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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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役立たずと追放された聖女、実は“本音”を浄化していたらしく、追放した瞬間にパーティが崩壊しました

作者: 白昼夢
掲載日:2026/04/01



「フィオラナ。君はもう必要ない」


 ——その言葉が発せられた瞬間。


 彼らの“心”は、静かに濁り始めていた。


 だが、このときはまだ誰も気づいていなかった。


 それが、取り返しのつかない選択だったことに。


 ◇


「……はい?」


 聖女フィオラナは、スプーンを持ったまま小さく首をかしげた。


 王都の朝は穏やかだった。


 窓から差し込む光。


 温かいスープ。


 整った食卓。


 ——ただ一つだけ。


 空気の奥に、言葉にできない“ざらつき”があった。


「君の浄化は非効率だ」


 勇者ヴァルグリードは、書類から目を上げずに言う。


「昨日の戦闘、毒霧の処理に三分以上。長すぎる」


「パーティの足を引っ張っている」


「……申し訳ありません」


 フィオラナは、素直に頭を下げた。


「もっと早くできるように——」


「必要ない」


 言葉は、冷たく断ち切られた。


「後任はすでに決まっている」


「紅蓮の魔導師イグニシアだ」


 沈黙。


 戦士グレンダムは、パンをかじる。


 隠密ヴィリカは、視線すら向けない。


 誰も——止めない。


「……そうですか」


 フィオラナは一瞬だけ目を伏せた。


 だが、すぐに顔を上げる。


 そして——微笑んだ。


「それは、とても良い判断だと思います」


 まるで、本当に嬉しそうに。


「では、もう私は必要ありませんね」


 その言葉に。


 ほんの一瞬だけ。


 ヴァルグリードの胸に、説明のつかない違和感が走る。


(……なんだ?)


 だが、すぐに切り捨てた。


 非合理な感情だ。


「退職金として金貨百枚を用意した。受け取れ」


「ありがとうございます」


 フィオラナは、深く頭を下げる。


 そして去り際。


 ふと振り返り、柔らかく言った。


「ヴァルグリード様」


「なんだ」


「心の濁りは、気づかないうちに溜まるものです」


 優しい声だった。


「鏡を見るときは、少しだけ“内側”も見てあげてくださいね」


「……問題ない」


 即答だった。


「俺は常に最適だ」


「……そうですね」


 フィオラナは微笑み、部屋を出ていった。


 扉が閉まる。


 その瞬間——


 何かが、完全に失われた。


 ◇


 ——そういえば。


 いつからだっただろうか。


 このパーティで、喧嘩が一度も起きていないことに気づいたのは。


 意見の食い違いはあった。


 戦術の衝突もあった。


 だが——決定的な対立にはならなかった。


 いつも、気づけば収まっていた。


 誰かが仲裁したわけでもない。


 無理に抑え込んだわけでもない。


 ただ、自然と。


 まるで最初から“そんな感情がなかったかのように”。


(……いや)


 ヴァルグリードは思考を振り払う。


 ただ相性が良かっただけだ。


 そう結論づける。


 ——その違和感を、見ないことにした。


 ◇


 三日後。


「本日よりお世話になりますわ」


 紅蓮の魔導師イグニシアは、優雅に一礼した。


 その周囲の空気は、熱で歪んでいる。


「期待している」


 ヴァルグリードは頷く。


「これで我々は完成した」


 ダンジョンへ向かう。


 かつて何度も踏破した場所。


 ——そのはずだった。


「敵影確認」


「イグニシア」


「ええ」


 杖が掲げられる。


「《爆炎の旋律》」


 轟音。


 閃光。


 魔物は一瞬で消し飛んだ。


「素晴らしい」


 ヴァルグリードは即座に評価する。


 確かに強い。


 圧倒的な火力。


 効率は明らかに向上している。


 ——なのに。


「……熱すぎるのよ」


 ヴィリカが舌打ちする。


「は?」


「周り見えてないでしょ。雑なの」


「結果が全てですわ」


「それがムカつくって言ってんの」


 空気が、ぴりつく。


 ——いや。


 刺さる。


 言葉が、異様に深く。


(……なんだ、この苛立ちは)


 ヴァルグリードは眉をひそめる。


 以前なら流せたはずの軽口が——


 異様に不快だ。


「無駄な口論はやめろ」


「その言い方よ」


 ヴィリカが睨む。


「前から思ってたけど、あんた人のこと部品としか見てないでしょ」


「……それが何か問題か?」


 自然に言葉が出た。


 そして——


 空気が凍る。


「ほらね」


 ヴィリカは吐き捨てた。


「やっぱ無理だわ、このパーティ」


 ◇


 違和感は、その日のうちに増幅した。


 視界の端が黒ずむ。


 呼吸が重い。


 仲間の存在が、やけに“邪魔”に感じる。


 理由はない。


 ただ——不快だ。


「……おかしくない?」


 ヴィリカが呟く。


「こんなにイラつくこと、今までなかった」


「気のせいだ」


 グレンダムが笑う。


 だが、その笑いもどこか引きつっている。


 ◇


 夜。


 焚き火の音だけが響く。


 誰も、話さない。


 話せば壊れると——分かっているからだ。


 だが。


 壊れた。


「不味い」


 グレンダムがスープを吐き出す。


「灰でも入ってんのかこれ」


「文句があるなら食べなくて結構ですわ」


「てめえの性格が一番不味いんだよ」


「……うるさい」


 ヴァルグリードが呟く。


「咀嚼音が耳障りだ」


「……あぁ?」


 空気が壊れる。


 完全に。


「……おかしいでしょ、これ」


 ヴィリカの声が震える。


「こんな風に思うはずない」


「……違う」


 ヴァルグリードの喉が震える。


「今まで“なかった”んじゃない」


 理解してしまった。


「消えていたんだ」


 沈黙。


「フィオラナが」


 全員の顔が強張る。


「俺たちの“本音”を……全部」


 ぞわり、と寒気が走る。


「じゃあ何? あたしたち——」


「今が本来ってことか?」


 誰も否定できなかった。


 ◇


「……正直、思ってたわよ」


 ヴィリカが笑う。


 乾いた、冷たい笑いだった。


「グレンダム、あんた邪魔だって」


「……は?」


「鈍いし、うるさいし、イライラするの」


「てめえ……!」


「私も同感ですわ」


 イグニシアが続く。


「存在が非効率ですもの」


 ——限界だった。


「死ねよ」


 その一言で。


 すべてが壊れた。


 ◇


 戦闘は、一方的だった。


 理性はない。


 連携もない。


 ただ——剥き出しの感情がぶつかる。


 怒り。


 嫌悪。


 軽蔑。


 それらすべてが、刃になる。


「やめろ……!」


 ヴァルグリードが叫ぶ。


 だが、自分の内側ですら止められない。


(俺は)


 剣を握る手が震える。


(何を切り捨てた?)


 効率。


 合理性。


 最適解。


 その言葉で——


 何を正当化した?


(あいつは)


 思い出す。


 いつも、そこにいた。


 何も言わずに。


 何も求めずに。


 ただ——当たり前のように。


(……当たり前じゃ、なかった)


 呼吸が乱れる。


「……フィオラナ」


 その名前を口にした瞬間。


 胸の奥が焼ける。


「戻ってきてくれ……」


 初めてだった。


 合理ではなく。


 感情で、誰かを求めたのは。


 だが——


 願いは届かない。


 すでに、壊れているからだ。


 ◇


 数分後。


 そこに“パーティ”はなかった。


 ただの残骸。


 壊れた人間たちの、末路だけが残っていた。


 そして。


 最後に残ったヴァルグリードは、膝をついていた。


「……なんでだ」


 分かっている。


 全部。


「……俺が、捨てたんだ」


 ◇


 数日後。


 辺境の村。


「フィオラナ様!」


 人々が笑っている。


 争いはない。


 怒りもない。


 不満もない。


 ——何もない。


「いい村ですね」


 フィオラナは微笑む。


「とても静かで」


 村人たちは、同じように微笑んだ。


「はい、とても優しい世界です」


 同じ言葉。


 同じ表情。


 まるで、写し鏡のように。


 子供ですら騒がない。


 ただ——穏やかに笑っている。


 どこまでも均一に。


「ここには、“嫌な気持ち”がありませんから」


 フィオラナは言う。


 その声には、確かな満足があった。


 ◇


「……フィオラナ」


 振り向く。


 そこには、ボロボロの男がいた。


 かつて勇者と呼ばれた存在。


「助けてくれ」


 迷いなく、地面に額を擦りつける。


「俺が間違っていた」


 震える声。


「全部だ……全部、間違ってた」


 沈黙。


 そして——


「……はい」


 あっさりと、肯定する。


「間違っていましたね」


 その言葉に、彼の肩が震える。


「だから……頼む……」


「ええ、大丈夫ですよ」


 フィオラナは、優しく手を伸ばす。


「もう、苦しまなくていいんです」


 額に触れる。


 その瞬間。


 ヴァルグリードの中から——


 すべてが消えた。


 怒りも。


 後悔も。


 罪悪感も。


 “自分”という重さすら。


「……ああ」


 澄んだ目。


 何もない瞳。


「フィオラナ様」


 穏やかな声。


「とても……楽です」


「それは良かったです」


 心から嬉しそうに微笑む。


「本音なんて、ない方が優しい世界になりますから」


 その言葉に。


 違和感を覚える者は、もういない。


 ◇


 その頃——王都では。


 些細な口論が、殺し合いに変わっていた。


 家族が。


 友人が。


 恋人が。


 互いに刃を向ける。


 誰も止められない。


 本音が、溢れ続けるからだ。


 ◇


 王都だけではない。


 地方でも。


 辺境でも。


 同じことが起き始めていた。


 誰も気づいていない。


 ただ一人の聖女がいなくなっただけで——


 世界の均衡が、崩れ始めていることに。


 ◇


「……ふふ」


 フィオラナは空を見上げる。


「世界は、とても優しいですね」


 その笑顔は。


 救いのようで——


 どこまでも、歪んでいた。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
聖女様はどんな神の聖女なんですかねぇ…まるで精神蝕む毒霧浄化として接触させないようにして抵抗力下げて勇者にすら影響力出たら解除して一気に毒霧蔓延させて国を滅ぼしてるようにみえるんですが… 
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