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セーラー服を着る人外2

昼休みになればさすがに皆三々五々に散って行く。

そんな中、余を誘ってくれる者もいたのだが、丁重に断りを入れて我が主に弁当を渡すべく近寄る。


「ハル、学食行こうか」


「おう」


「……」


友人と思わしき中々の美丈夫に声をかけられた晴彦は立ち上がってそちらに行こうとした。

流石にそれは無いのではないか?

余に一言あってもよかろう。

そう思いYシャツの襟首を掴もうとしたのだが、まさにその瞬間に振り返ってきたので胸ぐらを掴むカタチとなってしまった。


「邑瀬は……どうしますか?」


掴まれた側は困惑の表情で余を見下ろしている。

ふむ、流石に早とちりであったか。

ただ、何もせず離すのも癪なので、下に引いて無理矢理座らせる。


「歓喜に咽び泣くがよい、余が昼食を用意してやったぞ」


ズダン!と派手な音を立てて、金属製の弁当箱を叩き付けるように机に置く。

蓋に手形がうっすら付いてしまったのは愛嬌ということにしておこう。


「え?あ……あぁ」


呆気に取られた表情の晴彦。

前席に座る者が居ないのを確認し椅子を反対に向けて座り、向かいからそれを眺める。

ふむ、余もあまり経験の無い事に少々はしゃいでいるようだ。


「ちょ〜っと待ったぁ!」


箸を取り出す最中に、芝居がかった口調で叫ぶ者が一人。

そこに居たのは余に真っ先に話し掛けクラスの音頭を取った女生徒だった。

名は確か……。


「滝 美鈴か。何か用か?」


「いやいや、何か用か?じゃないわよ!邑瀬さん、木宮と知り合い!?」


「ふむ……」


チラリと晴彦を見ると、縋るような色を瞳に宿していた。

確かにお互いに少し無防備であったな。

言うまでもなく、ある程度は誤魔化して欲しいと言うことであろう。

分かっていると目で返して、滝に振り返る。


「肌を重ねた仲だ」


『なにぃぃぃ!?』


「うぉぉぉい!?」


教室内に居る者は男女関係無く絶叫しながら目を見開いて我らを注視し、晴彦は余の顔面に拳を打ち込もうとする。

それを避けつつ、だめ押しにもう一声。


「一夜を共にし、互いの体温を分け合った仲だ」


『……』


「違うだろ!?色々違うだろぉぉ!?」


絶句しつつ余と晴彦を交互に見るクラスメイトと、絶叫しながら余に拳を打ち続ける晴彦。

当然、それは擦ることすら無いがな。


「ハル、お前一足先に大人になっちまったんだな」


「ちがっ……違うんだ征洋!こんの性悪男女が!」


「嘘は言ってなかろう?」


「言い方ってもんがあるでしょぉぉぉ!?」


すっかり混乱したらしく若干言葉遣いに変調をきたしつつも、余への攻撃は辞めない。

が、所詮は素人以下では余を捉えるなど夢のまた夢だ。

ま、晴彦の慌てる姿をたっぷり愛でることが出来たのでこのくらいにしてやろう。


「少々訳有りでな。晴彦が血を流し過ぎ体温が下がってしまったので人肌で暖めたというだけだ」


「それはそれでどうしたのか気になるけど……要は医療行為ってことか?」


「そう言うことだ」


美丈夫の男子生徒の言に頷き肯定する。

それを聞いたクラスメイトらは安堵に似た表情を浮かべて再び三々五々に散っていく。

が、滝だけはどこか焦ったような表情で離れようとしない。


「どちらにせよ邑瀬さんは木宮と添い寝したことがあるってことじゃない!」


「木宮家に下宿しているしな」


否定はせず、逆に一言付け加える。

絶句したようで固まってしまった。


「あ、僕は八七橋 征洋、ハル……晴彦の友達。よろしく」


美丈夫が思い出したように自己紹介してくる。


「八七橋か、よろしく頼む」


「それでそれで?元男性で今は美女というミステリアスな人物がなぜハルと同居するようになったのか?僕としては非常に気になるんだけど?」


「それはだな……まずは昼食にしないか?」


八七橋にそう答え、自らも弁当箱を取り出して蓋を開いた。







side Haruhiko

夕食の後片付けもすっかり終わり、俺と夢子は風呂上がりの火照った体を冷やしていた。

今はあの性悪男女が風呂に入っている筈だ。


「いやぁ、邑瀬さんって家事出来たんだねぇ」


一番風呂だったから既に汗もひいている筈なのにアイスをくわえてソファにぐでぐでと寝転がっている夢子が言った。

「ご飯も美味しかったし、お弁当まで準備してくれるし。しかも美人だし反則だよね!」


嫁にしたい!などとほざくので溜め息で返事をする。

確かに、朝昼夜の飯は悪くなかったし、簡単ではあったけど掃除や洗濯を手早く済ませてしまったのは意外だったし感心した。

だけど、その評価を覆して余りある程にあの美女は難のある性格だった!

昼飯の時なんか特に酷かった。

説明自体は妥当だったと思うけど、事ある毎にエロスを漂わせて周囲のミスリードを狙うのだ。

おかげで俺はすっかり「美女をたぶらかしたすけこまし」である。

しかも、それに冷や汗や脂汗をかいたり必死に否定する俺の姿を見て心底楽しそうに目を細めるのだ。


「あれほどはしゃぐ彼女を見るのは久し振りだよ」


「!」


内心愚痴を呟いていると、黒猫……ニコラウスさんが思い出したように現れた。

本当に神出鬼没な猫だ。

日曜の初対面の時からいつの間にか家に居たし。

その時に「君は自分が人間であることを忘れないように」と言われたのが印象的だった。

ただ、それは心配して言ったのではなく、「人間ごときが調子に乗るなよ」という感じだけど。


「はしゃいでるんですか?」


夢子が半身を起こしながら首を傾げる。

いや、俺も傾げてるけど。

こう言っちゃなんだけど、あの不敵な笑みがデフォルトで人をおちょくるのが趣味らしい性悪女が無邪気にはしゃぐ姿を想像することが出来なかった。


「私から見れば、だけどね」


ニコラウスさんはどこか寂しげに呟いた。


「こっちの世界にやって来た……いや帰って来たって言った方がいいのかな?」


そこで一旦話を切る。

一応話は、それこそ目の前の猫から直接聞いている。

細かいことは知らないけれど、邑瀬が異世界に行った話は。


「目まぐるしいくらいに表情を変えるし、口を開く度に楽しそうだ。それに、自分から他人に関わろうなんてまずお目にかかれないからね」


「それはアイツが引っ込み思案なだけだろ」


「ハッハッハー」


一応冗談のつもりだったんだけど全くウケなかったようで、ニコラウスさんは口だけ笑う真似をする。

目は侮蔑レベルの冷たさだし。


「それはやっぱりお兄ちゃんも関係してるんですか?」


「非常に不愉快だけど、そうだね。ハルヒコに召喚されてからは特にはしゃいでる。はしゃぎ過ぎと言ってもいいくらいにね」


「はぁ」


曖昧に頷くと、だから下等生物は嫌なんだ、と言わんばかりに……と言うか聞こえるように呟いて溜め息を吐くニコラウスさん。


「ま、只の黒猫の独り言さ。聞き流してくれて構わないよ」


只の黒猫は喋らないと答えそうになって、また冷たい視線にさらされるのも嫌なので黙って頷くだけにする。

それが独り言だと言うんなら、ついでにあのバケモノ女がさっさと自分に飽きて落ち着くのも期待することにした。


閲覧が一万を超えたので一人お祝い。

出来れば感想も付けて頂ければと思います。

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