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片腕の美徳  作者: stage
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第2話:理不尽

 2年後、幼馴染は永久禁固刑を受けた。この好奇の一報は、娯楽の少ない田舎の郷里 ー 流言飛語・世説風説が日常に飛び交うのに余りに優れた舞台 ー では、人口に膾炙するなど容易いものであった。王都の新聞の見出しにはあの子の名前と共に、

「偽聖女、王国・教会を混乱に陥らせる!!」

の文字が紙面に躍っていた。幼馴染の家族は、村八分を受けた。




 私は両親に、

「あの子はそんなことしない!」

と幼馴染を擁護した。偽聖女って何よ、幼馴染が聖女であると扇子で指したのは、他でもない聖女様でしょ!?街の地区の大人からも「礼儀正しいね」と言われるあの子が、粗暴な振る舞いをするわけがない。赤い短丈のスカートの裾をぎゅっと掴んで、地団駄は子供っぽいからと敢えてせず、でも眉は子供らしくない程に顰めてしまっていて、辛苦に満ちた表情のまま両親の前に佇んだ。朝の青白い斜光が嫌に綺麗だった。陽光に撫でられた足は、その白さを強調するように照らされていた。


 父は心底困ったような表情をして私の小さな頭を撫で、

「いいかい。あの子の家にはもう、行ってはならないよ。」

と言った。この頃の私はまだ幼かったから、父さえもあの子に意地悪をするのかと当惑した。あの子が永久禁固を受けるまでは、街の誇りと言ってくれていたのに。私の頭を撫でるのは決まって誉める時なのに。なぜ、今、宥めるように、私の頭を撫でるのか。


 母は私の両肩に冷たい手を置いて、

「お願いだから、今だけは言うことを聞いて。いつもの焼き菓子を食べよう。」

と言う。キッチンからベリーとクッキーの匂いがした。こうやって大人は、物で釣るのね。ご機嫌取りで、子供の胸中の話は終わると思っているのね。家族さえ頼れないなら、他に誰に頼ればいいのだろう。私は、イヤイヤ、と母の両手を払うように、身体全てを使って左右に大きく振った。顔を下に向けているから、身体につられてスカートの裾もフリフリと揺れているのが見えた。足は小さく綺麗に揃っていた。


 今思えば、あの時の目から溢れる涙は悲しみであり、寂しさであり、傍から見れば社会を知らぬ子供の滑稽さでもあった。不相応な望みが子供の特権であり、それを誰かに必死に伝えることが許された可愛らしさであり、不条理に観念して冷静と服従を纏った姿が大人と言うなら、私はそんなものに成りたくなかった。

 幼馴染をどうしても助けたかった。今すぐ王城のあの冷酷な地下牢から解放してあげたかった。手も足も首もお腹も、硬い鎖と分厚い枷に繋がれ、あの子は大好きなクマの人形を抱きしめることもできない、大好きなチューリップの芳香を嗅ぐこともできない、ただ無骨な石と鉄格子に包まれた世界で永久に閉ざされる、そんな刑罰。耐えるという意思さえ無為、そんな刑罰。物語や絵本で囚われの姫が閉じ込められる牢屋を、この時の私は想像していたけれど、その可愛いらしく甘ったるい空想でもなお、陽気で明るくて元気一杯の、可憐な女の子に対してこの仕打ち、あまりに酷だと思った。なぜ誰も疑問に思わないのだろう。どうしようもない巨大な理不尽に、この時の幼い私は、息を吸うのと吐くのに意識せざるをえない朦朧となった。


 この頃の私は、幼馴染の甲高い悲鳴が毎夜の夢の終わりに残響していた。額の真ん中の内側辺りである。起きてしまえば治るのが常であった。それなのに、朝を少し過ぎたこの時間にも、朦朧とする頭の中に、幼馴染のあの甲高い悲鳴が強く響くのはなぜだろう。煩い。これを早く取り除きたい。ごめん本当に、お願いだから鎮まって。そうすれば私は心地よく毎日を過ごせる。私への美徳となる。あら?そのために、幼馴染を助けたいのだろうか。純粋と打算、この頃はどちらが優位であったか。あるいは、打算的であるからこそ、純粋な思いさえ繕うことができたのか。




 まだ私が聖女でないこの直前期までを、私は、私自身が、無垢で純粋で少し打算的な、普通の子供であったと、そう信じたい。

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