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平凡と日常と

挨拶が遅れました、まーなーと申します。

こんなん読みたいなと思った妄想をカタチにしただけの拙い文ですが、よかったら読んでって下さい。

「しかし、三年間……ね。桁が二つ程違わないかね?」


「……知らぬ」


「向こう」で二百年程度は使い続けてすっかり癖になっている非常に偉そうな口調が唇からこぼれる。

あの後親父にもばれて、好きなように喋ればいいと慰められた。

それを思い出し、複雑な思いの篭った溜め息を吐いてベッドに転がる。

俯せになった視線の先には、細長く陥没した床があった。

その横には現在進行形で床に悲鳴を上げさせている大剣。

尺取り虫のようにうねって前進し、腕を伸ばして拾い上げる。

仰向けになって片手で振り回してみると、今度は安物のベッドが盛大に軋む。


「……ハァ」


諦念の篭った溜め息を吐き、結界の中へと剣を仕舞う。

剣が空間に溶けるように消えるのを確認してから、ゆっくりと目蓋を閉じる。


「明日からどうするんだい?」


「どうにかするしかあるまい、余の出来る範囲でな」


若干投げやり気味に答え、一人称が以前のものに戻っているのに気付いたが、まぁ、いいかと独り言ちた。







宮龍院学園高校棟2年7組教室

朝の教室の喧騒の中、持ち込んでいた文庫本を読むよ……俺の姿があった。

主観的には三〇〇年前に読んだきりなので、粗筋すら覚えていないが。


(意外と何とかなるものだな)


そう内心呟いて、小さく嘆息する。

幸か不幸かよ…俺は高校初期の友人作りに失敗し、それ以来まともに友人を作れずに二年生になってしまっている。

教室での「俺」の存在は空気であり、誰からも気にされない存在であった。

「以前と同じ」に見えるようにする幻覚魔術を使っていると言っても以前とは違う仕草や行動で本性を暴かれてしまうかも知れん……と思っていたのだが、全くの杞憂であった。

周囲の「俺」に対する反応は全く変わりなく、いつもと変わらず気にもされていないようだ。

ホッとするやら虚しいやら、内心非常に複雑である。


(それにしても、意外とコチラも魔力を持つ者が多いんだね?)


そんな余を木の枝に座りながら窓の外から教室を眺めているニコルが、念話で話し掛けてくる。

アレの言葉が示す通り、コチラにも魔力の存在が感知出来た。

どうやら知らなかっただけで、世界は意外と混沌としているらしい。


(持ってることに気付いてる者は居ないようだがな)


欠伸をしながら、わざとらしいくらいに気のない返答をする。

いや、実際誤魔化そうとしていた。

が、残念ながら悪魔にそんな誤魔化しは通用しない。

(それにしても、やけに美味しそうな魔力をしている者も居るじゃないか)


(……考えぬようしていたのに)


声音からして心底愉しそうなニコルに、溜め息混じりに答えた。

現在俺……余は言うまでもなく人外寄りの存在だ。

魔力を食み、血を浴び、殺戮を好むバケモノだ。

どう考えようが、余と人間の関係は良くて捕食者と獲物でしかない。

そこら辺の人間の魔力ならハッキリ言って十把一絡げであり食指が動くこともないが、中には極上のご馳走にしか見えないような者もいる。

そう、例えば視線の先の彼や彼女のように。







宮龍院学園高校棟屋上

開放こそされているが、昼食時にはほとんど誰かが来ることはない。一人になるには絶好の場所だ。

幻覚魔術を解いて、ついでに後頭部で纏めていた髪もほどく。

そんなホッとした顔の余を、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら見上げるニコル。


「食べないのかね?彼らを」


「食わぬ」


あんパンの包装を破りながら、淡白に答える。

ちなみに、魔力を食べると言っても食料を経口摂取するのとは違う。

中には、対象を頭からバリバリムシャムシャしてしまう奴もいるが、大体は吸血や粘膜、皮膚接触だ。

レベルが高いと対象を視認するだけで魔力を吸いとれる、なんて輩もいるが。


「アチラでは平気で食べていたのにかい?」


ニコルは笑みを濃くしながら尋ねる。


「なぁ、ニコル」

あんパンを口から離すと、少し怒りを示しながらニコルを見下ろす。


「奴らを食ったのは余の敵だったからだ。と言うか、そなた分かってて言っておるだろう?」


「あぁ、分かっているとも。しかしだね、出来ることをしないのは怠惰ではないか?」


「やらなくてよいことをやらぬのは怠惰とは言わないな」


ニコルが黙ったのを確認し、今度こそあんパンを食べ始めた。

もし欲望のままに暴食でもしたら、学生の大量失踪として全国的なニュースになってしまうではないか。


「ところで、口調がすっかり元通りだけど?」


「一人の時はよかろう」


ニタニタ笑いのニコルを見て、小さく溜め息を吐いた。






特に何も無いまま数日が過ぎたある日。

夜の蚊帳が降りた既に人気の無くなった町を歩く。

フリルが要所にあしらわれた真っ黒なドレスが、紅い髪と一緒に風に靡く。


「女性用の服装を拒否していたのが嘘のようだね」


以前を思い出したのか、肩に乗っているニコルが笑う。


「ふふ、そうだな」


軽く笑って答える。


「ある意味最高だな、美女を好き勝手に着せ替え出来るのだから」


「君も大概退廃主義的だねぇ」


ニコルは呆れたように言うが、笑みは消さない。

例え、目の前で血飛沫が撒き散らされていたとしても。

通算四度目になる光景が目の前に現れる。突然横合いから飛びかかってきたヒトの形をした影を手刀で切り裂く。

二つの肉塊に別れて内容物をぶちまけるソレを自然な動作で避け、のんびりと歩いて行く。


「飽きる……な」


「最初に言い出したのは君だろう?不穏な気配がする、と」


「……」


「確かにこんな非力な「影」が、どうやって具現化したのか興味はあるけどね」


ニコルが「影」と呼んだそれは、本来なら存在に適した環境の中にいるか、余程の念や魔力を注がれない限り実体を持ったり人を襲ったり出来る魔物ではないはずだ。

そう言う意味で非力なのであり、少なくとも猛獣程度には危険な魔物である。その気配を感じたので、それらを駆除しようと一人こうして夜の町を徘徊しているのだ。

それは、余にとって路傍の石を蹴り飛ばしてどかすよりも簡単で、退屈な事だった。


「根本から叩かないと駄目だな。多分湧いてくるだろうし」


「問題はその根っこが何なのか……だけどね」


「まぁな」


分かりきった事を蒸し返して焦燥を煽ろうとするニコルに生返事して、立ち止まる。


「どうしたのかね?」


「これを……」


「ん?」


足元に粗末な魔法陣が浮かび上がっていた。


「ふむ?見たところ貧弱な召喚魔法だね。無視して構わない……。リュウジ?」


「ふん、余をこんな粗末な術で呼び出そうなどと考える不遜な輩の顔、見たくはないか?」


そう言って笑うと、ニコルは苦笑と喜色を混ぜた表情で見返してきた。


「それならば望むままに、我が君よ」


あぁ、と鷹揚に頷き、余は魔法陣へと足を踏み入れた。

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