表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【短編小説】境界の守人―対馬退魔譚―  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第五章 卜部の秘儀

 卜部神社の書庫は、本殿の地下にある。湿気を避けるため、床は高く、壁は厚い。中には、何百年も前の古文書が、桐の箱に入れられて保管されている。


 蒼月は、一番奥の箱を開けた。


「これが、卜部神道の奥義書だ」


 箱の中には、巻物が入っていた。紙は茶色く変色し、端は擦り切れている。しかし文字は、まだ読める。


 紅蓮は、巻物を覗き込んだ。


「読める? すごい古い字だけど」


「……読める」


 蒼月は、巻物を広げた。


 そこには、境界神についての記述があった。


「永正年間、対馬海峡に異変起こる。海が裂け、その裂け目より巨大なる神出づ。その神は、日ノ本の神にあらず、異国の神にもあらず。境界より生まれし、境界そのものなり」


 蒼月は、声に出して読んだ。


「日ノ本の術者と、異国の術者、力を合わせて封印を施す。しかし、この封印は永遠ならず。数十年ごとに、再び鎮めの儀式を行わねばならず」


 紅蓮が、割り込んだ。


「で、その儀式の方法は?」


 蒼月は、ページをめくった。


 しかし、そこから先は、破れていた。


「……ない」


「え?」


「儀式の具体的な方法が、記されていない。いや、破られている」


 蒼月は、破れた跡を指でなぞった。


 明らかに、意図的に破られている。誰かが、この知識を隠そうとした。


「なんで……」


「……わからぬ。しかし、これでは術が再現できぬ」


 蒼月は、巻物を閉じた。


 紅蓮は、しばらく考え込んでいた。そして、顔を上げた。


「じゃあ、創るしかないわね」


「……創る?」


「そう。昔の人ができたなら、私たちにもできるはずでしょ。日本の術と、朝鮮の術、組み合わせれば」


 蒼月は、紅蓮の目を見た。


 そこには、恐れがなかった。


 代わりに、確信があった。


「……そなたの術を、教えてくれ」


 蒼月は、初めて、そう言った。


 紅蓮は、にっこりと笑った。


「いいわよ。じゃあ、あんたも私に教えてね。卜部神道の、秘密の術」


 二人は、その日から、互いの術を学び始めた。


 蒼月は、紅蓮に亀卜の方法を教えた。亀甲の焼き方、ひび割れの読み方、祝詞の唱え方。紅蓮は、最初は上手くできなかった。火の加減が強すぎて、甲羅が割れすぎる。しかし、何度も繰り返すうちに、徐々にコツを掴んでいった。


 紅蓮は、蒼月に神降ろしの舞を教えた。鈴の振り方、足の運び方、呪文のリズム。蒼月は、最初は硬かった。体が、舞に慣れていない。しかし、紅蓮が手を取って導くと、徐々に動けるようになった。


「もっと力を抜いて。舞は、戦いじゃないの。神様との対話なの」


 紅蓮の声は、優しかった。


 蒼月は、初めて、術が「楽しい」と感じた。


 それは、父から学んだときには、なかった感覚。


 父との修行は、厳しく、苦しかった。しかし、紅蓮との稽古は、何か軽やかなものがあった。


 二人の術が、混ざり合っていく。


 蒼月の青白い光と、紅蓮の赤金の光が、徐々に同調し始めた。


 しかし、その時。


 事件が起きた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ