1話 業火と出会い
いつもより赤赤とした夕焼け
俺が魔物狩りから村へ帰ると、真っ赤な夕焼けを更に赤く染めるかの如く、俺の生まれ育った村は業火に包まれ、燃え上がっていた
業火に包まれた村の前に、ぽつんと1人、武装した男が立っていた
『くくくっ、燃えろ燃えろっ!燃え尽きちまえっ!』
1人、おかしなテンションで村を眺めている男は興奮気味に独り言を言っていた
『てめぇ!俺の村になにしてくれてんだよ!!村のみんなはどうしたっ!!?』
俺は咄嗟にその男に向かって叫んでいた
『なんだ、生き残りが居やがったのか』
ぐるんと首を傾げ、振り向きながらこちらを睨みつける男は、燃え上がる村を背景に不気味なオーラを纏っていた
『っ!お前っ!デバフ称号持ちのキリアかっ!!?』
この、不気味なオーラを放ち、武装した男の顔は良く知っていた
町や村のあちこちに手配書が張り出され、王国内でも片手で数える程しか与えられた人物の居ない〈デバフの称号〉を与えられた大罪人キリアであった
『せいかーい。俺は〈裏切り者〉のデバフ称号をあのクソ国王に付けられちまったキリア様だよ。何が裏切り者だよ、俺がどれだけこの王国の為に働き、武功を上げて来たか、みんな認めねーんだよっ。こんな腐った王国、滅んじまえばいいんだよっ!てめぇもこの村のモンだろ?』
そう言うと、キリアは血まみれの剣を俺に向けて来た
『どうして俺の村を…許さねぇ』
俺は狩りで使っていた槍を震える手で強く握りなおした
『はっはっはっ!何ぶるぶる震えてんだよ!怖えーか、ガキ。これが戦争だよ。何が許さねぇだ。強い者が生き、弱い者が死ぬ。至極当たり前の摂理じゃねーかっ!!てめぇも死ね!!』
『うおぉぉぉぉーっ!!』
俺は何も考えず、強く握り締めた槍を持って、大罪人キリアに向かって走り出していた
〈ガコーーーーンッ!〉
鋼で武装されたキリアの拳が俺のアゴにクリーンヒットし、俺は吹き飛ばされていた
何メートル吹き飛ばされただろうか。俺の下顎は切れ、口の内外から真っ赤な血が止まらない
そう、俺は齢14歳、食料調達するだけが唯一の仕事のただの村人だ
『チビッちまったか?戦争も経験した事のねえガキが、威勢よく俺様に口開いてんじゃねーよ。』
大罪人キリアが荒んだ目で俺を見下しながら言った
『ガキ、名はなんと言う?名乗らせてやるよ。まぁ、どうせ死ぬだけだ。すぐ忘れちまうがな。』
まるでゴミでも見るかのような目で大罪人キリアが問いかけた
『…ザナ、まだ2つ名は無い』
『ぶはっはっはっ!』
大罪人キリアは腹を抱え、大口を開いて盛大に笑った
『何が〈まだ2つ名は無い〉だよ!?殴られて頭おかしくなっちまったか??俺様ほど武功を上げて来た武人でも2つ名なんて程遠い!てめぇごときクソガキが2つ名なんて、未来永劫有り得はしないっ!!!夢見てんじゃねーよっ!!!』
大いに笑ったかと思うと、目を血走らせながら大罪人キリアが俺を睨み付け、そして怒鳴った
『…そんなの、わんねーじゃねーかよ!…俺は!いずれ2つ名を獲得してこの王国に貢献するんだっ!!!』
俺の夢は変わらない。幼少期より、多くの2つ名を持つ者の武勇伝の書物を読み漁って来た
統治に長けた偉人
武功を上げた偉人
外交、内政に長けた偉人
魔導を極めた偉人
多くの功績が国民に認知され、どこからともなく、その偉人達には2つ名が囁かれ始め、その通称を国王が認め、王国全土を上げて、その者にその〈2つ名〉は国王様より授与される。
『…もういい、死ねよクソガキ。』
血まみれの剣を携えた大罪人キリアがツカツカと俺に歩みよって来る
〈〈〈ブオーーンっ!〉〉〉
なんの前触れもなく、突如として、俺と大罪人キリアの間に2つの魔法陣が突如として現れた
魔法陣の真上から2人の武装した男が舞い降りて来た
『…っ!転移陣っ!』
『クソッ!なんでだよっ!?』
大罪人キリアの顔に明らかに焦りが見て取れた
『よぉ、キリア、久しぶりだな。探したぞ。』
漆黒の鎧を纏い、口髭が特徴的な男が厳しい目で大罪人キリアを睨み付けながら開口一番、口を開いた
『っ!!』
知っている!俺はこの漆黒の鎧を纏った男を何度も何度も書物で見てきた!!
『ケーシ将軍だっ!!』
ケーシ将軍。
2つ名を〈鉄壁の死神 ケーシ〉
この20年、この王国全土の盾となり、どんな劣勢な戦況下に置いても、ケーシ将軍の護る領地は決して突破されず、挑んだ敵兵の命は全て刈り取られる事からこの物騒な2つ名が与えられたと言われている。
『少年。大丈夫かい?遅くなってしまってすまないね。もう大丈夫だから。ごめんね。君の村を守ってあげられなくて…。』
とても優しい目をした、白を基調とした黄金色の装飾が目を引く鎧を身に纏った男が優しく俺を気遣ってくれた
『も、もしかして…』
この王国に住まう者なら知らない人は居ない
間違いなくこの男こそ、この王国の国王だ
国王も例外なく2つ名を保有している
この1649世界の現国王
〈眠らぬ王 フェデリー〉
俺の暮らす王国はこの世で1649番目に誕生した世界だ。
この世界では多くの世界線が混在し、多くの世界が干渉し合いながら発展と衰退を繰り返している。
『これはこれは。ケーシ将軍様とフェデリー国王陛下ではございませんか。こんな最北端のド田舎へ何用でしょうか?』
白々しく、目を丸くして挑発気味に2人を睨みつける大罪人キリアが口を開いた
『探したよキリア。何故こんな惨い事ができる?この村の人たちがお前に何をした?』
フェデリー国王が冷静に、淡々と大罪人キリアに問いかけた
『なーに。遊びですよ。こんなド田舎の村1つ焼け落ちたからと言って、そんなに怒る事ですかな?器の小さな国王陛下様よ。』
挑発的な態度が変わらない大罪人キリアは、遠目にフェデリー国王の顔を覗くように睨んだ
『キリア。大きいも小さいも、王都であろうと田舎であろうと関係ないよ。この1649王国全土が私の王国であり、私の民だよ。2つ名を持つ者であろうが、農民であろうが、誰にもその平和に生きる権利を奪わせない。私はずっとそうして来たはずだよ。』
フェデリー国王は終始変わらず、柔らかい口調で、罪人であるキリアに対しても態度を変えず問いかける
『なにが権利だ!汚職まみれの国王陛下よっ!俺がどれ程この王国に貢献した!俺の抱える部隊の兵たちが、どれ程この王国の為に血を流したと思ってやがる!俺様に2つ名を与えるどころか、デバフ称号なんか付けやがって!』
大罪人キリアの目は更に血走り、フェデリー国王を怒鳴りつけるように言い放った
『キリアよ。お前の戦果は認めて来ただろうが。しかし、お前の戦い方は危うい。何度も注意もしてきた。もちろん、〈個〉の力、能力は重要だ。しかし、戦争とは王国と王国とのぶつかり合い。協調性の保てぬお前が外されるのは必然であろう。それもちゃんと説明してきたではないか。それなのにお前は何をした?覚えておらぬか?同盟国を焼き払い、大切な戦況をどれ程台無しにしてきた?そのためにフェデリー国王がどれ程の賠償を私財を投じて賄ったかお前はしるまい。』
強く、悲しくケーシ将軍が口を開いた
『俺は目の前の敵兵を薙ぎ払ってきただけだろうが!なにが戦況だ!知らねーよ!目の前の敵をぶちのめす!それが戦争じゃねーかよ!平和ボケしてんじゃねーよ!!』
血に染った剣を高らかと掲げ、大罪人キリアは叫んだ
『どの道、キリア。君には消えて貰うよ。私は国王なんて呼ばれているけど、私はこの王国の法を守るだけ。そして、この王国の法を守らせるのが仕事なんだよ。罪人であっても、評議会員であっても、農民であっても、それは変わらない。』
フェデリー国王が冷たく大罪人キリアに伝えた
『ボス、俺が。』
フェデリー国王の言葉のあと、大きな大きな大剣を軽々肩に担いだケーシ将軍が前へ出た
『やってやるよ!なにが〈鉄壁の死神〉だっ!さっさと隠居しろよクソジジイがっ!』
血塗られた剣を構え、踏み込み、ケーシ将軍に切り込んだ大罪人キリアの攻撃速度は恐ろしく速かった
〈これが戦争の最前線に立って戦って来た武人か〉
俺は不覚にも、大罪人であるキリアの斬撃のスピード、威力、太刀筋に目を奪われてしまった
〈〈〈バギーーーっん!!〉〉〉
鋭い音がド田舎の山々にこだました
『いい太刀だ。しかし、軽い。背負う者を失い、罪人に落ちたお前はこんなものだろう。』
ケーシ将軍は避けもせず、漆黒の鎧で大罪人キリアの太刀を受けた
『…っ!くそっ!デバフさえ無ければ…』
サッと身を引き、大罪人キリアが唇を噛み締めた
『解り合えなかった事を悔しく思う。戦士キリアよ。俺の胸の内にだけ、お前の生きた事を覚えておこうぞ。』
そう言うとケーシ将軍は音よりも速い速度で大剣を振り下ろし、その大剣は、大罪人キリアと大地を割った
『ケーシ将軍、いつも汚れ仕事ばかりすまないね。』
ケーシ将軍の大きな後ろ姿にフェデリー国王が労いの言葉を投げかけた
『うむ。』
ケーシ将軍は小さく1つ、返信を返した
『あっ、あの!俺っ!2つ名が欲しいんです!!強くなりたいんです!!傭兵に参加させて下さいっ!!!王国の為に、働きたいんです!!』
俺の口は、俺の意識の追いつかない内に本心を言い放っていた
『それは頼もしいね。でも、特別扱いは出来ないんだよ。ごめんね。王国軍への参入方法、試験、ルートは知ってるね?』
優しい口調でフェデリー国王が俺に尋ねた
『知っています!いつか!大戦争でフェデリー国王とケーシ将軍と肩を並べて戦えるようになるまで、鍛錬し、強くなって見せます!!』
『うむ。頼もしい少年だな!名前は何と言う?いつか俺と肩を並べて戦う日が来るであろう未来の盟友の名を覚えておこう!』
ケーシ将軍は大きな右手で俺の血まみれのアゴを治癒魔法で優しく包みながら尋ねてきた
『ザナです!!まだ2つ名はありません!!』
『ふふふ。ザナか。覚えておこう。ケーシ将軍、私達もウカウカしていられないね、こうやって、若い芽がどんどん芽吹い行く。』
フェデリー国王が優しく微笑んでくれた
『そうですなボス。まだ死ねませんな、はっはっはっ!』
豪快に笑うケーシ将軍の声は山々に大きく轟いた




