんたなんか、幼馴染じゃなきゃ、彰人くんの隣を歩くことさえできないんだから!」
「…」
「ちょっと、いいすぎ!」
私の隣で、一緒に話を聞いていた春菜が叫んだ。先ほどから彼女達に掴みかかりそうな勢いだったのを何とか抑えていたのだが、我慢の限界に来たようだ。
本当に友達思いの子に出会えて幸せだな、と場違いな事を思う。
「何よ!」
「何なのよ!」
「春菜。ありがとう。でも、大丈夫だから」
今にも飛びかかっていきそうな春菜の頭をポンポンと叩く。にっこり笑った。
「でも…」
「大丈夫。みんなも、ごめんね。…そうだよね。ただ、家が隣ってだけで、小さい頃から一緒にいたってだけで、人気者の彰人と仲良くしちゃ駄目だよね。私なんかが。分かった。もう、あんまり彰人に近づかないようにするね。それならいいでしょう?」
「何言ってるの?亜美」
「いいの。私もそろそろ幼馴染から卒業しなきゃって言ってたし。そうでも言わなきゃみんな帰ってくれそうもないし。…ね、それでいいでしょ?納得したなら、帰ってもらってもいいかな?もうすぐ授業が始まる」
その場から逃れられればいい嘘だった。けれど、本当にしようと思った。
私は彰人を好きすぎる。このまま、彰人の傍にいられるなら、彰人の優しさにつけこんだままでもいいと思ってしまうほど。
そんな風に思う私は彰人の隣には不似合いだ。
「好き」だと告げられない私は、努力をしている彼女達よりよっぽど臆病で。
だから、同じスタートラインに立つことさえできない。競うこともできない。
きっと私は彰人に何も言えないから。「亜美」と呼んで、「大丈夫」と髪を撫でてくれる彰人を失いたくない。だから、何も伝えられない。伝えない。
でも、彰人の傍にいれば、彰人の幸せを奪ってしまうだろう。私が彰人を好きなように、彰人にだって、好きな人はいる筈だ。今はいなくても、これから好きな人ができるだろう。そんなとき、約束で、幼馴染という言葉で、彰人を縛る私は邪魔なだけだ。
だからね、彰人。私は言うよ。やっと言うよ。
「もういいよ」
「何のこと?」
その日の放課後、私は彰人と二人で教室に残っていた。オレンジの夕焼けに照らされた教室は綺麗で、そんな景色を彰人と二人で見られて良かったと思う。
ただ、少し距離を置く。それだけなのに、今生の別れのような気がした。
バカだな、と思った。けれどしょうがない。
「幼馴染」という魔法の言葉がなければ、私と彰人を結ぶものなどないのだから。
目の前に立って私の話を聞く彰人はどこか不機嫌そうで、いつもとは違う雰囲気に私は少しだけ怯えた。けれど、目は逸らさなかった。
「だからさ、彰人、私を『護って』くれているでしょう?昨日みたいに。でもね、もう護ってもらわなくてもいいよ」
「どうして?」
「昔とは違うの。私は泣き虫じゃなくなったし、一人でも大丈夫になった。彰人がいなくたって、春菜がいるし、みんながいる。それに、護るなんておかしいよね?だって、私はどこかのお嬢様じゃないんだから、護る必要なんてないの。だからいいよ。もう、傍にいてくれなくてもいい。今まで、縛ってごめんね」
「でも、昨日みたいなことがあったら、どうするの?」
「大丈夫。私を好いてくれるなんて物好きなんてもう現れないだろうし、万が一あっても、走って逃げるから。私、脚だけは速いの知ってるでしょう?」
「それでも、亜美の力じゃ、男の腕は振り払えない」
「そうかもしれないけど。…その時は、その時。何とか対処するし、困ったら誰か他の人に助けてもらうから」
「…」
「だから、いいの。彰人が護ってくれなくても大丈夫だから」
「…好きな人ができたから?」
彰人の片手が私の肩を掴む。軽く掴んでいるだけなのだろうが、その力は強かった。
「…」
「俺なんていらなくなった?」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあ、何?急にそんなこと言うなんて」
彰人の声が少しだけ震えている気がした。
確かに動揺するのも無理ないことかもしれない。突然、「護ってくれなくてもいい」なんて、不自然だ。どこかのお嬢様と執事の会話じゃないのだから。
そう思ったら笑えてきた。
「何、笑ってるの?やっぱ、好きな人ができたんだろ」
聞く、というよりは断言に近い言い方だった。私は思わず頷く。好きな人がいるのは本当だから。
「駄目だよ」
彰人のもう一方の手も、私の肩を掴んだ。
「え?」
「駄目だ」
懇願をするような、そんな声。こんな弱々しい彰人を見たことはなかった。
「…彰人?」
「亜美のナイトは俺だろう?」
突然、視界が揺れた。次の瞬間には、彰人の腕の中だった。背中に手が回される。二人の距離がさらに近づいた。苦しい位の抱擁。
何が起こっているのか、分からなかった。それでも、勝手に熱は伝わる。私の体温も上昇していった。
「抱きしめられている」頭がようやく理解した。私は、必死で彰人の胸を押す。
止めて欲しい。必死であきらめようとしているのに。
けれど、逃すまいとするように、背中に回った腕にさらに力が加わった。
「彰人、やだ!」
これ以上、好きにさせないで。
これ以上、惨めにさせないで。
「彰人、放してって…っん!」
突然、温かい何かが、唇に触れた。
少しずつ深くなるそれに、逃れることを忘れる。気付けば、自ら求めていた。
彰人の手が私の頬を撫でる。
「どうして、抵抗しないんだよ!」
「…あき…と?」
「なんで…嫌ならちゃんと抵抗しろよ!傍にいていいのが、俺じゃないなら…」
彰人が俯いた。けれど、背の小さい私には見えてしまう。
彰人が泣いた。いつも背に隠して、私を護ってくれた彰人が初めて私の前で泣いた。
「彰人…」
私は、彰人の背中に腕を回した。ぎゅっと、抱きしめる。
「止めろよ。よけい惨めになる。…なんで、なんで俺ばっか、こんなに好きなんだよ」
「…今、なん…て?」
「…好きだよ。亜美は、そんな風に俺を見てないだろうけど。俺はずっと、亜美が好きだった」
「…」
「だから、無理だよ。亜美が望んでも、俺は亜美から離れてなんかやらない。俺が亜美のナイトだ。…そうだろう?」
「ねぇ、頬つねって?」
「は?」
「お願い、つねって」
視界がぼやけた。しょっぱい液体が口に入る。彰人は、弱々しく私の頬をつねってくれた。全然痛くないけれど、確かに痛みは感じる。
「夢じゃないんだよね?」
「…」
「彰人が、私を好きなんて…。本当に夢じゃないの?」
私の背中に再び、彰人の腕が回った。きつく抱きしめられる。
「夢じゃないよ。だって、俺ちゃんと亜美を抱きしめてるもん」
「彰人」
「ねぇ、亜美。言って?」
何を、なのかは聞かなくても分かった。
先ほどまで震えていた人物とは別人の顔がそこにはある。余裕を浮かべたその表情も格好良くて、なんだか少し卑怯な気がした。けれど、振り回しているは、やっぱり私で。だって、執事はお嬢様に振り回されるものでしょう?
「早く」
「彰人。もう一回聴きたい」
「亜美、それずるい」
「聴きたい」
「…」
「聴きたい、彰人」
「亜美が、世界で一番好きだよ」
「うん。私も、大好き」
私の言葉を聞いて、彰人は笑った。今度は優しいキスを落とす。啄ばむようなキスが繰り返された。背中に回る力が強くなる。
そんな一つ一つが嬉しかった。
「亜美、大好き。ずっと、俺が亜美のナイトだから」
「護ることなんてないと思うけど?」
「それでも、俺がナイト。ずっと傍にいる」
「うん。よろしくね。大好き!」
私がそう告げると、ほんの少し頬を赤くして、君は笑った。
君が笑うから。私は声を殺して泣くしかなかった。
私が泣いていることに気が付いた君は、服の袖で、私の顔を力いっぱい擦る。
痛くて私が文句を言ったら、君が笑ったので、私もつられて笑ってしまった。
なんだか、悔しかったので、背伸びをして、君に小さなキスを贈った。
そしたら今度は、君が泣いた。
キャラがふらふらしている気もしないでもないが、
人間ってこんなんですよ!(言い訳)
評価とか感想とかくれるとうれしいです。
今後とも、春樹亮をお願いいたします。